レンジマトリクス方式による賃金管理とは(4)
さて、賃金の金額レンジそのものを改定(引き上げてベースアップを実現)する方法の例として、表5をご紹介します。
これは、表1のレンジにベースアップを反映させてみたものです。つまり、31万円から40万円という金額幅を33万円から45万円に引き上げて、3つのバンドの幅も3万円から4万円に拡大することで、文字通り、ベースアップ(基準額の引き上げ)を実現しています。
表5:表1のレンジにベアを反映させた場合(昇給率表示) |
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-1.0% |
-0.5% |
0.0% |
2.0% |
4.0% |
41 |
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-0.5% |
0.0% |
2.0% |
4.0% |
6.0% |
37 |
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0.0% |
0.5% |
4.0% |
6.0% |
8.0% |
33 |
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D |
C |
B(標準) |
A |
S |
さて、賃金が33万円で昇給考課がAだった場合と、賃金が38万円で昇給考課がCの場合を比較してみましょう。
すると、前者は349,800円、後者は38万円のままになります。5万円だった賃金格差は、30,200円となり、縮小はしますが、まだそれなりに残っていると言えそうです。
実は、この方式は賃金レンジそのものを上げるため、減速域を標準域に、標準域を加速域にする場合があり、もともと賃金が高い方にも昇給原資が配分される効果があります。したがって、表3や表4ほどは、ベースアップの原資が加速域に重点的に配分されるわけではありません。その結果、もともとあった賃金格差が縮小される程度は、相対的に小さくなりがちです。
最後に、表5を金額で表示してみましょう。
表1から表2を作成した時と同様に、この表もレンジの中央値(39万円)に対して昇給率を乗じて得られる数字を昇給額としています。
表6:表2のレンジにベアを反映させた場合(昇給額表示) |
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-3,900 |
-1,950 |
0 |
7,800 |
15,600 |
41 |
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-1,950 |
0 |
7,800 |
15,600 |
23,400 |
37 |
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0 |
1,950 |
15,600 |
23,400 |
31,200 |
33 |
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D |
C |
B(標準) |
A |
S |
賃金が33万円で考課結果がAだった場合と、賃金が38万円で考課結果がCの場合は、すぐにおわかりのように、前者は23,400円の昇給があるのに対して後者は昇給も降給もないため、5万円の違いが26,600円の差に縮まります。
一般にベースアップが広く行われている状況では、賃金相場そのものが上昇していることが予想されます。その場合、表5や表6のようにレンジそのものを見直して、自社の賃金水準を社外の賃金水準と調整することが必要となります。表3や表4では、そうした機能はないため、ベースアップを行っているはずなのに相場よりも低い賃金になってしまう場合もあります。
表5や表6のように賃金レンジを上方に移動させてベースアップを反映させる方法は、表3や表4のようにベースアップを直接、昇給に反映させる方法に比べて、賃金格差を縮小させる効果はやや小さいといえます。しかし、社外の賃金水準とのずれを調整する効果は、確実にあります。
このふたつの調整は、一度にまとめて行うことも可能です。
つまり、レンジを引き上げると同時に、昇給(率または額)にもベースアップ相当のものを織り込んで、通常の昇給よりも大きく反映させることによって、二つの調整を一回の昇給で実現することができます。
ただし、その分、より多額の昇給原資が必要となります。実際に行うには、個人別の昇給シミュレーションを実施して、原資に及ぼすインパクトを事前に算定しておかなければならないということは、改めて言うまでもないでしょう。
作成・編集:人事戦略チーム(2015年4月1日更新)