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退職管理をフレームワークから作り直す(2)

退職管理をフレームワークから作り直す(2)

 

 一般の組織では人事や労務の専門スタッフがいて退職管理に関しても恙なく事務的に処理できるはずです。中小企業の場合、そうした専門のスタッフを雇用する余裕がないとか事務的な事項を全て社外の社会保険労務士事務所や税理士事務所などに委託していることも多く、退職管理についてその基礎的な事項から見直す必要があるかもしれません。

そうした場合、経営者や中心となる管理職は退職管理の基礎的な事項を自ら知っておくことが求められます。

例えば、退職と解雇を明確に区別して運用することを知っていなければなりません。当然のことですが、経営者や管理職が感情的になって「クビにしてやる」と叫んだだけでは解雇にはなりません。仕事上重大なミスを犯した従業員本人に向かって上司が「辞表を出せ」と迫っても、従業員が辞表を出さなければならないものではありません。

解雇というのは、雇用者(会社)のほうから従業員との雇用契約を打ち切ることです。通常は、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3種類があり、それぞれ就業規則や雇用契約書に明示した事由が発生した場合に適用されます。要は、具体的にどのような事由がいつ発生したのか、書面をもって確定させて初めて解雇の手続きに入ることが可能となるのです(注1)。

一方、退職には定年退職のような会社都合の退職と従業員が自らの意思で辞める自己都合退職があります。会社都合の退職は就業規則や雇用契約書にその定義や要件が示されているはずです。定年退職であれば、定年に達する年齢・発効する時点や退職金などの計算方法・支払い手続きなどが規定されていますから、日程や手順を確認して進めます。

 

自己都合の場合は、まず、退職日(予定日)を確定させる必要があります。退職を意図している従業員は、その旨を会社に通知しなければなりませんが、その方法は退職届と退職願の2種類があります。

退職届は雇用契約の破棄を従業員から通知し、その効力が自動的に発効するものです。当該従業員が退職するということ及びその時期について、会社には選択や交渉の余地はありません。退職届が提出されたならば、後は退職日を確定して必要な手続きを進めるだけです。もちろん、当該従業員の協力も望みたいのですが、退職代行会社や従業員の親族などの関係者とのコミュニケーションしか取れないこともあります。

 退職願は、当該従業員が会社に対して退職したい旨を通知するものです。その通り受理して退職を認めるかどうかは会社次第です。とは言え、退職願が不受理になれば、辞めたいと思っている従業員は退職届を提出してくるでしょうから、現実的には退職を押し止めるわけにはいきません。但し、退職願はいつ退職するのかという点では、多少は交渉の余地があるかもしれません。特に繁忙期や引継ぎの日程調整などに関しては、退職願から退職するまで12ヶ月程度の余裕があるほうが望ましいでしょう。

 退職願を受理して従業員の退職手続きに入る際、退職日(予定日)を当該従業員と会社との間でしっかりと確認しておきましょう。退職日(予定日)が確定していないと、それまでに有給休暇の残余日数をいつからいつまで消化するのか、業務の引き継ぎなどに何日間必要なのか、出勤予定日はいつなのか、最終出勤日はいつなのか、貸与品の返還やITシステムへのアクセス権の抹消などはいつ行うのか、などといった実務的なスケジュールが確定せず、本人だけでなく社内関係者も困惑する事態を招きかねません。

また、退職日が退職者本人と会社との間で誤解のないように一致した認識を持っていないと、最後の給与の金額や支給日、退職金など退職に伴う報酬の支払いに関する金額や支給日、雇用保険や社会保険の切り替え日などでトラブルが生じる元となります。こうした点は、自己都合退職者だけでなく、定年退職後に同じ会社で再雇用される人や契約形態が変更になる人(いわゆる正社員から嘱託社員や顧問、労働契約から業務委託契約など)など、同じ会社にいても身分は変わることに伴う各種の変更についても同様の注意点があります。

 

中小企業の場合、法的なリスク回避と円満な引継ぎとのバランスが中堅企業・大企業以上に重要であるため、労働法規や就業規則を遵守することに加えて、円滑・円満な退職管理を実現すべく、次の7点がポイントとなります。特に自己都合退職の際には十分に留意すべきです。

1に、退職願・退職届の受領と退職の意思の確認をしっかりと行うことです。退職の意思を口頭だけでなく必ず書面(退職届・退職願)で受け取ります。これは、言った言わないでトラブルにつながることを予防するものであり、後日、本人やその代理人から「不当に解雇された」「(自分の意思に反して)退職を強要された」と主張されるリスクを避けるためです。また、離職票の離職理由に関わるため、自己都合により退職する旨を明記し本人の署名・捺印がある書面を保管しておくことが鉄則です。

