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改めて考えるべき退職金制度(1)

改めて考えるべき退職金制度(1)

 

 黒字でもリストラを行って早期退職を募るなど早期退職優遇制度が広く見られるようになり、従来からの退職金制度もそのあり方を見直す必要があるはずです。東京商工リサーチの調べによれば、2023年度以降に退職金制度を何らかの形で変更した企業は15%ほどで、単純に言えば、毎年5%程度の企業が退職金制度の導入・廃止・改定などを行っていることになります(注1)。

 この調査によると、実態として退職金制度がない(会社設立以来制度としてない場合もあれば、一度は退職金制度を設けたが後に廃止した場合もあります)企業は13.7%あり、廃止したり廃止に向けて検討している企業は合わせて2.1%あります。反対に新たに導入したり導入・増額に向けて検討している企業も6%あります。これだけ見れば、退職金制度を廃止する傾向のほうが強いものの、人材不足対策として処遇改善のひとつに退職金制度の導入・拡充を図っている企業も一定数あるものと判断できます。特に建設や運輸といったところでは目立ちます。

もともと退職金制度がないというのは、農・林・漁・鉱業、情報通信業、不動産業、金融・保険業で25%を超えています。人材の流動性が高いことも窺われるので、より長期的な勤続を奨励するような仕組みがビジネスの特性として馴染まないのかもしれません。また、業績変動が大きいことも、長期的な報酬システムであることが多い退職金制度が事業上の親和性が低いのではないかと思われます。

企業にとってみれば、ある程度は人材の入れ替えを想定するとして、どこまで勤務を継続してほしいか、採用や教育のコストの回収とともに長期債務としての退職給付と社員の累積的な業績貢献との財務的なバランスを考えなければなりません。一方、税法上の扱いは勤続20年までとそれ以降で1年あたりの退職所得の控除額の増分が2倍になる点(注2)も、退職金制度を考える上で無視できません。

この点を前提にモデル退職金の支給額を設計すると、勤続20年を境に支給額の増分が増えることになるので、勤続20年以上の長期勤続者のほうが勤続1年のもつ意味が大きくなります。早期退職の対象者を40代以降にすると、モデル退職金の支給額以上に累積的に割増退職金を多くするようにしないと損をするケースも出てきかねません。これが、早期退職と従来型の退職金制度との人事政策上の矛盾とならないように心掛けなければならないポイントです。

 

さて、一般に退職金制度の機能というと、賃金の後払い的な性格と退職後の生活保障的な役割が指摘できます。

前者について正確に言えば、退職金は労働法上の賃金(=労働の対価)ではありませんが、一定期間仕事をして組織や業績に何らかの貢献をしたこと(功労)への報奨という面は強く意識されるでしょう。

後者は、典型的に言えば定年退職した際に支給される退職時の一時金です。退職年金や公的年金があっても、年金の支給開始年齢までのつなぎの生活費に補填したり、年金を支給されたのちでも一時金から生活費に充てる部分はあるでしょう。

また、定年前にならかの事情で退職する場合、次の仕事が具体的に決まっているとしても、退職から次の仕事で報酬を得るまでの間の生活資金として退職金があるのに越したことはありません。この点は、退職金制度がない会社で、その分を賃金や賞与などで支払っているとしても、経済的な事情はほとんど変わりません。

特に短期的に転職を繰り返している人にとって、仕事の内容や賃金水準も大事ですが、実は退職金制度の有無や支給対象となるタイミング(勤続年数など)や事由別係数なども大きな意味を持つことがあります。

 

当コラムを編集している者の個人的な経験で言えば、1990年に自己都合退職(日系企業から外資系企業への転職)した際の退職金は10数万円だった記憶があります。

その当時、金額自体に驚きはなかったのですが、退職事由別の係数にはショックを受けました。というのは、女性の総合職も増えつつあった頃とはいうもののまだまだ結婚や出産で女性が退職するのが当然視されていた時代で、女性社員の結婚・出産退職時の事由別係数は「円満退職」という事由で1.31.53050%増)でした。この増額は、祝い金のような意味合いもあったのではないかと推測されます。会社都合は1.0ですが、他社への転職というのは「非円満退職」という事由で0.10.39070%減)となっており、こちらに該当した結果、7年ほど勤務して10数万円でした。

これは遠い過去の例ですが、支給事由別の係数の設定ひとつをとっても、これほど会社の人事ポリシーを明確に表現できるツールはないかもしれません。特に辞めてほしい人とか、辞めるなら罰金を支払って(大きく減額して)からにしてほしいというようなメッセージを醸し出すのに適したツールであることは間違いないでしょう。

退職金制度がない場合は、辞めてほしくないということも退職を奨励するようなことも、どちらもメッセージとして社員に金額という形で伝えることは難しいでしょう。ここに退職金制度を運用する経営上の意味があるのかもしれません。

 

早期退職優遇制度とともに運用しているはずの退職金制度ですから、その設計の意図や運用ポリシーが矛盾なく構築されていることはもちろん、その運用実態も一貫した考え方が求められます。今回のコラムは、こうした留意点をいくつか踏まえて退職金制度のありかたを見直してみたいと思います。

 

【注1

データは東京商工リサーチの調べによります。

企業の7.8%で退職金「増額・導入」  「減額・廃止」企業は月給などへ、資産形成は自己責任 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

 

【注2

退職所得の控除額は国税庁のHPで確認できます。

No.1420 退職金を受けったとき(退職所得)|国税庁

 

作成・編集:人事戦略チーム(2026721日更新)