より激しく変化する事業環境に適応するには(4)
事業環境の急変に適応するのに、資金・人材・顧客基盤など必要と思われる経営資源を相当程度に有しているとしても、それだけで十分に準備できているわけではありません。最も重要なのは、経営者自身が事業環境の急で激しい変化に適応していくマインドセットをもち、必要と判断する方策を自ら考えだし、いくつかの選択肢の中から意思決定して実行していくことです。
言い換えれば、単に事業を成長させて収益をあげて次の投資を実行していくだけでなく、事業に見切りをつけたり売却や廃業を断行したりすることこそ、経営者として果たすべき役割であると改めて自覚すべきでしょう。
こういう時代における経営者は、特定の事業を見るだけでは役割を果たしたことにはなりません。ポートフォリオ・マネージャーとして企業全体の事業構成を経営資源の制約や事業環境の動向などに照らして最適化していくのが、経営者の仕事なのです。
個々の事業運営に関わるのではなく、事業運営は執行責任者(事業運営の子会社の社長とか事業部門を担う執行役員など)に任せることが、手始めに経営者に求められます。経営者を選ぶ取締役会もそうした観点で経営者を指名し、その結果を評価しなければなりません。
こうしたことはわかってはいても、現実はその通りには動かないというのが多くの企業の実情です。特に中小企業ではそうでしょう。圧倒的に多くの中小企業では相変わらず、経営者がオーナー兼執行責任者兼実務担当者であるのが実態です。
そこでは、経営者自身が事業のコアとなる製品・サービスの開発にのめり込んだり、人事や財務に時間を取られていたりするでしょう。そうした現実は仕方がないと諦めるのか、経営者でなければできないことは経営上の意思決定であることを想起して、今の姿を変えていこうとするのかが経営者に問われるべきテーマです。
経営者自身がその企業のオーナーであるならば、日常的に事業の入れ替えを選択肢にもって事業運営に当たらなければなりません。もちろん、執行責任者を自分以外に委ねるのは人材が量的にも質的にも不足するなかで極めて困難なことでしょう。
経営者が事業を切り離すことを頭の片隅に置きながら仕事をするのは、既に矛盾しています。そこで、できるだけ実務から手離れするように業務の仕組みを見直すことから始めることになります。
特に事業を立ち上げている時期では、オーナーであり経営者である人が自ら実務のひとつひとつを処理していくのは当然ではありますが、その後できるだけ早期に実務を自らの手から放していくことが肝要です。
そのためには、次のような仕事の進め方を意識的に行うことが要請されます。
l 実務はすぐに誰かに引き継ぐ習慣をつけておく
l 実務を処理する一回目は自ら行うとしても二回目以降はルールや仕組みを作って自分でなくても処理していけるようにしておく
l 日常的な仕事は業務の効率化に長けている人に任せて自動化・システム化していくのを組織全体の当たり前にしていく
一口で言えば、その場しのぎの仕事のやり方を意識的に止めて、自動化・システム化・仕組み化を進めていくことです。
その上で、経営者はまず事業環境の変化を感じ取ることが必要です。事業環境の変化を他社よりも抜きん出て早く見抜くことは難しいものですが、何かが変わってきていると感じ取ることはできます。例えば、定期的に顧客の現場を訪問し実地に見学することで、変化を感じ取ることは可能です。毎回、気づいたことをメモしておくだけでも変化は見て取れるものです。こうした時間や労力こそ経営者が自ら投入すべき資源と言えます。
事業環境の変化は、決して社外人脈作りやセミナー参加などで把握できるものではありません。仮にそうしたところで何らかの知見を得られたとしても、その段階では既に起きた変化を確認しているに過ぎず、経営者としては一般論を知らなかったことを恥じるべきでしょう。事業環境の変化、特に自社を取り巻く身近な環境の変化は、その現場にいる顧客や取引先や従業員などから直接見聞きする情報の中から感じ取ることができなければなりません。
ここまで述べてきたように、経営者が事業の急な方向転換を可能にするには投資家的な立ち位置が必須で、そのためには実務に埋没しないように自分の時間やエネルギーをコントロールしなければなりません。要は、事務処理や関係者とのコミュニケーションなどの時間や労力をいかに削減して、投資家的な立場に自らの時間やエネルギーを充てていくのかが問われます。
既にAIによる事務効率化は単なるチャットから、一歩進んでエージェント化(自動実行)へと発展しています。つまり、日常の「書く・まとめる」をゼロにする=毎日発生する定型業務をAIに丸投げする=ことから着手してみることが必要です。
例えば、Microsoft Teams にある機能では、録音から文字起こし、さらには決定事項やTo Doリストの抽出まで数分で終わるので、ミーティングのメモや会議などの議事録を完全に自動的に作成して関係者に配布することができます。既に精度が90%を超えているとされており、人間が修正する手間は最小限でよいと言われています。
また、メールやチャットのドラフト作成では、ChatGPT や Claude といったAIに、箇条書きで要件を伝えるだけで、相手に合わせた適切なトーン(敬語・親しみやすさ等)の返信文を生成することが可能です。
次のステップとしては、バラバラのデータや複数の資料を横断して分析することも自動化することになります。Google Workspaceなどを使うと、社内の大量のPDFや議事録やマニュアルなどを読み込ませ、そこからデータテーブル(表)を自動的に作成することができます。それらをグラフ化するのも容易です。
例えば、「過去1年間の見積書から、取引先別の合計金額を抽出して表にして」といった指示で、取引先別の集計表が出現します。ExcelやGoogleスプレッドシートで関数を組んで処理していた作業も、Gemini for Workspaceなどに「この列の住所表記を統一して」「不要な重複を削除して」と日本語で指示するだけでデータが使えるように整えることができます。
更に、自分でプログラミングができなくても、特定の業務に特化した専属のアシスタントに相当するものを構築できます。例えば、「メールで届いた請求書をAIで読み取り、自動でクラウド会計ソフトに入力し、支払い期限をカレンダーに登録する」といった、ITツールをまたいで業務処理を自動化することもできるようになっています。Gemini Enterprise やClaude などの機能を使えば、人事・経理・マーケティングといった特定業務のルールを教え込んだ、自分だけのアシスタントをノーコードで作れます。
こうしたことは、やったことがないとどこから手をつけるべきか躊躇したまま、何も進まないことになりがちです。AIによる効率化の原則は「自分が一番嫌いな、単純な繰り返し作業」から自動化することです。伝票入力、スケジュール調整、報告書作成など、経営者自身が日常的で煩わしい事務作業を特定して、それらを自動的に処理する方法をAIに尋ねると、最適なツールやプロンプト(指示文)をAIが提案してきますから、それに応じて日本語で作業を指示すればよいのです。
もちろん、こうしたAIの活用は事務効率化に留まりません。AIを自分の秘書や顧問などとして活用することで、いままではアイデアが及ばなかったような事業戦略上の選択肢を考え出すことも可能となります(注3)。
中小企業や個人事業ではこうしたことを自らやってみることも必要ですし、現に行って一人で数十もの顧客に対応する士業の事例なども広く知られるようになっています。そうした事例を見て学ぶことも中小企業の経営者にとって不可欠な習慣となってきています。
【注3】
実はこのコラムも昨年よりGemini やChatGPT などを活用して作成しているところがあります。実感として下調べなどの作業効率が上がったことはもちろんのこと、コラムへの反応なども良くなったところがあり、ポジティブな効果があったと言えます。
作成・編集:経営支援チーム(2026年4月15日更新)