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早期退職優遇制度の狙いと現実(補論2)

早期退職優遇制度の狙いと現実(補論2)

 

当コラム(3)の【注4】で述べたように、特に随時型・希望退職の場合において、残された従業員へのケアはマネジメントとして次につなげる上で重要なポイントです。そこで一般に重要と思われる事項について、このコラムの補論(2)として解説します。ここでは主に、経営者から従業員への説明、管理職を中心とするミドル層へのサポート、一般の従業員のマインドを転換する仕掛け、以上の3点を中心に述べます。

 

まず、経営者から従業員への説明についてですが、通常よく言われるのは、将来へのビジョンを納得できるストーリーをもって語ることが肝要とされます。確かに、将来へのビジョンを語り、その第一歩として何から着手するのかは大事です。但し、狙い通り機能するには、語っている経営者が経営危機を招いた本人でないことが必要不可欠な要件です。経営に失敗し、資産売却や事業再生に迫られた本人が将来へのビジョンを語っても、従業員はもとより顧客や取引業者などの関係者は誰も聞く耳をもたないでしょう。経営者が残された従業員に次のことを語るのであれば、まずは経営責任を明らかにして経営者が交代してから行うべきでしょう

その上で、残された従業員が最も知りたいのは、リストラの大義名分と事業の未来図です。希望退職や資産売却などが必要だったことを認めた上で、適正化された(はずの)人員で投資余力が生まれ、その投資によって新規事業や買収・業務提携などによって事業転換を図り、AIDXなどの次への投資に着手することで生産性を大きく向上させる道筋を示すことです。それらの結果、いつまでにこういう会社に生まれ変わるという攻めのメッセージを経営者が発信しなければなりません。

メッセージを伝える方法としては、双方向のやりとりが可能なタウンホールミーティング(対話を可能とする集会形式)が望まれます。ビデオメッセージや印刷物の配布、メールを送付するだけといったものは、むしろ逆効果です。時には経営者が逃げていると受け取られるかもしれません。

経営陣全員が現場に赴き、その場で直接質問に答えるとともに、匿名でも事前に質問を受け付けるなど、できる限りオープンに質疑応答を行うことができる場を設けます。不安や不満を経営陣が直接受け止めているという姿勢自体が、残された従業員のケアに繋がります。

ひとつの場所に従業員全員が集まることが難しい場合は、いくつかの事業所ごとに職種や階層などを分けてタウンホールミーティングを催し、経営陣が手分けして臨むこともあるでしょう。そこで経営陣の間で異なる見解を発してしまうと、従業員の間に不要な狼狽や心配を生じる虞もあります。そうならないように、役員の間で見解のすり合わせを事前に行うことが必要です。合宿などで詰めて語っておくこともよいでしょう。

 

次に、管理職を中心とするミドル層へのサポートです。現場のマネージャーは部下からの不満や不安に直面しながら、日々の業務を割り当てたり顧客や取引先からの問い合わせなどに対応したりしながら退職面談を行うこともあるので、サポートし過ぎることはあり得ません。

そこで、部下向けのQ&Aブック(対話ガイド)を編集して支給することから始めます。部下から「なぜあの人が対象になったのか」「これから私たちの仕事はどうなるのか」と聞かれた際、管理職が個人の判断で回答をすると人によって答えが違うこともあり、現場が混乱しがちです。会社としての公式な見解を示すとともに、部下を安心させるための対話のポイントをまとめておきます。リストラや事業転換についても要点をまとめて、経営者や人事部門が事前に管理職へ支給しておくことが望まれます。

一方、管理職自身のメンタルケアも忘れてはなりません。マネージャーが職場で孤立しないように組織的にバックアップしておきます。経営者や人事部門から職場の雰囲気を前向きにしようと声をかけても、現実にはプレッシャーにしかなりません。むしろ、経営者や人事部門が自ら現場に出向いて、個々のマネージャーと面談し現場の情況や直面している問題などをヒアリングするほうがよいでしょう。その際にマネージャーが個人的な事情や感情的な面についても人事に愚痴として言えるかどうかがポイントです。場合によっては、管理職同士のつながりを保つように別途タウンホールミーティングを行うことが効果的かもしれません。

 

そして、一般の従業員のマインドを転換する仕掛けを設計し運用していきます。これはいわば、リストラや事業再生によって生じる仕事上のシワ寄せをチャンスに変えるように、業務と処遇を再設計することに他なりません。

不安を和らげる最も確実な方法は、言葉だけでなく仕事の具体的な変化とその効果や良い点(ベネフィット)を実感できるようにすることです。例えば、新たに決めた仕事以外は全て止めるくらいに徹底的に仕事を減らしていきます。当たり前のことですが、従業員が減ったのに今まで通りのやり方で同じ質・量の仕事をこなすことは不可能です。今まで通りのやりかたを押し通そうとする傾向が少しでもあると、残された従業員のモチベーションは保てません。経営者が主導して、全廃する業務や自動化する作業をリストアップして、仕事を極限まで削減しても回る組織体制を生み出します。

同時に、空いたポストに若手や中堅から抜擢したりリスキリングの機会を与えたりして、キャリア開発を実現します。中高年齢層やベテラン層が抜けたことで、どんなに仕事を削減しても必要なポストや新たにチャレンジする仕事(プロジェクト)が出てくるはずです。そこに残された若手や中堅の従業員を登用します。役員にも空きがあるならマネージャー層から昇進させる人がいてもいいでしょう。人員が減って大変になったというのではなく、自分に大きなチャンスと裁量が回ってきたというチャンスとして捉えられるよう、キャリアアップの支援策(昇進・異動及び研修の機会)を集中させることが肝要です。

もちろん、キャリア開発とともに、給与や賞与などの処遇もしっかりとついてこなければ意味がありません。思い切った裁量(権限委譲)、抜擢人事、それに見合う報酬の実現などをセットで実現させることで、会社は大きく変わったと実感させることができるのです。

 

ちなみに、早期退職優遇制度といっても常設型・選択定年制ではここまで急進的に変化するわけではありません。そのため、残された従業員についてこの補論で述べたような事項は、ある程度実行すべきポイントではありますが、タウンホールミーティングのような緊急性の高いプログラムを行うよりも、どの職場も戦力となっている中堅やベテランの従業員の中から絶えず退職者が出ることを前提に、業務の標準化・システム化を進めつつ業務を棚卸しして見直すことで仕事の割り当てや配置転換などを常時行うのを習慣化していくことが必要です。

 

作成・編集:経営支援チーム&人事戦略チーム(2026713日更新)