2015年7月より8月にかけて掲載した、トラスト&パッションカンパニー株式会社 才田淳一氏のインタビューを、以下にご紹介いたします。

才田淳一氏スペシャル・インタビュー

第1回「採用する側はここを見ている~中途採用市場で勝ち抜くには」

トラスト&パッションカンパニー株式会社  代表取締役 才田淳一氏
トラスト&パッションカンパニー株式会社  代表取締役 才田淳一氏

 さまざまなベンチャー企業の「人材・組織・働き方」をご紹介していくインタビューの第3弾。

 

今回は、ブライダル業界、アパレル業界、医療・介護業界に特化して、人材紹介サービスを提供する、トラスト&パッションカンパニー株式会社 代表取締役 才田淳一さんにお話を伺いました。

 

― 新卒採用は売り手市場などと言われていますが、中途採用はいかがでしょうか。

 

才田さん 基本的には、中途採用の人材市場も活況です。政策的なこともありますが、リーマンショックをボトムにとして、近年は順調といえそうです。企業業績が良くないと、人材ビジネスは成り立ちませんから、このところの好業績は、望ましい傾向です。

 

― 企業としては、むしろ、人材確保が大変ですか。

 

才田さん 業種・業態や職種にもよりますが、全般的にいえば容易ではないでしょう。

 

― 求職者から見れば、就職や転職はやりやすいのでしょうか。

 

才田さん これまでの仕事でしっかりとした実績を上げてきている人であれば、次の仕事を見つけることは難しくないと思います。

ただ、そうでない人は、厳しいと言わざるを得ません。実際、20社にエントリー・シートを送って、34社から面接に呼ばれれば上出来です。全くないことも、中にはあります。

 

― 企業はどういう人を求めているのでしょうか。

 

才田さん 言うまでもないことですが、誰でもいいから、就職を希望してきた人を採る企業など、まともな企業であれば、まず、ありません。必要としているポジションや職務内容などにあった人を採りたいのは当然ですし、採用後にどのように業績に貢献してくれるのか、具体的なイメージが浮かぶ人でないと、積極的に採用することはないでしょう。

 

― こういう人であれば企業は採らない、という具体的な条件はありますか。

 

才田さん まず、まともな履歴書が書けない人は無理です。パソコンすら使い慣れていないのでしょうか、弊社に登録する段階から、明らかに、ビジネスパーソンとして仕事をしてきたとは、思えない人もいます。

また、当然のことですが、約束を守れない、コミュニケーションがきちんと取れない人も厳しいです。中途採用ですから、社会人としてのベースがあるのは、最低限、求められますね。

 

― 学歴は、採用基準になりますか。

 

才田さん 出身大学のレベルは、企業の人事部門としてチェックするポイントではあるでしょう。ただ、有名校だからといって、それだけで採用するとババを引くことがありますから、他の要素も勘案して判断することになります。

 

― 中途採用をするにあたって、マイナスと考える要因というと、どのようなものがありますか。

 

才田さん 自分の経験からみると、転職を何回か繰り返すのは構いませんが、そのたびに給料が低下してきたということになると、採用される確率は低いですね。

また、ネガティブな退職理由も転職にはマイナス要因といえます。30歳を過ぎても派遣でしか働いたことがないというようなケースも、正社員としての採用は難しいように思います。


キャリア・コンサルティングを行う才田氏
キャリア・コンサルティングを行う才田氏

― 採用される人には、何か特徴とか共通点みたいなものはありますか。

 

才田さん 履歴書のベースでいえば、ご本人の経歴と、志望動機とか自己アピールがリンクしていることでしょう。現職・前職でこういうことをやっていたから、貴社ではこの職種で、その経験を生かして、こういう成果を上げていきたい、というストーリーがきちんと描ければ、いいのです。年齢が高くなるほど、自分の得意なことや好きなことをストーリーに織り込んで、しっかりとアピールできることが求められます。

 

― 面接でのポイントは?

 

才田さん 今の仕事を辞める理由、これまでの退職・転職の理由や経緯、これまでに上げてきた実績、今後のキャリアとしてどのようなものをイメージしているのか、こうしたことを淀みなく語ることです。

もちろん、年齢によって多少の違いはあります。20代前半から半ばくらいであれば、実績といっても、与えられた仕事をきちんとやり遂げた、ということで構いません。30代ともなると、転職の回数が3回程度までなら転職理由がしっかりしていれば問題ありません。ただ、45回となると、ヘッドハンティングされてこういう実績を上げたといった、語るべき成功体験がないと、採用は難しいでしょう。

 

― 企業が今、最も求めている人材というと?

