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退職管理をフレームワークから作り直す(6)

退職管理をフレームワークから作り直す(6)

 

退職した会社と良好な関係を維持している元従業員や元役員は、近い将来、ビジネスパートナーになったり、顧客になったり、あるいは出戻り社員(転職した他社やフリーランスから退職した会社に戻る人)として再度採用されたりするなど、何らかの貴重な資産となる可能性があります。こうした活動を組織的に公式化して取り組む際に、退職管理が適切に行われていることを前提にアルムナイを組織して活動することになります。

一般にアルムナイ(退職者ネットワーク)というと、ゴールドマン・サックスやマッキンゼーのようなグローバルに展開する外資系企業の例が語られることが多いでしょう。見ず知らずの経営者でも、自分が元〇〇というだけで、同じ組織の出身であることがわかればすぐに会って話を聞いてもらえて、そこからビジネスが発展していくきっかけをつかめたなどというエピソードに事欠かないのが、これらのアルムナイです。

こうした事例を見聞きしても、一部の大企業やコンサルティングファームなどに限られるものというイメージをもつ人も多いでしょう。確かに、数千人規模で元社員がいれば、その中から成功事例が出ることも多くなります。また、もともと優秀な人材を採用できるのに加えて、人材を鍛え上げる組織があるからできることと思われるかもしれません。

 

実は、中小企業こそ人的資源が限られている故に、一度は社員であった人が辞めた後でも活用するという視点が不可欠なのです。もちろん、退職した社員が外で活躍しているなんて聞いたことがないという会社もあるでしょう。ただ、同業他社や取引先、あるいは全く別の地元の会社で普通に働いているだけでも、中小企業にとっては十分に価値があります。

まず、出戻り採用やリファラル採用につながることで、採用の効果は上がりコストは削減できることが見込まれます。中小企業にとって、社員を1人採用するのにかかる広告費や紹介料は大きな負担です。気心が知れ、スキルも分かっている元社員が戻ってきてくれる出戻り採用は、社員の質を改めて検証することなく把握できますし、教育コストも極めて少なくて済むでしょう。辞めた社員本人が戻るのでなくても、その人が推薦できる人材であれば採用を検討するに値する人材のはずです。

次に、退職者が別の会社で働いていれば、そこが新しい顧客やビジネスパートナーになる可能性があります。元社員が退職した会社を評価する口コミは、どんな広告宣伝活動よりも確かなものです。退職した社員が、いわば営業拠点として機能すると考えてよいでしょう。

そして、現役社員へのポジティブな影響も想定できます。退職者=裏切り者という価値観から脱却し、会社という境界を自由に動くことが推奨されている組織であると実例をもって示すことができます。結果として、現役社員のエンゲージメントが高まり、採用ブランディングの向上にも寄与するはずです。中途半端に副業を認めるよりも効果的でしょう。

 

現に、中小企業や中堅企業でアルムナイを活用している企業も少なからず出てきています。

あるIT企業では、社員数200名程度の頃から積極的にアルムナイを運営して、出戻り採用(再入社)が起きていたり、退職者が入社希望者を紹介してくれる形でのリファラル採用にもつながっていたりします。この会社では、外資系企業でよく見られるように、退職することを卒業と呼び、卒業生専用のチャットグループや定期的な交流会を開催することで、会社と卒業生との関係を維持し発展させているようです。

別のITサービスの会社では、成長期からアルムナイを重視してきました。退職後も自社製品を使い続けてもらうファンとしての繋がりを重視しており、退職者が転職先で自社ツールを導入してくれるなど、一種のブランドアンバサダーとして機能しています。企業向けのテクノロジーやサービスを提供する企業で広く見られます。

特定の技術を持つ中小企業などで目立つのが、アルムナイという形では組織化せずにOBOG会をSNSで維持しているケースです。公式なプラットフォームを使わず、SNSを通じて近況報告を行う程度の緩やかな繋がりです。こうした場合、定年退職した元社員が繁忙期だけスポットで手伝いに来てくれたり、若手の技術指導に回ったりするなど、より柔軟な活用が進んでいたりする例も見受けられます。

 

 こうした成功事例はあるものの、多くの中小企業にとって今いる社員の採用や教育も十分に対応できていないのに退職者のことまで手が回らないとか、そもそも辞めた人間に意味があるのか、という反対論も理解できます。そこで、アルムナイを手間やコストを掛けずに成果につなげるには、運用にそれなりの工夫が求められます。

例えば、アルムナイの設立記念パーティーを開催するなど、イベントや会合を開こうとするのではなく、友人と仲間内の飲み会に顔を出すくらいの集まりに留めます。そもそも、無理にアルコールを提供することも必要ありません。時々SNSなどで連絡を取る程度でも十分です。

組織化に専用のシステムとか事務管理ツールなどを導入することも不要です。日常的に業務で使っているSNSで十分です。必要なのは名簿と規約と入会申込書の書式くらいです。