2に、退職日と有給消化の円滑なスケジュール化です。自己都合退職で最もトラブルになりやすいのが、有給休暇の完全消化を巡るものかもしれません。就業規則で「退職を希望する者は退職の1ヶ月前に申し出ること」と定めていても、民法上は2週間前の申し出で契約の解約が成立します。また、会社側には有給休暇の時季変更権はありますが、退職日(予定日)を超えて時期をずらすことができないため、実質的に拒否できません。そこで、退職願を受理する時点で、有給の残日数を確認し、出社日と有給消化日を確定させて退職までの勤怠スケジュール表を本人と合意しながら作成することが望まれます。

3に、雇用保険・社会保険の手続きを退職後速やかに行う必要があります。本人が不要と言わない限り、ハローワークでの手続きが必要です。転職先が決まっていない場合は失業給付に関わるため、離職票の発行などを迅速に行います。その際、会社は自己都合として処理しても、本人がハローワークで「実は会社から辞めるように促された」と主張し、会社都合として受理されるケースがあります。できれば、退職願・退職届の中に一身上の都合の中身として、「転職のため」「家庭の事情のため」など、可能な範囲で具体的な理由を添えることを通例化するという方法もあります。

4に、転職先での年末調整や確定申告のために、源泉徴収票や住民税の特別徴収切り替え申請書なども必要となる場合があります。また、最後の給料が住民税のせいで予想以上に少なくなると本人から不満が出ることがあるため、これらの取り扱いを退職前に本人に説明しておくほうが無用なトラブルを防ぐのによいでしょう。

5に、 PC、スマホ、鍵、社員証、制服などはもちろん、社外秘のデータや名刺なども確実に回収・削除しなければなりません。特に紙で支給した規定集・業務マニュアル・組織図・リスト(顧客や役員・従業員などの個人情報が記載されているもの)などは忘れがちなので、回収を徹底します。業務に用いたIT機器を回収するとともに、個人のスマホやタブレットなどを業務にも利用していた場合は、業務に関する情報の消去も忘れずに行います。

6に、退職が決まった後の情報漏洩リスクを最小限にしなければなりません。そのために、退職する従業員のアカウントを退職日の当日(または最終出社日の就業後)に停止します。社内システムやSaaS、メールアカウント、共有フォルダへのアクセス権を確実に停止するために、必要な手順を事前に確認しておきます。また、念のため、退職直前に大量のファイルダウンロードや不自然な外部送信が行われていないか、ログを確認すべきです。もちろん、何らかの問題があれば、退職後であっても、法的なものも含めて必要な措置を取ります。

そして、第7に業務の引継ぎを円滑に進めることが重要です。引継ぎスケジュールを設定して、退職が決まった直後から、後任への引継ぎとしていつ何を行うのか明確にしなければなりません。通常業務の忙しさなどを理由に、当人同士では話が進まないこともよくありますから、経営者などが今日ここでレクチャーするように命じるとかマニュアル作りを手伝うとか、実際に行っている業務を動画で残すとか、本人任せにせずに直接関わることも不可避でしょう。

 

以上述べてきたように、退職管理のフレームとして、その基礎にリスクマネジメントの徹底を置くことができます。その内容は7つのポイントで説明した通りですが、退職の実務作業そのものをIT化しておくことも重要です。退職手続きをチェックリストにしてデジタル化して管理しておくとか、業務引き継ぎや有給消化のスケジュールを組んだものをカレンダーに登録しておくという程度のことは実践しておきたいものです。

もちろん、退職者が出るタイミングで改めて就業規則を読んでみることも必要かもしれません。業歴の長い企業ほど現代にそぐわない規定があるかもしれません。必要な見直しを行ったり、就業規則やそれに付随する規定類や申請書式などをデジタル化するきっかけとするなど、実務を効率的に行うベースを整備することにもつなげていきたいものです。

 

(3)に続く

 

【注1

一般に、普通解雇というのは遅刻や欠勤など勤務に支障が生じるなどのトラブルを起こした従業員に対して、就業規則に定めた該当事由を明示して解雇するものです。解雇予告または解雇予告手当の支給を伴います。

整理解雇というのは、会社の著しい業績不振などにより、事業場を廃止するなどして従業員との雇用契約を打ち切らざるを得ない場合です。事前に早期退職者の募集や希望者の配置転換などを行うこともあります。会社都合による解雇なので、退職金が制度化されている場合は会社都合の退職として扱います。解雇予告または解雇予告手当の支給も行われます。それに加えて、割増退職金を支給する事例も少なくないでしょう。

懲戒解雇は、対象となる従業員が就業規則に定める懲戒事由に該当する事案を行ってしまった際に適用されることがあります。対象者の立場や事案の重大性や深刻度に応じて、懲戒処分には段階を設けるのが通例で、訓告・戒告、始末書の提出、出勤停止、一定期間の減給、解職・降職、降格・解任、諭旨免職などが懲戒解雇よりも軽い処分として規定されているでしょう。懲戒解雇は最も重い処分で、懲戒処分が決定した日をもって即日解雇となり従業員の身分を喪失します。退職金や解雇予告手当の支給もありません。

このコラムでは退職について述べるのが目的であるため、解雇についてこれ以上詳しく説明することは行いません。

 

作成・編集:人事戦略チーム(202654日更新)