 

才田さん ちゃんとマネジメントができる管理職です。年齢的には30代から40代前半でしょうか、こういう層が薄いので、困っている会社が多いのです。

ただし、管理職経験があればいいというものではありません。その中身がしっかりと吟味されます。

営業のマネージャーであれば、営業だけではなくて、営業事務や経理などバックオフィスの経験もあって、営業チームを管理するだけでなく、他の部門との連携も取れるような人です。これまでに何人のチームを率いて、営業数字だけでなく人材育成なども含めて、どのような実績を上げてきたのか、しっかりと説明できるような人でないと、採用は難しいでしょう。

 

― 事務系では、どのような人材が求められていますか。

 

才田さん たとえば、経理のマネージャーと一口にいっても、業種や業態の違い、企業規模の違い、上場会社かオーナー会社か外資系かといった違い、本社経理なのか工場や支店の経理なのか、いろいろの違いがあります。

その中で、連結決算の実務や監査法人との折衝など、一定のレベルが求められます。また、単に実務を処理するだけでなく、何らかの改善に自らイニシアティブをとって動いて、会社全体や関連部門に波及するような成果を上げたことなど、アピールできる実績がひとつやふたつは欲しいですね。

 


第2回「関わった人を変える~人材ビジネスを起業した理由」

トラスト&パッションカンパニー株式会社  代表取締役 才田淳一氏
トラスト&パッションカンパニー株式会社  代表取締役 才田淳一氏

自らも販売やサービスの経験が長い、才田淳一さん(トラスト&パッションカンパニー株式会社 代表取締役)のインタビュー。

2回は、起業されるまでの経緯を中心に、お話を伺いました。

 

― 才田さんご自身も転職経験が豊富だそうですね。

 

才田さん 若いころからファッションが好きでした。借金をしてでも、欲しい服は手に入れたいと思って、背伸びしてファッションにお金を使っていました。

 

― それでアパレルに?

 

才田さん 重衣料を扱う会社に最初は勤めました。それから、外資系も含め、アパレル系の会社に複数、勤務しました、アパレルだけでなく、ゲーム関連や大手不動産会社関連のサービス企業などでも、店舗やサービスに関わる仕事をしてきました。

その間に、SV(スーパーバイザー)やマネージャーの経験を積んだり、販売スタッフの教育などを担当したり、人に関わる仕事を続けてきました。

 

― なぜ、独立して起業する道を選ばれたのですか。

 

才田さん いろいろな会社で仕事をしてきた中で、人と関わって、その人が変わっていく経験をいくつもしました。特に外資系の経験から、自分も変わってきたことを感じましたし、オーナー系の経験から人や組織を変えていく面白さを実感できたことありました。そういう仕事をもっとやっていきたい、というのが独立・起業した背景にあります。

 

― 独立するにあたって、どなたかに相談とか、協力を仰いだりとかされましたか。

 

才田さん 独立する直前に勤めていた時の上司が、私の希望を聞いて、3名ほど投資やビジネスのプロを紹介してくれました。

一人目の外資系投資銀行出身の人にビジネスプランを見せに行ったのですが、けちょんけちょんにやられました。二人目も同様で、売上見通しや市場規模などを次々と訊かれても、満足に答えたり、反論することもできず、諦めかけました。三人目のメガバンク出身者に話をしたときに、自分なりにある程度の説明ができるようになり、ようやく本当にチャレンジする気が出ました。

 

― 人材紹介というビジネスで起業しようとされた理由は?

 

才田さん どうしても大手のエージェントでは、企業側の担当者と人材側の担当者では、別々になってしまい、企業と人を結びつける醍醐味が感じられないのではないでしょうか。また、親身のコンサルティングと謳われてはいるものの、転職する人も満足のいく助言や結果を得られないことが多いように感じます。

私自身、大手のエージェントに依頼したこともありますが、満足できた経験が記憶にありません。

 

― 自ら顧客ニーズを実感されたわけですね。

 

才田さん そうですね。

大手エージェントの優位性を述べると、求人数の多さです。この部分においては中小のエージェントは太刀打ちできません。ですので、我々はコンサルティング力ときめ細かなフォローアップ等で差別化を図るべきかと考えております。

それに、小規模なほうが、企業にも転職者にも適切なアドバイスができるということはあります。収益的には大変ですが。

 

