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早期退職優遇制度の狙いと現実(4)

早期退職優遇制度の狙いと現実(4)

 

常設型の早期退職優遇制度は、従業員にとってみればキャリアの選択肢を広げるチャンスになり得る一方で、キャリアの迷子になるリスクを顕在化させてしまう虞もはらんでいます。大げさかもしれませんが、目の前に数千万円から億に届く現金が手に入るチャンスとなると、人生を狂わせる人がでてきても不思議はないでしょう。

実際、早期退職優遇制度を選んだ人たちにとってのプラス面とマイナス面は次のようにまとめられます。

プラスの面としては、まとまった資金(割増退職金)を比較的若いタイミングで手に入れられるので、次のキャリアに挑戦する体力や気力がある内に本当に挑戦できることです。

資金ついてですが、仮に会社都合で退職する場合としても通常の退職で得られる退職金に比べて、月収の数ヶ月〜数年分が上乗せされるのが通例です。これを元手に起業したり収益を生むであろう資産に投資したり、数年間は働くことをせずに資格取得やリスキリングに時間を費やしても何とか生活していくことができるでしょう。

次のキャリアに挑戦するという点では、転職市場で比較的優位な立場で次のキャリアを探すことができる可能性があります。定年まで勤めてから次のキャリアにチャレンジしてり、勤務先が倒産して急に退職し転職せざるを得なくなったりするのと違い、他社でも評価されうる実績を挙げていたり仕事上通用するスキルを有しているなど市場価値がまだまだ認められるタイミングでもあり、柔軟にキャリアを考える余地があったりするうちに主導権をもって転職活動に転じることができます。多くの企業が転職エージェントの費用を会社が負担する形で再就職支援サービスを提供するため、自力で転職活動をするよりも有利に進められるというメリットもあります。

また、会社とのミスマッチを無理なく解消できる点もプラス面でしょう。DXAIなどのデジタル化についていけないとか、事業転換で自分の得意な仕事がなくなったなどと実感した際に、早期退職優遇制度を活用することで金銭面では優遇されたり時に周囲からこれまでの仕事ぶりを感謝されたりしながら、会社を去ることができます。

とは言え、マイナスの面があることも忘れてはなりません。

頭では分かったつもりでいても、大企業の看板を失った後の厳しい現実を予想できていないと、次のキャリアを実現できません。例えば、大企業の管理職だった人が他社でも十分に通用するはずと思って退職したものの、なかなか希望する条件での転職先が見つからないまま時間ばかりが過ぎ去るケースです。なんとか条件を下げて転職先が見つかったとしても、聞いたこともない中小企業であったりこれまでのキャリアとは全く関係のない仕事であったりします。

それでも仕事があるならばまだよいほうで、大企業の管理職であったというプライドが邪魔をして転職先に馴染めないとか、仕事のやり方が違い過ぎて転職先からも退職せざるを得ないといった現実に直面することも珍しいものではありません。

また、経済的な見通しの甘さから貧困状態に陥るケースもよく見られます。割増退職金だけでも3,000万円あるから当面の生活は大丈夫と想定していたものの、再就職先が数年見つからなかったり見つかっても処遇水準が大きく低下したりして、退職後5年ももたずに預貯金がなくなるかもしれません。

まして、慣れない事業や投資に退職金を全て賭けてしまい、事業や投資に失敗して生活資金すら失う例も見られます。そこまでではなくても、本来は老後資金に充てるつもりだった退職金を大きく減らしてしまうと、キャリアや仕事を選ぶ余裕がなくなり何でも良いから働くしかない状況に陥るケースも少なくありません。

もうひとつのマイナス面は、実質的な退職勧奨により精神的なダメージを受けてしまうと、人によってはなかなか回復できない点にあります。早期退職優遇制度は、制度としてはあくまで個人の自由な意思決定によるキャリア選択であったとしても、マネージャーや人事から選択定年に関する面談で「この制度を使うなら君の場合、今がベストだ」などと事実上の退職勧奨(戦力外通告)を受けてしまうと、予想していなかった人ほど深い喪失感やショックを受けてしまいます。そういった感情を抱えたまま社外に放り出されるケースも実際にあります。

 

では、早期退職優遇制度をうまく活用できる人とうまく活用できずに早期退職を後悔する人との間には何か違いがあるのでしょうか。

うまく活用できる人は、会社を辞める前から自分の市場価値(社外で通用するもの)を客観的に把握しているのでしょう。会社への不満から早期退職を選んだり、割り増しされる金額に惹かれるのではなく、次にやりたいこと(起業・転職・留学・移住など)が明確にあり、そのために気力や体力があるうちにキャリアチェンジを図る計画性や戦略性があります。また、これまでのプライドを捨てて、自分で起業したりフリーランスとして独立したり他社に転職したりするなど、新しい環境に適応する覚悟もあります。

うまく活用できずに後悔する人には、割増退職金の金額だけに目を奪われてしまい退職後の具体的なプランを考えていないとか、今の仕事や職場が辛いからとか周囲の人たちも辞めるからというように、逃げの姿勢や誤った同調性から応募してしまうのでしょう。また、前職では部下が10人いる部長だったとか、前の会社ではプロジェクトをこのように仕切ってきたと何かあれば口にしてしまうように、過去に拘って新しい環境に足を踏み出そうとしない人も難しいでしょう。

やはり、常設型の早期退職優遇を利用しようとするのであれば、これまでの仕事の中から自分の実績やスキルなどを一度は棚卸しして、制度に応募する前に転職先や起業プランの見通しをつけてから、制度を利用して次のキャリアを切り拓くというスタンスで応募することが望まれます。

特に転職の場合、転職したいと思う具体的な業界・業種や職種・ポジションなどがあるならば、人材募集の動向や実際に自分と同様のプロフィールの人が採用されているのかどうか、転職エージェントなどに事前に打診してみてもよいでしょう。その結果、実例が見られないのであれば、早期退職を踏みとどまり、新たなスキルを習得する機会を現在の会社の中で求めたり、内部でキャリアチェンジの機会を待って事業間・職種間の異動などを図ることで、自分のスキルアップやキャリアの間口を広げることを狙うことも必要です。

 

 

作成・編集:経営支援チーム&人事戦略チーム(2026629日更新)