退職管理をフレームワークから作り直す(1)
現代の組織マネジメントや人事管理において、退職管理(オフボーディング)は採用定着(オンボーディング)と同じくらい重視すべきものです。かつてのように、「他社に転職するのは裏切り」であるとか「去る者は追わず」ということで片付けてしまい、今いる人たちで頑張っていくというような単純な話では事業運営ができなくなっている時代です。他の経営資源と同様に人材においても、適切な経営資源の活用と不要な経営資源の切り離しが不可欠ですし、同時に新たな経営資源の獲得(人材の確保)も進めていかなければなりません。
実務的には、入社当日に辞めてしまうなど新卒採用者の早期退職も問題ですし、退職代行や休職代行など個人向けの人事サービスも出現するなど、退職が発生してから対応するのでは人事施策が後手に回るだけです。改めて言うまでもなく、後手後手の対応で人材不足となり経営が立ち行かなくなる企業も珍しくはありません。
このように退職を巡る課題は様々なレベルで語られますが、人事管理の現状を振り返ってみると、企業が退職を適切に管理しなければならない理由として次の5点を指摘できるでしょう。
1.リスクマネジメントの徹底
最も直接的かつ実務的な観点です。
退職者が自社の機密情報や顧客リストを持ち出したり、退職後もシステムにアクセスできる状態が続いたりすると、セキュリティ上、大きなトラブルに見舞われるのが必然です。アカウントの削除や権限回収の徹底が必要なのは言うまでもありません。情報セキュリティの面から見て退職管理がいかに重要であるかは、論を俟ちません。
また、残業代の未払いやハラスメントの有無、退職に関する書類作成など、適切な手続きを踏まないと、後日、労務管理上のトラブルや訴訟に発展するリスクがあります。事務的なことこそ、適切な管理が求められます。コンプライアンスの観点からも退職管理は重要視されるべきものです。
2. 人材市場における企業の評判
退職者が続出している会社という評判は決して褒められるものではありません。採用にもマイナスです。
SNSや従業員の口コミサイトなどが普及し、現・元従業員の発信力が強まっている現実を踏まえて、退職者や退職予定者と組織との関係性を健全なものに保っておく必要性は、かつてないほど高まっています。
少なくとも、ネガティブな口コミは防止したいものです。経営者や人事部門にはそうした意図はなくとも、従業員本人にとって不本意な辞め方となってしまうと、ネット上に悪評を書かれ、将来の採用活動に致命的なダメージを与える可能性があります。
一方、退職した会社と良好な関係を維持している元従業員や元役員は、近い将来、ビジネスパートナーになったり、顧客になったり、あるいは出戻り社員として再度採用されるなど、何らかの貴重な資産となる可能性があります。アルムナイの活用やリファラル採用など、退職管理が適切に行われていることを前提に取り組むことになります。
3. 仕事を適切に引継ぐ(仕事に穴を開けない)こと
会社から人材が去る際、その人が持っていたノウハウや人脈などの無形資産が会社から消えてしまうのを防ぐ必要が組織にはあります。
そこで、退職プロセスを管理することで適切に業務を引き継ぐことを組織的に企図します。日常的に業務のブラックボックス化を防いで業務の属人化を解消しておくのが理想です。しかし、実現は容易でないので、最低限、組織に残ったメンバーの負担や予想されるミスや損失が会社や部門にとって致命傷にならない範囲に止めなければなりません。
現実には仕事が属人的に行われているのは程度の問題でしょう。〇〇さんが辞めると××業務ができなくなるということが、その人の退職で初めて気がつくということもあります。そうなら、次からは仕事が止まることがないように、組織の仕組みや業務プロセスの弱点を見つけ出すしかありません。
4. 人的資本の有効活用とあるべき組織体制の実現
退職(予定)者は、在職中の社員よりも人事や組織の問題点を率直に話してくれるかもしれません。なかなかホンネを語ってくれるわけではないとしても、退職時に経営幹部または人事部門が面談やアンケート調査などを行うのは、退職管理の必須プロセスのひとつです。
そこで、仕事上の不平不満、職場の人間関係、処遇や評価への不満、キャリアの行き詰まり、教育体制の課題などを分析することで、今後の人材活用や職場環境の改善に活かしたり、組織として望まない離職の防止に取り組んだりしなければなりません。
5. 社会全体での人的資源の最適化
人材という経営資源はひとつの組織のものではありません。社会全体で人材不足が大きな課題となる中、一度採用したからといって、その人材を活かすも殺すも組織の勝手というのでは、企業の社会的責任に背く行為です。
人材を育成する機会を与えられない、人材を育成する意志がない、他社で活躍するかもしれないのなら自社で飼い殺すほうがまし、などなど人を人材と認めないような組織に陥らないように、退職者だけでなく在職者も含めて、自社のあり方を絶えず見直すことが必要です。
そして、どうしても活用できない人材については積極的に社外に活躍の場を求めるように促すことも、組織の果たすべき社会的責任として実践していくことが望まれます。
これらの観点から言えば、現代の企業にとって、退職は単に人材や戦力の不足が問題なのではありません。退職管理というマネジメントプロセスは、リスクマネジメント・人材市場とのコミュニケーション・業務の継続性(コンティンジェンシープランニング)・人的資本の活用を左右する重要な経営プロセス・社会的責任経営の一部となっていることを自覚しなければなりません。
今回のコラムでは、退職管理そのものを事業環境の変化に適応したものに作り直していくために、基本的な退職管理の手続きから見直して、実務的な課題を検討した上で、人事戦略として退職管理をどのように捉えるべきか考えていきます。
作成・編集:人事戦略チーム(2026年4月27日更新)