― 人材紹介サービスを利用する上で、企業が留意すべきことは何かありますか。

 

才田さん 企業サイドのニーズをしっかり把握し、紹介してくれるエージェントか否かということです。当然のように思われますが、実際にはこれがなかなか難しいことなんです。

企業担当の営業と求職者対応のコンサルが別々な企業もあり、そうなると細かなニーズを理解して推薦することはとても難易度が高くなります。ダイレクトなコミュニケーションにおいても、パーフェクトな意思の疎通は難しいのに、そこに人を介して伝えていくことの難しさは言わずもがなですね。ミスマッチが起きてしまう、大きな要因です。


オフィスにて
オフィスにて

― 御社の特徴というと、特にどのあたりでしょうか。

 

才田さん 弊社は、完全成功報酬ということで、ご紹介した方が一定期間、勤務を継続されなければ、紹介料をお返しする場合もあります。

当然ですが、そうならないように、会社にも転職希望者にも、十分に納得して採用・入社していただけるように、丁寧にコンサルティングをさせていただきますし、入社された後も、アフターフォローを適宜させていただきます。

もちろん、営業からコンサルまで一気通貫ですので、コンサルタントが企業様のニーズをしっかり把握した上で、求職者を推薦致します。

 

― 中途採用について、企業の姿勢に変化を感じるところはありますか。

 

才田さん 以前にもまして、採用する側にも、いろいろな経験やデータが蓄積されています。たとえば、適性検査も新卒だけでなく、幹部候補の中途採用でも実施することで、自社にあった人材かどうか見極めようとしています。

 

― 会社とのケミストリーや、中途採用者の社風への相性などを見ているのでしょうか。

 

才田さん そうです。実績のある人を採用するといっても、一匹狼タイプの人なのか、チームプレイを重視するタイプなのかによって、採るべき人材は大きく異なります。自社にあったタイプでないと、会社も困りますから、中途でも選考プロセスは多様です。面接だけで、すぐに採否が決まるわけではありません。

 

― 転職といっても、エントリー・シートを提出したからといって、自動的に面接に至るわけではないですね。

 

才田さん ですから、転職希望者に敢えて厳しいことも言わせていただくこともあります。

営業経験者から資格を取って士業に登録するといった人も、よく見かけますが、資格があるから転職します、というわけにはいきません。経歴や話の内容から、資格取得が営業からの逃げになっているような人では、独立も再就職も厳しいことを自覚していただきます。

 

― 厳しいアドバイスが、御社のサービス・クオリティですね。

 

才田さん 特に女性についてありがちなことですが、出産や育児で仕事へのブランクができてしまうのは、しかたがないことです。しかし、それが10年ともなると採用する側も二の足を踏んでしまいます。ブランクとはいっても、ちょっとした事務のアルバイトでもいいので、何か仕事をしていたというものがあれば、採用する側は前向きになれます。

 

― やはり、実務経験がアピール・ポイントでしょうか。

 

才田さん 実務経験に併せて、資格取得もできたとなると、キャリアアップにつながる可能性が大きくなります。同じ資格取得といっても、それぞれの求職者の経歴や置かれている状況によって、採用しようとしている企業にアピールするかどうかは、大きく異なります。


第3回「キャリアステップとしての転職があってもいい」

トラスト&パッションカンパニー株式会社   代表取締役  才田淳一氏
トラスト&パッションカンパニー株式会社   代表取締役  才田淳一氏

 販売職やサービス職ならではのキャリアプランの実現に向けて、トラスト&パッションカンパニーを起業された才田さん。今回は、サービス業で働く人たちのキャリアプランの考え方を中心に、お話を伺いました。

 

― 人材紹介といっても、業界をブライダル・アパレル・介護・医療と絞られていますが?

 

才田さん 販売やサービスの業界にずっと身を置いてきて実感するのは、販売職やサービス職の社会的な地位をもっと向上させたい、ということです。

地位を向上させるといっても、具体的な方法というと、一企業の枠の中でキャリアを考えている限り、なかなか難しいのが実感です。いくつかの企業、特に成長段階にある企業に転職していくことで、自分のキャリアを発展させる、という考え方ができるのではないか、そのためには、自分がエージェントとして販売職やサービス職の人たちのキャリアプランを具体化する手伝いができるのではないか、と思ったのです。

もちろん、大手のエージェントと同様に、全ての業界、全ての職種というのでは、差別化も図れません。そういうビジネスモデル上の理由もありますが。

 

