賃上げをすると格差が広がる?
毎年、年明けから春にかけて、賃金を引き上げるか、引き上げるならばどの程度アップさせるのか、話題になります。いわゆる賃上げです。
賃金が上がることは、個人にとっては喜ばしいことでしょう。ただ、昇給のやり方によっては、企業内の賃金格差(全社員が同一の賃金額ということはまずありえないでしょう)が拡大したり、縮小したりします。
いわゆる定期昇給を賃金体系としてもっている企業では、定期昇給だけを実施している分には、賃金の格差(たとえば22歳・大卒初任給に対する40歳・課長や50歳・部長の賃金の違い)は、金額差としても比率の違いとしてキープされていることになります。定期昇給のこうした機能を賃金構造維持などと呼ぶことがあります。
言い換えれば、今年の40歳課長と前年の40歳課長では、昇進・昇格のスピードなどの条件が同じであれば、人が違っても同じ賃金になります。同一の個人の賃金は、一定のルールに従って昇給するでしょうから、毎年異なった金額となります。
同じ賃上げといってもベースアップは、定期昇給とは賃金体系上の機能が異なります。
仮に、月例賃金が20万円・30万円・40万円の3人がいるとします。
この3人が等しく3%昇給するとしましょう。
そうすると、206,000円・309,000円・412,000円になります。
もともとあった10万円ずつの差が、103,000円ずつの差になりました。一見すると格差が拡大しているように思えます。
一方、指数(30万円を100とした時の百分率)で考えてみると、約66.67:100:約133.33となり、まったく変化していません。つまり、格差が維持されていることになります。
これが昇給率管理の特徴です。賃上げの管理指標を昇給率で行うと、このようになります。
次に、同じ3%の昇給でも、この3名の平均給与額である30万円の3%に相当する9000円を各人の昇給額とした場合をみてみましょう。
この場合、209,000円・309,000円・409,000円となり、10万円ずつの差は維持されています。一見、格差は広がっていません。
しかし、元の格差を指数(30万円を100とした時の百分率)で考えると、30万円から見ると、20万円は約66.67、40万円は約133.33です。
それが、昇給後には、約67.64と約132.36となりまり、格差は僅かながら縮小しています。これが昇給額管理の特徴です。
以上をまとめると、次のようになります。
昇給率(3%昇給)を管理指標として賃金制度を運用していくと、賃金の金額差は拡大していきますが、賃金の構造(指数でみたときの格差)は維持されているだけで、決して拡大しているわけではありません。一方、昇給額(9000円昇給)に着目して賃金管理を行うと、賃金の金額差は広がりませんが、構造面では格差を縮める方向に働いていることになります。
ここまで述べてきたことは、いわゆる正社員を暗黙の前提としての話です。非正規社員については、正社員のベースアップに相当する賃上げを行わない限り、正社員との間の賃金格差は拡大することになります。
もし、非正規社員の賃金が社外水準や職務内容などから勘案して明らかに低いとか、正社員の賃金との格差が既に大きすぎるという問題状況にあるのであれば、少なくとも昇給率管理を実施して、そのような課題を少しでも解決していく方向性を打ち出す必要があります。
作成・編集:人事戦略チーム(2015年3月3日更新)