賃上げはどのように行われるのか?
賃上げが実施されるとして、それはどのような形で行われるのでしょうか。
月例賃金のうち基本給については、通常、賃上げは定期昇給とベースアップ(ベア)という二つの方法で行われます。
定期昇給というのは、「会社は毎年1回(または1回以上)社員の賃金を昇給する」という意味をもつ条項が、就業規則や賃金(給与)規程などに明記されており、それが実際に適用されているものをいいます。
会社によっては明文化された規定がなく、人事慣行として現実に長年、毎年決まった時期に昇給させてきている場合もあります。これも定期昇給といいます。
言い換えれば、定期昇給というのは、会社の確立したルール(制度)として運用される昇給です。この点、役職制度や資格制度の運用に伴う昇給、つまり、昇進昇級や昇格昇給と同様といえますが、定期昇給は昇給の対象となる社員が多い(いわゆる正社員全員ということが珍しくもない)という特徴があります。
実態的には、そもそも賃金表がない企業も少なくありません。もし、就業規則や賃金規程のどこかに定期的に昇給を実施する旨の条項があれば、「定期的な」昇給はルール(制度)化されているといえますが、次に述べるベースアップとの区別はできません。賃金管理上、定昇とベアがセットになって行われていると理解することになります。
もうひとつの賃上げ方法であるベースアップ(ベア)というのは、会社の確立したルール(制度)として昇給を実施するものではありません。その年、その時点において、経営判断として大多数の社員を対象に昇給を実施することをいいます。
具体的には、賃金表にある金額そのものを上方に書き換えること、または、社員ひとり一人の賃金の額を増額することです。
前者であれば、たとえば「主任級3号俸」は月額10万円だったものが、新年度から月額11万円(1万円・10%の昇給)となる、といったことです。後者であれば、「正社員の基本給は4月から一律に1万円増額」とするような場合です。
定期昇給と違ってベースアップ(ベア)というのは、そもそも昇給を実施するかどうか、また実施するとしたら昇給の幅(学・率)をどの程度として実施するのか、昇給を実施する時期はいつにするのか、などの昇給の詳細は、その時々の会社の業績や賃金相場の動向および労働組合との交渉状況などにより、さまざまに変わります。ルール(制度)ではないので、詳細は事前にはわかりません。
さて、ここで次のような会社を想定して賃上げの計算をしてみましょう。金額や人数など、数字は全て仮定のものです。
・社員は21歳から60歳まで、各年齢に1名(合計40名)
・基本給(月額)は年齢と同じ数に1万円を乗じた金額
(21歳で21万円、40歳で40万円、60歳で60万円、という究極の年齢給の体系と仮定します)
・基本給は年齢の上昇により自動的に毎年4月に昇給(1万円の定期昇給)
・今年のベースアップは2%
この会社の平均基本給は、405,000円なので、定期昇給の10,000円は率に直すと約2.5%となります。今年のベースアップは2%なので、平均的なベア金額は8,100円(405,000円の2%相当額)となります。
ここでベースアップを、単純に基本給の2%アップとして実施したとしましょう。つまり、現在の基本給の金額に1.02を乗じて得られた金額に、基本給表を書き換えてみます。
すると、現在21歳の社員は、新年度は22歳になりますから、224,400円(220,000円の1.02倍)が新年度の基本給となります。昇給額は14,400円(定昇分10,000円を含む)、昇給率は約6.9%(定昇分約4.8%を含む)です。
同様に、現在50歳の社員は、新年度の基本給が520,200円(510,000円の1.02倍)、昇給額は20,200円(定昇分10,000円を含む)、昇給率は約4.0%(定昇分約2.0%を含む)となります。
また、新年度に21歳で新規に採用する社員がいれば、その初任基本給は214,200円(210,000円の1.02倍)となります。これもベースアップの効果です。
ここで注意していただきたいのは、現在は1歳で10,000円の差が付いていたものが、新年度(ベア後)では1歳で10,200円の差となっていることです。一見、金額差が拡大したように思えるかもしれませんが、平均賃金(413,100円)に対する昇給率は約2.5%で、現在と変わっていません。一律にベースアップの原資を配分したため、賃金格差が維持されていることがわかります。
作成・編集:人事戦略チーム(2015年2月19日更新)