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退職管理をフレームワークから作り直す(4)

退職管理をフレームワークから作り直す(4)

 

退職理由の特定に続く次の段階として、退職者が発生した後の組織的な対応が退職管理には求められます。ここで最も優先すべきポイントは、組織として意図しない連鎖的な退職を防ぐことです。そのためにも退職理由を特定しておく必要があったのです。時には、ある社員の退職が残っている人たちに無用な不安感をもたせたり動揺を与えたりすることも起こり得ますが、こうした点にもマネジメントとして留意しなければなりません。

退職予定者がいることが明らかになったら、組織として経営者やマネージャーが取り組まなければならない最初のことは、仕事を適切に引継ぐ(仕事に穴を開けない)ことです。そして、退職者が出る職場において日常の仕事が滞りなく進むことで、残っている人たちの不安感や動揺を及ぼさず、連鎖的な退職を未然に防ぐことを実現していきます。

 

仕事を適切に引継ぐ(仕事に穴を開けない)ということは、後任の人員が補充されるかどうかに関わらず、仕事が問題なく進んでいくようになっていることが前提条件となります。言い換えれば、会社から人材が去る際、その人が持っていたノウハウや人脈などの無形資産が会社から消えてしまうのを防ぐ必要が組織にはあります。

つまり、日常的に業務のブラックボックス化を防いで業務の属人化を解消しておくのが理想です。しかし、属人化を完全に防ぐことは実現できないので、組織に残ったメンバーの負担や予想されるミスや損失が会社や部門にとって致命傷にならない範囲に止めるようにしておかなければなりません。

現実には仕事が属人的に行われているのは程度の問題でしょう。〇〇さんが辞めると××業務ができなくなるということが、その人の退職で初めて気がつくということもあります。もしそうであるならば、次からは仕事が止まることがないように、組織の仕組みや業務プロセスの弱点を経営者やマネージャーが見つけ出すしかありません。それがマネジメントというものです。

どうしても属人化が避けられないのであれば、退職者にその仕事をもって社外に出てもらうことも検討しなければなりません。よくあるのは、特定の顧客や技術が1人の社員しか扱うことができないため、退職後も顧問や嘱託という形で勤務を継続していたり、退職後にその退職者との間に新たに業務委託契約を結んでその仕事を外注化したりするケースです。中には、顧客をそのままもって元の会社から(退職するというよりも)独立して協業先となる場合も見られます。

 

退職者が出るとその補充が行われることもあります。社内での異動や外部からの採用が退職日までに行う目途がつけばいいのですが、特に外部からの採用では難しいでしょう。

ここで注意したいのは、退職者が出たからと言って自動的に補充を行うと考えるのはマネジメントの放棄に等しい発想だということです。一度に退職する者が所属する部署の20%を超えない人数であるならば、場合によっては職務の再設計により職務分担を変えたり仕事のやり方を変えたりすることで、人員の補充がなくても仕事が回る状態を作り出すことは十分にあり得ます。今いる要員で仕事を回せるように業務分担を少しずつ変更するとか、特定の個人に退職者の業務を全てとか大半を引き継がせることを避けて、部署全体で退職者が行っていた仕事を引き継ぐのです。

更に言えば、一般に組織には何らかの不要不急の仕事が必ずあるので、不要なものや緊急性の低いものを止めるだけでも、退職者が出た後の現有の人員で仕事を回す余力を生み出すこともできます。不要なものを不要として止めさせるのが経営者やマネージャーの仕事ですから、誰に何を担当させるのかを決めるとともにやらなくてもいい仕事を特定して廃止するのも、同様に経営者やマネージャーが取り組むべき重要な仕事です。

 

戻って、人員の補充がある場合は引き継ぎを行うことになります。ある程度定期的に人事異動がある組織では業務の分担や引き継ぎについて、マニュアル(引き継ぎ書)などがあって、手順に従って進めることで基本的には進むはずです。

この場合、引き継ぎの打ち合わせは当事者同士だけに任せるよりもマネージャーが入るほうがいいでしょう。打ち合わせのスケジュール調整や人間関係上の問題があったりするのであれば、当事者のみに任せるのではなく経営者やマネージャーが触媒となって話を進めるほうがより望ましいでしょう。但し、マネージャーと退職予定者の間に問題がある場合は、経営者や役員などより上位の責任者が関わって対応するしかありません。

引き継ぎにルールや慣行などがない場合は、退職予定者と後任の間で引き継ぐ事項をリスト化して説明を加えるなど、きちんと記録を残すところから引き継ぎの手順や内容を目に見える形にしていく作業に着手します。

ここでも経営者やマネージャーが関与して、やっていたはずなのにリストアップされていない仕事とか、リストにはあっても当人もその仕事の意味がわからないまま進めていた作業などがないか洗い出すほうがよいでしょう。こうした作業は、簡易な職務調査であり、実際に行っている仕事を洗い出すには必須のプロセスです。

