2026年冬の3冊(2)~「アレルギーの科学」
次に採り上げるのは、「アレルギーの科学 なぜ起こるのか どうして増えているのか」(森田英明・足立剛也編著、2025年講談社ブルーバックス)です。
筆者は花粉症(主にスギ、ヒノキも多少)だけでなく、蕁麻疹、甲殻類アレルギー(特にエビ)、その他の食物アレルギー(柿、シジミなど)などのアレルギー症状がでることがあります。特にこの時期は花粉症の症状が出始めることもあり、一度アレルギー全体について知っておきたいと感じています。本書はそうした要望を満たしてくれる一冊です。
さて、その概要は以下の通りです。
第1章 アレルギーとは何か――その由来から現在地まで
第2章 「生体の門番」免疫と、アレルギー――体内で起きている反応のメカニズム
第3章 アレルギーはなぜ増えた?――“現代病”を説明する仮説たち
第4章 アレルギー疾患VS.各器官――ミクロな世界での攻防
第5章 アレルゲン別にみるアレルギー――「原因×症状」の組み合わせで見えてくるもの
第6章 アレルギー治療・予防の考え方と免疫療法
第7章 アレルギーの克服に向けて――最新研究と「これから」
第8章 アレルギーと共に生きる未来へ――患者と社会が共につくる医療のかたち
第1章はアレルギーという言葉の由来を紹介し、アレルギー反応とアレルギー疾患、アレルゲンと抗原などを説明します。そして、アレルギー疾患が現代病と呼ばれる所以を述べます。
第2章は、主に「生体の門番」と呼ばれる免疫について細胞レベルから説明します。免疫細胞の役割やアレルギーとの関連を述べます。
第3章は、アレルギー疾患が“現代病”とされるに至った原因をいくつかの仮説で説明します。ゲノムレベルでの遺伝要因、大気汚染・黄砂・ハウスダストなどの環境要因、衛生仮説(注1)、上皮バリア仮説と化学物質の関係などを紹介します。
第4章では、アレルギー疾患を人体の器官別に詳述します。皮膚におけるアトピー性皮膚炎、呼吸器における喘息、鼻における花粉症、目におけるアレルギー性結膜炎、消化管での好酸球性消化管疾患、全身性の蕁麻疹とアナフィラキシーを採り上げています。
筆者の関心は、やはり花粉症と蕁麻疹です。花粉症については、家族歴・大気汚染・花粉飛散数の3要素が発症するかどうかを分けると述べられていますが、個人的な経験からみても、もともと母親が喘息を発症していた上に後には花粉症にもなっていたという家族歴があり、子供の頃には都内で光化学スモッグが激しくなった後に発症するようになり、成長するに従ってスギの木々が都内や近隣の地域で多くなっていったりしたことなど、思い当たる節ばかりです。
第5章は原因物質(アレルゲン)からアレルギーを見ていきます。原因物質は大別して、食物アレルギー、口腔(花粉―食物)アレルギー、かぶれ・金属アレルギー、薬剤アレルギー、動物・昆虫アレルギーがあります。具体的には、食物は甲殻類、ナッツ類、そば・小麦・米など、口腔は果物を食べると口の中がかゆくなる症状が出るもの、かぶれ・金属は漆・ニッケル・コバルトなど、薬剤は周術期アナフィラキシー・重症薬疹(スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症、薬剤性過敏症症候群)・固定薬疹など、動物・昆虫アレルギーでは犬、猫、馬、マウス、蜂、ダニ、ゴキブリ、コオロギなどがあります。それぞれが単独でアレルギーを引き起こすことがあるのはもちろん、複数のアレルゲンが交差反応を引き起こすことにも注意が必要です。
第6章では、アレルギーの治療・予防について、特にアレルゲン免疫療法を紹介します。その中でも主流となっている舌下免疫療法を解説しています。
第7章では、アレルギーの最新研究と今後の方向を述べます。ゲノムレベルでの治療、神経免疫連関、腸内細菌叢とアレルギーの関係などから将来のワクチン開発などを展望します。
第8章では、アレルギー研究の10か年戦略を紹介します。本書の執筆者たちもこうした研究プロジェクトのメンバーであったり、そこから得られた知見を活用したりすることで、本書が生まれたことがわかります。
このように本書は分子レベルの話から地球レベルの環境変化まで幅広くアレルギーに関する知見を紹介しています。その中で特に注意を惹かれたのが、PFAS(花粉-食物アレルギー症候群、pollen-food allergy syndrome)です。詳しくは本書の201~213ページを参照していただくとして、花粉症の原因である花粉アレルゲンに含まれるタンパク質の一部が果物や野菜にも含まれるため、口腔内などで局所的にアレルギー(交差反応)を引き起こすことがあるという現象です。スギやヒノキの花粉症である筆者はモモを食べると口腔内や咽喉付近がイガイガする感じになるため、好んでモモを食べることはないのですが、その原因が花粉症にあったとは知りませんでした。
花粉症などアレルギー性鼻炎の発症率は世界中で上昇していること、地球温暖化により植生が大きく変化し北欧などの寒冷地でも温帯性の植物が増加して花粉症の発症リスクを高めていることなど、アレルギー疾患の問題は医学(科学)の研究課題である以上に、グローバルかつ社会的・経済的な課題であることにも注目すべきでしょう。
また、アレルギー疾患(花粉症、蕁麻疹)の患者の一人として治療法にも興味をもって本書を読んでみたのですが、アレルギーを抑えたりする薬はより良いものがでてきているにしても、根本的な治療法となると経口免疫療法や舌下免疫療法のようにアレルゲンに体を慣らしていくアプローチが現実的というのは、いささか期待外れでした。
アレルゲン免疫療法というのは、花粉症がひどかった母がアレルゲンを注射で体内に入れて減感作を試みていた40~50年前と原理的に同様のアプローチです。よりスマートに負担が少ないように進めるに過ぎません。エピペンが必要な急性症状がないだけ治療に余裕があるとも言えますが、意外とアレルギーの医学は治療という面では進歩がゆっくりとしているように思われます。筆者自身は時間がかかるアレルゲン免疫療法を試みたことはなく、花粉症を発症する前から予備的にアレグラなどの経口薬を用いる対症療法ばかりです。
アレルギー疾患はいつでも誰もが発症する可能性があるものです。発症した後の対症療法が必要なだけでなく、生活や仕事の質が明確に低下するだけに、本書のように幅広くアレルギーについて紹介しておく価値はあります。まだアレルギー疾患を発症したことがない人であっても、一読しておくことを推奨したいものです。
【注1】
衛生仮説というのは、本書78~79ページによれば、「清潔すぎる生活環境が、子どもの免疫系の発達に悪影響を与え、アレルギーを引き起こしやすくしているのではないか」という考え方です。イギリスのデヴィッド・ストラカンが1989年に提唱したことからスタートし、疫学調査により支持される仮説でもあります。
作成・編集:QMS 代表 井田修(2026年1月8日更新)