より激しく変化する事業環境に適応するには(3)
プランAを実行しながらそのオプションであるプランBも実行する可能性があり、その上にプランCを選ばざるをえない事態に直面することを前提に経営資源を活用するには、特に資金・人材・顧客基盤についてしっかりと把握しておくことが求められます。
経営資源のうち、何はともあれ、現金が最も重要です。
現金が十分にあれば、人材や顧客基盤、そしてそれ以外の経営資源、特に機械設備や原材料などのハードウエアの経営資源及び時間や地域といったものについては、カネで何とか手当てすることが可能です。言い換えれば、すぐに動かすことができる資金=現金=を相当程度に保有していないのであれば、他の経営資源にある程度は恵まれてはいても、事業環境が急変した場合に即応できないという弱点をもっていることになります。
人材不足であっても資金があれば、他社から人材を引き抜いたり、欲しい役員や従業員がいる会社を丸ごと買収したりすることで事業環境の急変に対処できます。同様に、顧客基盤やハードウエアの経営資源などが大きく欠けるとしても、多少なりとも高いコストを支払うことで現金を活用して対処することができます。
事業環境の急変に備えて現金を十分に保有しておくというのは、一方では資金効率の低下を招く行為です。コストカットや投資削減で徒に現金を蓄えておくのではなく、可能であれば、文字通りの現金ではなくコミットメントラインのような融資枠を事前に設定しておく金融商品を契約しておくとか、社債などを発行しておいて機動的に動かすことができるだけの資金余力をもっておくとか、自社の属する企業グループの間で資金プールを設けておくといった工夫が必要です。
こうした手段は中小企業単独では実現が難しいとすれば、同様の中小企業が集まって資金調達手段としてのホールディング・カンパニーを設立して平常時から資金調達能力を高めておくといった方策を検討すべきでしょう。
そして個々の中小企業としては、現金の回収をできるだけ早くして現金化の比率を高めていくことを強く意識しておきたいものです。理想的には売上が発生した時点で100%現金で回収できればベストです。現実には不可能ですから、1~2ヶ月以内の口座振込とか決済システムからの入金があるようにしておきたいものです。
いずれにしても、何らかの手数料を差し引かれて売上が100%回収できないとか、自社に現金が入ってくるのが数か月後とか、売掛債権を売却して現金化しなければならないとか、入金までの期間が長い場合や売上を100%回収できない状況にあるとすれば、まずは売上に関する業務改善が必要です。特に、決済手数料やシステム利用料、券売機等のリース料など、売上管理や決済に要するコストが総売り上げの数%を占めるのであれば、事業環境の急変がなくても早急に改善すべきでしょう。
次に人材という経営資源について考えてみます。
事業環境が急変する状況における人材というのは、その価値が急変しかねないリスクを多く含んだ経営資源です。この点は、現金という経営資源と比較してみれば明らかです。
100万円の現金は、インフレが進むと将来は減価するとしても、1年後に現在価値で50万円をきることは考えにくいでしょう。人材は、今日は戦力となっている人でも、1年後に事業を転換しているとすれば、その変化についていける人とそうでない人では、人材としての価値がプラスからマイナスに一変するかもしれません。リスキリングやキャリアカウンセリングが効果的であるとしても、それらでは変化のスピードについていけないのです。
一般論ですが、自社のこれまでの事業のなかで成長し人材価値を高めてきたからといって、これからもそうであり続けるという保証はありません。事業環境が急変する場合、そうした急変に適応してきた経験がないとすれば、事業転換に抵抗したり反旗を翻すような行動に出たりするのが自然な反応です。
従って、人材については最悪の場合、全員を解雇するか退職させることを前提に、資金調達を考えておくべきでしょう。自社の事業転換に一定のタイムフレームでついてこられない人については、資金がある内に次のキャリアに挑戦してもらう機会を与えるのが経営者の責務です。特に中小企業の場合、自社内でのキャリア開発には大きな限界がありますから、人材の入れ替えを躊躇してはなりません。
同時に、新たな事業に向けて新たな人材を調達することも必要です。こちらにも資金は必要です。事業環境が急変する状況で経営者がしなければならないのは、こうした経営判断を下して実行に移すことです。時には、自社に残す人と社外に出す人を峻別しなければなりませんし、最終的には辞めさせるべき人のリストを作成しつつ、次に雇うべき人材を採用する手続きを進めるのが経営者の仕事です。
第三に重視すべき経営資源は顧客基盤です。これは、起業や新規事業開発に挑戦した経験がある人であれば実感されることと思いますが、ゼロの顧客をイチにするというのは、事業を起こす上で最も厳しいものです。イチの顧客を10にし、100にしていくのも容易なことではありませんが、まずはイチがないと始まりません。
その点、既に事業を営んでいて何らかの顧客との関係ができあがっている企業にとって、仮に現在の事業を全て止めてしまったとしても、顧客との関係が何らかの形で維持できているうちに、その顧客との関係性のなかから次に事業の種が芽を出すことがあれば、顧客ゼロからのスタートとは比べ物にならない優位性があります。何しろ、すぐに売上が立ち、現金が入ってくるのですから。
仮に、自社がひとつの会社のみに全面的に依存する下請けであったとしても、その唯一の顧客から評価されて発注されるものがあれば、当面は事業としてやっていくことができます。事業環境の急変で下請け関係を切られることも十分に予想されますが、それは次の経営課題です。
特に法人向けの事業に取り組んでいる企業にとって、数少ない顧客とのつながりで既存の事業を回しているケースは珍しくないでしょう。既存の顧客の事業について第三者から見て成長が見込めるのであれば、当面はその既存顧客についていくのが現実的な方針です。それらの顧客の事業転換を読んで製品・サービスを先取りして開発できるように、顧客に深く入り込むのもひとつの戦略です。
もちろん、少数の特定顧客に売上の大半を依存するというのは、可能であれば早急に変えるべき事業構造ではありますが、中小企業にとって容易に実現できることではありません。むしろ、その構造を捨て去らなければならない状況に追い込まれて初めて事業構造を変えることに取り組むのが現実でしょう。
できるところから、顧客を少しずつでも広げていくことを経営者が意識できない限り、中小企業が顧客基盤を変えていくことは難しいものと思われます。既に顧客基盤があるのであれば、事業環境が急変しても、まずはその活用を考えるところから着手すべきでしょう。
作成・編集:経営支援チーム(2026年4月9日更新)