ダイアン・キートン氏の訃報に接して
20世紀後半のアメリカ、特にニューヨークを代表した女優の1人が79歳で亡くなったと昨日報じられました。映画監督・脚本家・俳優・コメディアンのウッディ・アレンと公私ともにパートナーだったこともあるダイアン・キートン氏です(注1)。舞台を映像化したものから重厚なドラマや軽妙なコメディなど、実に幅広い作品に出演し、主役も助演も見事にこなしてみせました。
ちなみに、筆者が個人的に観たことがあるのは以下の作品(注2~10)です。
「ゴッドファーザー」(“The Godfather”1972年USA)
「ゴッドファーザーPARTⅡ」(“The Godfather PartⅡ”1974年USA)
「アニー・ホール」(“Annie Hall”1977年USA)
「ミスター・グッドバーを探して」(“Looking for Mr.Goodbar”1977年USA)
「インテリア」(“Interiors”1979年USA)
「マンハッタン」(“Manhattan”1979年USA)
「レッズ」(“Reds”1981年USA)
「ゴッドファーザーPARTⅢ」(“The Godfather PartⅢ”1990年USA)
「ファースト・ワイフ・クラブ」(“The First Wives Club”1996年USA)
最初に鑑賞したのは、「アニー・ホール」です。ウッディ・アレンとともに主演を務めました。この作品は、アカデミー賞の作品賞や監督賞・脚本賞を受賞しましたが、俳優としてアカデミー賞に輝いたのはキートン氏でした。
この作品を観たときは、画面に向けてしゃべり続けるウッディ・アレンの姿とともに、ボーイッシュで独特なファッションのダイアン・キートンの立ち居振る舞いが強く記憶に残りました。作中で衣装や身につけているものは氏の私物だったと言われており、その通りであるならば、この作品に映っているアニー・ホール(ホールというのはダイアン・キートン氏の本名)は演じているものというよりも、自然にある姿ではないかと思わずにはいられません。
次に観たはずの「ミスター・グッドバーを探して」でも主役を演じていますが、こちらはコメディではなく、シリアスなドラマです。
この作品の原作が扱う事件はもとより、この作品のプロットやキャラクターなども、後年、東電OL殺人事件と呼ばれることになる事件を連想させるに十分なものです。社会的に評価される仕事や経歴を特に不満のない人生を送っているように見えながら、一方では心に何らかの不安や満たされない感情をもっている未婚の女性を体現するかのような演技です。この作品の見せ場のひとつが多重ストロボ撮影によるクライマックスで、「マスター・オブ・ライト」(完全版)の中(141~144ページ)で表現の意図するところや撮影技術の面で言及されています。
それ以降は、ウッディ・アレン作品の常連俳優として出演しているものに「インテリア」と「マンハッタン」があります。いずれもニューヨークを舞台にしているのですが、「インテリア」はウッディ・アレンがインゲマル・ベルイマンを強く意識していたと思われる作品であるのに対して、「マンハッタン」がラプソディー・イン・ブルーにのせてモノクロの映像でラブ・コメディを描きます。いずれも主役ではありませんが、重要な役を演じ分けてみせます。
そして、忘れてならないのが「ゴッドファーザー」3部作におけるケイ・アダムス役です。3部作を通じての主人公であるマイケル・コルレオーネの妻の役です。
結婚するまでの第1部、窮地に陥った夫を支えながら子供たちを育てるが離婚して子供たちと離れ離れになってしまう第2部、再婚した後にも元の夫とともにシチリアを訪れる第3部、このように同じ役で3部すべてを通して出演していたのは、主人公に扮したアル・パチーノとその妹を演じたタリア・シャイアだけでしょう。この3者の関係は物語が進むにしたがって、その関係も変化していくことが丁寧に描かれます。この点から見れば、ゴッドファーザー3部作はゴッドファーザーと呼ばれる地位に就く男とその妻・妹の物語でもあるわけです。
「レッズ」はウォーレン・ベイティが製作・監督・共同脚本・主演を務めた大作です。ロシア革命をレポートした「世界を揺るがした10日間」を著したジョン・リードとその妻ルイーズ・ブライアントの物語です。氏はルイーズ・ブライアントに扮して、今でも改めて考えられるべき生き方を主張する女性活動家を演じます。
最後に紹介する「ファースト・ワイフ・クラブ」は夫を若い女に奪われた3人の女性が夫たちに報復するコメディです。氏はその3人のうちの1人を演じます。ほかの2人をゴールディ・ホーンとベット・ミドラーが演じて、いかにもコメディという仕上がりになっています。どのような作品でどのような演技が見られるかは、3人が歌うラスト・シーンをちょっと見るだけ(注11)で推測できそうです。
こうして見ると、演じた役の時代や状況は様々ですが、アメリカ人女性の生き方を考える材料を体現してくれた俳優だったと言えるでしょう。
【注1】
ダイアン・キートンさん死去、79歳 「アニー・ホール」「ゴッドファーザー」 - CNN.co.jp
ダイアン・キートン、79歳で死去。『ゴッドファーザー』『アニー・ホール』など出演 | Vogue Japan
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作成・編集:QMS代表 井田修(2025年10月14日)