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早期退職優遇制度の狙いと現実(1)

早期退職優遇制度の狙いと現実(1)

 

人材不足が重大な経営課題となって久しい一方、早期退職制度や希望退職制度などにより退職を促進するプログラムを常設化している企業も増えていると実感できます。昨年度は上場会社に限っても、46社で2万人以上が早期退職や希望退職を選んだと報じられています(注1)。実施した企業数は減少したものの、対象者数は増加しています。また、実施した企業のほぼ7割を黒字企業が占めていることから、業績不振により人員削減を行う一環としてのプログラムから、通常の人事管理プログラムのひとつとして定着する方向に移ってきていることが理解できます。

こうした現象は、マクロ的には労働力が確かに不足しており個々の企業でも人材不足で倒産に至るケースも少なくない(注2)としても、別のところでは人材の余剰があったり事業構造を変えるのに人材の入れ替えが必要となっているのが現実でしょう。

今回のコラムでは、早期退職制度や希望退職制度もしくはセカンドキャリアプログラムとかキャリア転身制度など名称はさまざまですが、定年退職や個人的な事由による自己都合退職ではなく、退職金の割増及びその他に付加的な支援施策があって定年年齢に満たない社員が対象となる退職優遇制度について考えてみます。なお、そうした制度やプログラムについて、ここでは一括して早期退職優遇制度と呼ぶことにします。

 

さて、日本では労働基準法などにおいて早期退職優遇制度の明確な定義はありません。あくまでも実務的な取り組みであり、時限的なスキームであることも多々あります。一般的には、「定年年齢に達していない社員に対し、通常の退職金に割増退職金を加算するなどの優遇措置(インセンティブ)を提示することで、本人が希望し退職を自ら申し出ることによる自発的な早期退職の仕組み」を言います。

ちなみに、経営学や人事管理論では、早期退職優遇制度は人材の退出管理雇用調整の手法として認識されています。そこでは、早期退職優遇制度を目的や運用の違いから、常設型随時型の2つに分けて議論することが多いようです。

常設型というのは、選択定年制などとも呼ばれるもので、常に(または毎年定期的に)制度として存在するものです。その狙いは、組織の早め早めの若返りとか、シニア層の社員のセカンドキャリア支援などです。対象となるのは、主に50歳以上など特定の高年齢層の社員であることが通例です。組織として短期的な業績変動には左右されず、黒字の企業でも運用していることも珍しくはありません。

随時型というのは、希望退職の募集期間を限定して、その時限りで臨時に募集するものです。業績の急激な悪化に対応する緊急の人件費削減、中長期的な構造改革などが求められる状況で行われるでしょう。従って、40歳以上勤続5年以上とか所属部門や職種・地域を限定しておくなど柔軟に条件を設定するケースが多いようです。業績が現に悪化している時だけでなく、業績の見通しが明るくない場合や事業の発展が望み薄な場合などは、黒字であってもリストラの一環として実施されることもあります。時にはMA実施後に部門の閉鎖がある時など、余剰人員対策として実施されることもあります。

 

さて、どのような形にせよ早期退職優遇制度を導入し運用するとなると、実務的にも経営学的にも次の3点に留意しなければなりません。

まず、インセンティブと逆選択の問題です。退職金の加算というインセンティブを提示すると、他社でも通用するであろう優秀な人材(=市場価値の高い社員)から辞めてしまい、残ってほしくない人材が残りがちになるという現象(=逆選択)が起きる可能性があります。だからと言って、インセンティブを小さくし過ぎると、誰も退職を申し出ないことも起こり得ます。組織の本音として辞めてほしい人にだけ声を掛けたりするのは、明らかに退職の強要になりますから、公平にコミュニケーションを取ることが求められます。

人事管理上はいかに優秀な人材の流出を防ぎつつ、そうでない人材を放出していくのかという命題に対して、適切な制度設計を慎重に行わなければなりません。例えば、引き留め交渉の権利を企業側が持つといった工夫もあり得ますが、そうしたことが却って社員からは経営への不信感を招くかもしれず、制度のメッセージをどのように伝えるのかが重要な課題となります。

次に、キャリア自律の促進という問題です。定年や再雇用まで会社に依存するのではなく、社員自らがキャリアを切り開くキャリア自律が社会人一人ひとりにとって重要であることは論を俟ちません。常設型の早期退職優遇制度は、シニアの社員に対して、定年年齢までこのまま会社に残るか、加算金や支援プログラムを活用して独立・転職するか、という選択を自ら下すことを迫ります。このように、早期退職優遇制度を一種のキャリア開発支援制度として位置づけることもできます。

そして、いわゆるメンバーシップ型雇用における雇用の調整弁としての機能もあります。日本の伝統的な年功序列・終身雇用の影響がまだまだ色濃く残っている組織も多い状況で、高くなった中高年層の固定的な人件費を、法的な解雇というハードランディングな手法を回避してソフトに削減するための調整弁としても機能してきたのは事実です。社員から見れば、いかにキャリアチェンジとかキャリア自律とか言ったところで、経営の本音は人員削減でしょう、ということがわかってしまうのです。

このような点を考慮すると、早期退職優遇制度はメンバーシップ型雇用からキャリア自律を果たす方向に人材のあり方を切り替えるツールのひとつではありますが、自律的に自らのキャリアを切り拓くことができる程度に優秀な人材ほど、社員にとってのメリットを享受できる可能性が高まり、キャリア自律が難しい社員ほど制度の活用を避けると経営上は危惧されるものなのです。

早期退職優遇制度ほど、経営課題や人事課題から見た狙いと対象となる社員や周囲の社員の受け止め方や現実に採る行動との間に大きなギャップが生じる虞があるものは、あまり見られないかもしれません。

 

【注1

東京商工リサーチの調べでは、昨年度は2万人以上が早期退職・希望退職を選んで退職したそうです。

2025年度の「早期・希望退職」 は2万781人 約7割が「黒字リストラ」、2009年度以降で4番目の高水準 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

 

【注2

東京商工リサーチの調べでは、人手不足による倒産はここ1年ほど毎月40件前後と高い水準で推移しており、増加傾向は見えないものの減少する傾向にあるとも言えません。

2026年5月の「人手不足」倒産 5月最多の37件 「人件費高騰」が2.4倍増、「従業員退職」も増加 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

 

 

作成・編集:経営支援チーム&人事戦略チーム(2026618日更新)