― サービス業のキャリアについて、典型的なものがあれば、教えてください。

 

才田さん 特に接客を伴う業態の場合、サービスや販売のスタッフで入社するところから、キャリアが始まります。そして、販売やサービスのスタッフとしてのスキルやノウハウを実務やトレーニングなどを通じて身につけ、店長などの責任者になります。そこからは、SV(スーパーバイザー)やトレーナーなどを経て、管理職に昇進していくのが標準的なものです。

 

― スタッフで採用された人が全員、店長、ましてや管理職になれるはずはないと思いますが。

 

才田さん 店の数が増えなければ、その通りです。いくら本人が実力を身につけ、経験も積み、結果も十分に出してきたといっても、空きがなければ昇進できません。通常は、ピラミッド型の組織構造ですから、当然のことです。

 

― それでは、キャリアが行き詰ってしまいます。

 

才田さん そこで、腐るのではなく、自分でキャリアを伸ばしてほしいのです。販売やサービスのビジネスは、昨日は勝ち組ともてはやされても、今日は負け組になっていることが、実によくあります。

反対に、今日、注目を集めているブランドといっても、昨日までは誰も知らないことも珍しくはありません。そういうビジネスに関わっている以上、自社のなかでキャリアアップのチャンスがないと思えば、積極的に外にキャリアを求める気概が欲しいです。

 

― そういう人材であれば、御社のサービスで次のステップを紹介できるわけですね。

 

才田さん もちろんです。今すぐにでも店長くらいできる、SVだってやってやる、という自信があるのなら、成長途上の他社に移るという選択肢を、絶えず意識しておいて欲しいものです。

 

― それだけの自信がある人は、他社も戦力として見るということですか。

 

才田さん もちろん、この話の前提として、会社がきちんとした教育を行ったり、管理職や店長がスタッフ一人ひとりをちゃんと指導したりすることが必要です。

少なくとも新卒を正社員として採用した以上は、10年後のキャリアを具体的に提示することが、会社として果たすべき最低限の義務ではないでしょうか。それができないのであれば、人を雇う組織として無責任と指弾されても、文句は言えないでしょう。

 

― 会社が社員を教育・指導するといっても、どういうことを身につけさせればいいのでしょうか。

 

才田さん サービス職や販売職は、労働生産性がとても重要です。特に現場のマネジメントには欠かせない視点です。ところが、ブライダルや医療・介護の業界では、顧客の感動や感謝があれば、それだけで大満足という人がけっこういます。

売上と利益、労働生産性を十分に考えた人員配置、こういうものを睨みながら、笑顔でサービスを提供できるようにならなければ、キャリアアップは難しいでしょう。


販売職・サービス職のキャリアについて論じる才田氏
販売職・サービス職のキャリアについて論じる才田氏

― 顧客満足度を向上させれば、売上や利益は後からついてくる、というわけではないのですか。

 

才田さん 業界特性なのか、顧客やスタッフとの感情のやりとりに終始してしまい、結局、頑張りすぎて自分に負荷が返ってきてしまうのです。算盤勘定ができないのか、そういう視点をもて、と教えられてこなかったのか、労働生産性を上げることで、利益を上げて処遇水準を上げていくとか、過重な労働を軽減するといった発想がないと、マネジメントとは言えません。

 

― 店長の存在価値とは?

 

才田さん ずばり、スタッフのマネジメントです。

サービスや販売の現場は、物理的な制約条件や契約内容などは変えられません。その環境下で、突き詰めていえば、人と時間しかコントロールできるものがない状況のなかで、いかに顧客の満足を得られるように仕事をやり遂げるか、が問われることになります。

そこが現場のマネージャーの腕の見せ所です。

 

― やはり、店長のマネジメント・スキルは大事ですね。

 

才田さん 店長の役割を一つだけあげるとすれば、11時間当たりの労働生産性にフォーカスしたマネジメントを実現することにつきるでしょう。

販売現場であれば、この1時間でスタッフ一人ひとりがいくら売り上げたのか、サービスであれば、この1時間でスタッフ一人ひとりが何件処理できたのか、こうしたことを絶えず追求しなければなりません。放っておくと、顧客満足度の向上のほうばかりに、スタッフの頑張りが偏ってしまいがちです。

 

― 確かに疲れすぎていては、次の顧客サービスが実現できませんね。結局、売上や利益もダウンしてしまいます。

 