こうした引き継ぎプロセスから、メンバー個々が実際に行っている仕事が何かマネージャーがあまり把握していないかとか、職務分担表やジョブディスクリプション(職務記述書)に書かれていることと現実に行っていることとの間に重大な差異があるなど、仕事の実態と問題点が明らかになることも往々にして見られます。

ちなみに、仕事の内容を記述してみて〇〇の推進とか××の管理という表現の仕事が多いのであれば、その人は組織や業務プロセスにおいて機能していないと危惧すべきです。というのは、その職場に固有の職務名称や具体的な製品・サービス・顧客などが表現されていないのは、その仕事が結果につながっておらず、人がいるから生じる単なる作業とか管理のための管理となっていることが実に多いからです。

 

一方、後任が未定であったりいなかったりする場合は、担当者間での引き継ぎというプロセスはありません。だからと言って、退職者が担当していた仕事がなくなるわけではありませんから、仕事に穴を開けないためには、残っている現有人員で退職者の仕事を分けて引き継ぐことになります。

従って、退職予定者と他のメンバーの間で、引き継ぎプロセスと同様の作業を行うことが要請されます。現実には、このプロセスを行わないケースが大半でしょう。というのも、退職予定者以外のメンバー自身も、経営者やマネージャーも退職予定者が何を担当していたのか、また担当していた仕事をどのように処理していたのか知っているつもりになりがちで、引き継ぎの必要性を感じていないからです。

しかし、本当はどうであるかは、退職後に明らかになります。多少は引き継ぎ書のようなものがあっても、誰も詳しくわからないというのが実態です。時には、辞めた人を呼び出して、ファイルのありかを尋ねたり顧客とのやりとりを問い質したりする例も多いでしょう。

こういうケースでは、結局、仕事の引き継ぎは無理と諦めて、後任の社員や別の部署の人が再度、仕事のやり方を作り出すことに迫られます。これでは、いつになっても仕事上のスキルやノウハウを組織的に高めていくことはできません。組織が意図せずにアンラーニング(学習棄却)をしてしまうのです。アンラーニングというよりも、組織的な資産(特に見えざる資産)の廃棄というべきかもしれません。

こういう事態は特に中小企業で頻繁に見られます。中小企業が中小企業に留まっている理由のひとつは、仕事上のスキルやノウハウを組織的に高めていくことができない点にあります。大企業は引き継ぎをルール化することで仕事上のスキルやノウハウを組織的に高めていくことが可能でしょう。この差は大きく、容易に追いつくことはできません。

 更に言えば、大企業ではもともと人員が余剰気味であるため、退職者が多少は出たところで、欠員補充を容易に行うことも可能です。育児休業などから戻ってくる社員もいれば、留学や出向から戻ってくる者もいます(注2)。むしろ、欠員を補充せずに仕事に復帰する社員を活用するとか、意図的に欠員補充を行わずに業務効率を引き上げるようにワークフローや業務システムを見直す契機とすることもできます。

中小企業の場合はなかなか同様にはいきません。欠員を補充せずに仕事を回そうとすれば、特定の個人に仕事上の負荷が集中してしまい、新たな退職者を生み出だすことになり、退職の連鎖が止まらなくなったり、マネージャーが退職者の担当していた顧客を全て引き取って休日返上で頑張ろうとして潰れてしまったりというのが、ありふれた光景となっています。

 

以上述べてきたように、退職者の仕事を適切に引き継いで退職者が出てもその後無理なく仕事が回せる状況を作り出せることが、実は連鎖的な退職を防ぐのに必要かつ効果的な事項です。また、現有社員に無用な不安感や動揺をもたれないようにするのにも、必要不可欠な取り組みです。

 そして、定期的にストレスチェックや従業員満足度調査などを行っていれば、退職者が発生した前後での変化を把握したり、発生した後に適切な対応をとることができているかどうかを判断したりする材料を得ることができます。その結果を活用して仕事のやり方を絶えず見直していくことが、次の意図せざる退職を防ぐことにつながります。

 

(5)に続く

 

【注2

育児休業や留学・出向などによる欠員は、一定期間後に戻ってくるのが前提となります。介護休職などとは異なりスケジュールも読みやすいので、ワークフローや業務システムを見直した上で復職予定者の職務を再設計して受け入れることも可能です。休職の場合、元の職務に復職するのが原則ではありますが、復職前の組織が今いる人員で問題なく仕事が回っているのであれば、本人も元の職場に戻すことに拘らず、他部門や他社にキャリアチェンジする選択肢を検討してみてもよいでしょう。もちろん、組織がキャリアチェンジをサポートすることも人事の機能として持つべきです。

 

作成・編集:人事戦略チーム(2026522日更新)