間違っても、人事担当者が厳格に管理することは避けましょう。経営者もしくは元上司や同僚などと退職者との間で、個人的な繋がりを維持できればいいのです。アルムナイという名称や形に拘るのではなく、人的つながりを維持できるかどうかが特に中小企業にとって重要なのです。

従って、会社側から何か結果を出せという圧力や業績向上に資するものはないかという空気が流れ出ると、アルムナイは機能しないでしょう。お互いに困ったことがあれば助け合おうとか、何か一緒にできることが出てくればいいね、という親睦会のような雰囲気を醸成したいものです。

 

 一方、中堅企業や大企業となると、情報の境界線が曖昧になったり、退職者の数も多くなり退職に至る経緯もいろいろと出てくると、リスク管理を無視するわけにはいきません。

SNSで繋がるというカジュアルな入り口であっても、会社として場を提供する以上、最低限のルールを作り規約(注3)として明文化して、それを書面あるいは電子的な形で承諾してもらう形で行うほうがよいでしょう。こうした一種の節度を確立しておくことで、アルムナイに参加する側もコミュニケーションのルールを守って交流できることになります。

具体的には次のような点に留意してルール(規約)を作ることが望まれます。

第一に、現社員と退職者の双方を守るために規約や合意書を用意することです。退職者が会社の了承もなく現職社員を強引に引き抜こうとすることを防がねばなりません。また、退職者=元上司・元同僚という立場に甘えて現職社員から情報を聞き出したりすることに対して、会社が公式に禁止する事項を明示することで現職社員も退職者も双方を守ることにつながります。そして、もし万が一、顧客情報や技術情報が流出した際、会社として適切な管理措置(規約の制定や合意書の提出など)を講じていたことを証明することにつながります。

第二に、規約に盛り込むべき項目はできるだけ絞り込むことです。例えば、在職中に知った秘密並びにアルムナイで知った情報を第三者に提供しない、メンバー同士の連絡先を勝手に他者に教えないし売り込みに流用しない、公序良俗に反する行為や不当な引き抜き及び過度な勧誘行為などを行わない、これらのルールに違反した場合は事務局の判断で退会させることがある、メンバー間でのトラブルに対し会社は原則として責任は負わない、といった項目を盛り込むだけでもよいでしょう。

第三に、アルムナイに加入しやすいようにするため、以下のような運用上のポイントがあります。

 

  退職手続きに一部としてアルムナイへの加入を組み込む

退職の手続きの中に「アルムナイ入会のご案内」と「秘密保持の継続確認」をセットにして組み込んでしまうことでスムーズな加入を実現できます。

  アルムナイへの加入条件として規約を提示する

正式な書面で印鑑をもらう形式でもよいのですが、Googleフォーム等を利用して入会申し込みフォームの最後に「規約に同意する」のチェックボックスを設けるなど、電子的に規約を承諾したことが記録される手続きを取るという方法もあります。

具体的なNG項目を例示する

例えば、機密保持と言われてもピンとこない場合があります。開発中の製品スペックの共有はNGとか顧客リストに基づいた営業行為はNGというように、具体的なNG項目を最初に例示して伝えておくほうがよいでしょう。

もし、退職時に取り交わす「秘密保持に関する誓約書」のようなものがある場合、その効力が退職後も続いていることを、アルムナイ入会時に改めてその旨を明示するといった方法もあります。

特に中小企業で懸念されるのは、退職者が優秀な現職社員を引き抜いてしまうことでしょう。そこでアルムナイの規約に不当な(会社が事前に認めていない)引き抜き行為の禁止といった事項は入れておくべきです。

 

アルムナイの規約は、組織が大きくなるに従ってより詳細なルールを定めておく必要が出てくるでしょう。その際も、アルムナイの目的や機能を忘れずに運営していくことが要請されます。退職者向けに会社が提供する福利厚生制度と時に混同してしまい、会社が契約している施設の利用、財産形成サポート、健康管理サービスなどを提供したり、社友会やOBOG会のゴルフコンペやパーティーを開催したりするのが活動計画の柱になってはいけません。

 

アルムナイのよいところは、直接の面識のないOBOGであっても退職後に仕事の話(仕事以外でも)で気軽に連絡を取れることです。実際に連絡を取り合える関係があるのであれば、そして機密保持や引き抜き自粛などの暗黙のルールが確立しているのであれば、アルムナイという仕組みがなくても構わないのです。

言い換えれば、アルムナイがあるから退職者との良好な関係が構築・維持されるのではなく、退職者との良好な関係が構築・維持されているからアルムナイが機能していると考えるべきです。中小企業の経営者にすれば、退職者が出たことを嘆くのではなく、会社をよく知る理解者が社外の世界に1人増えたと考えることができれば、その資産を活用しない手はないと考えてビジネスを発展させるチャンスです。

 

(7)に続く

 

【注3

アルムナイの運営については法的な定めはありません。参考までにアルムナイの会員規約についてサンプルを付しておきます。

ダウンロード
アルムナイ会員規約(サンプル).pdf
PDFファイル 148.5 KB

作成・編集:人事戦略チーム(2026529日更新)