才田さん 一方で、販売やサービスの仕事は、マニュアルどおりやればいいというものでもありません。ひとつひとつの動き方の意図や狙っている効果を合理的に説明できる、そういう意味での論理性が必要です。

ここには、顧客満足と労働生産性のふたつの視点があります。

こうしたことを、現場で、一人ひとりのスタッフに応じて、きめ細かく教えるのが店長の仕事です。現実には、店長の役割として、そういうことを教育している企業は少ないかもしれませんが。


第4回「人材を育成する仕組みがあってのサービス業」

トラスト&パッションカンパニー株式会社  代表取締役 才田淳一氏
トラスト&パッションカンパニー株式会社  代表取締役 才田淳一氏

販売やサービスのプロとしてのキャリアを活かして、トラスト&パッションカンパニーを起業された才田さん。最終回は、サービス業の経営手法について人事の面から解説していただきました。

 

― 人事や人材の面からみて、販売やサービスの業態に特徴的なことは何でしょうか。

 

才田さん 自分が知る限り、オーナー会社ほど、人事や経理のスタッフでも、少なくとも1年は、販売やサービスの現場に出してフロントの実務経験を積ませる傾向があるように思います。

自社の売りが何か分かっていないと、バックオフィスの仕事もできない、というのが実感です。また、バックオフィスのマネージャーなどが、月に何回か現場を回ることや、SVを代行することなどをルールとしている会社もあります。

 

― 現場と本社・管理部門が一体化して動かないといけない業態ですね。

 

才田さん 一般的にいって、サービス業や販売業には、3つの経営手法が有効ではないでしょうか。マインドで経営するもの、仕組みで対応するもの、カルチャーにまで高めるもの、この3種類です。

 

― それぞれ、ご説明いただけますか。

 

才田さん まず、マインドで経営するものですが、これはブランドそのものだったり、創業オーナーの個人的なキャラクターだったり、マインドの中核はいくつかありますが、その会社に入社してくる人たちがもっているマインドが、マネジメントの中心にあるものです。

 

― マインドがマネジメントの中心?

 

才田さん 中心というよりも、イコールというべきかもしれません。実際、まさしく入社と同時に、マインドのレクチャーは始まります。それなりに成功してきた、小売業やサービス業の会社は例外なく、そうでしょう。

 

― 確かに、アルバイトや管理部門でも、ブランドやカルチャーを叩きこむところからスタートする会社が多いようですね。

 

才田さん 不思議なもので、感動、ホスピタリティ、おもてなし、こういったことを主唱する企業であればあるほど、サービスの現場だけでなく、人事や経理などのバックオフィスでも、人材のタイプは現場と同じ感じになります。多分、現場でなくても、同じマインドをもった人たちが社員となっているのでしょう。

 

― そうならないと、人事管理もできませんね。

 

才田さん たとえば、ブライダル業界に入ってきてブライダル・プランナーになろうという人には、共通の価値観といいますか、お客さんと一緒に感動したいといったモチベーションが共通に見てとれます。

このビジネスモデルでは、現場では館長(店長)がしっかりしていれば、マインドが共通ですから、仕事はできますし、現場はちゃんと動きます。ただ、館長(店長)が労働生産性を頭に入れて、売上や利益を管理できるだけのスキルがないと、マインドだけで頑張ることになりますから、過剰なストレスや長い労働時間といった問題に陥りがちです。

 

― いわゆるブラック企業を連想させますね。

 

才田さん 館長(店長)の個々の能力だけに頼っていては、そうなります。そこで仕組みが必要になります。これはITだったりマニュアルだったり、道具はさまざまですが、事細かにルールとツールが整備されていて、それらのルールとツールを活用してマネジメントを担うことができます。館長(店長)やマネージャーを育成するのも、そうしたツールを使って行います。

 

― どの程度まで、そうした仕組みは必要なものでしょうか。

 

才田さん たとえば、ある外資系のアパレルでは、マネージャーともなれば、毎日、To Do リストを作成します。それも所要時間を分単位で設定して、労働時間当たりの生産性を追求されます。

店舗スタッフについては、一人ひとりのスキルを詳細に設定・評価し、稼働時間を想定して毎日、スタッフのリストを作成しておきます。天候等により、もし、想定よりも来店客数が少なくなると判断されれば、不要な人数と時間数に応じて、リストの下の方から帰宅させるのが、マネジメントのやるべきことです。

― けっこう、細かいし、厳しい気がしますが。

才田さん そうです。細部まで厳しいので、一人のマネージャーだけが判断するのではなく、複数で判断することが必要になります。

店舗を巡回するSVやマネージャーが現場のスタッフとコミュニケーションをとることで、意見を言いやすい関係を作っていくことも大事ですし、アルバイトから社員に、さらには店長へと登用していくのにふさわしい人材かどうか、SVやマネージャーが判断する材料も多面的に集まります。

もちろん、このプロセスで、そのブランドに向かないスタッフはメンバーとして認められることはありませんから、自然と淘汰されていくことになります。



サービス業の人材マネジメントを語る才田氏
サービス業の人材マネジメントを語る才田氏

― なるほど。マインド、仕組みと来ましたが、次は?

 

才田さん 第三は、カルチャーにまで高めるものです。

 実は、販売業やサービス業と一口にいっても、そのなかで単価が高いビジネスには、カルチャーが不可欠です。ハイファッションのブランド、ホテルや旅館などの一流ブランド、テーマパーク、外食産業など、どの業界であっても、客単価が高い事業を成功させているところは、マインドを仕組みで高めてカルチャーにしているのではないでしょうか。

 

― 具体的には、どうすればカルチャーに高めていけるのでしょうか。

 

才田さん あるホテルの例ですが、自社の従業員はもとより、テナントとして入っている(パートナーと呼ばれる)企業のスタッフも教育対象です。毎朝、クレドの読み合わせを行い、それぞれのクレドにあったエピソードを紹介し合います。もちろん、クレドがうまく活かせた経験もあれば、失敗した経験も出てきます。大切なのは、クレドを単なる言葉ではなく、実践しているスタッフを褒めるきっかけにしていることです。

 

― 朝礼みたいなものですか。

 

才田さん クレドは単なるお題目ではありません。パートナー企業といえども、クレドが書かれているカードをスタッフ全員が携帯しなければなりません。もし携帯していなければ、厳しく指導されます。改善されなければ、しかるべき処置が待ち受けています。そこはオブラートに包みますが・・・。

 

― それは、きついですね。

 

才田さん もちろん、クレドを仕事に活かして顧客満足につながる例などがあるスタッフは、表彰の対象になったり、昇進したりします。クレドという仕掛けを通じて、現場によいロールモデルを確立することで、クレドの内容がカルチャーとして浸透・強化されていくことにつながります。

 

― 褒めるにせよ、改善を求めるにせよ、マインドを表現したクレドと、それを活かす仕組みがあって、はじめてカルチャーが形成されていくようですね。

 

才田さん 販売やサービスは、顧客のいる現場があります。そこで、いわばロールモデルをスタッフに見せることができれば、マネジメントは成功します。もし、ロールモデルが3人いれば、そのうちのどれかを学習することで、たいがいはスタッフとして成長できます。学習することもできないとなると、この仕事に向いていないと、自ら感じて辞めていくのが大半です。

 

― 管理職や役員もロールモデルを体現できていないと、ダメですね。

 

才田さん もちろん、そうですが、現場のロールモデルから、次のステージへの脱皮も必要です。

店長やマネージャー、さらには役員や社長など、リーダーとなるべき人たちには、楽観的でリラックスして話せる雰囲気を作り出すことが求められます。ビジネスですから、これまで言っていたことを180度否定して、別の指示を出さなければならないことは、よくあります。だからこそ、ビジネス上の柔軟性とともに、厳しいことでも気軽に話せることが重要です。

 

― 他の業界や職種から、いきなり経営幹部で転職するのは難しそうですね。

 

才田さん そうかもしれません。明るく、きついことを言える、それも、あっさりと前言を翻しながら。そういうキャラクターでないと、サービス業のリーダーは務まりません。

反対に、販売やサービスでそれなりに実績を上げてきた人は、他の業界でもやっていけるように思います。

 

― 本日は、いろいろとご説明いただき、ありがとうございました。

 

インタビューを終えて

 トラスト&パッションを社名にされている通りの方、というのがインタビュー終了後に残った才田さんの印象でした。

ご自身を毒舌と仰っていましたが、敢えて厳しいことを口にする、しかし、憎めない明るさがある、というのは、毒舌ではなく声援のように聞こえました。人材紹介というビジネスを通じて、販売職やサービス職の人々のキャリア・サポーターとして声援を送られている、そんな気がします。

 

写真提供:才田淳一氏

写真および構成・文章作成:行政書士井田道子事務所+QMS





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