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退職管理を適切に行うには(1)

退職管理を適切に行うには(1)

 

人材不足による倒産が注目される一方、業績が良くても人員削減を行う企業もあります。もちろん、業績不振から人員削減を行う会社というのもしばしば耳にします。

組織全体の動きとは別に個人レベルでも、退職や転職というのは日常的なものと言えるかもしれません。実際、退職代行サービスはもはや定着したと言えるでしょうし、人材を採用しようとする企業もミスマッチがある程度生じるのは仕方がないと割り切って、新卒採用とともに若手の転職市場でも採用活動を同時平行で進めたり、短時間労働でよいから自社との接点をもつ人でも従業員候補として人材プールにリストアップするケースも珍しくはありません。

更に、定年延長や定年・再雇用を行うとしても、いずれは退職する時が来る以上、早めに計画的にベテラン従業員を補完しようとしたり、他社を定年退職したり定年延長を断ったりした人材を新たに採用しようとする企業も相当程度出てきています。

もちろん、人材不足で倒産しないように採用を活発化させる一方で、仕事の足を引っ張る従業員を退職させることも重要であることは、改めて言うまでもありません。そうしないと、仮に少数であっても問題のある従業員がいる組織では、最悪の場合、人材を採っても採っても残ってほしい人ほど辞めていくという、悪い意味での人材流動化に陥ってしまうからです。

いずれにしても、従業員が退職したり解雇されたりするのはどの企業でも定常的に発生する事象です。そこで、退職を円滑に問題なく実施していくことが人事の機能のひとつとして改めて重視されます。反対に退職の実務が滞ったり、何らかの問題が生じてしまったりした場合を想定してみれば、この重要性は理解できるでしょう。

 

さて、従業員が退職する際に行うべき人事機能を退職管理と呼ぶとすれば、採用や評価などと同様に、その業務は、基礎的なもの、実務上行うべきもの、人事戦略上取り組むべきものと、大きく3つのレイヤーに分けて考えることができます。

基礎的な退職管理というのは、ルールや手続きが事前に明確に定められているかどうか、そして、その定められている通りに実際に退職の手続きが行われているかどうかが問われます。

具体的には、退職事由または解雇事由の確定、未払いの給与・賃金・賞与等の金額確定とその支払い、退職金の支給、最終出勤日及び残余の有給休暇の取り扱い、会社の備品・用品と個人の持ち込み品の分別、情報流出忌避義務・競業忌避義務など退職後にまつわる雇用に付随する契約事項、社会保険及び年金の取り扱い、福利厚生プログラム(社宅や借上げ社宅の取り扱いなど)や教育プログラムで未処理なもの(奨学金立替分や留学費用の取り扱いなど)が想定されます。

実務上行うべき退職管理というのは、単にルール通りに退職手続きを執り行うだけでなく、そのプロセスで特に注意すべきものを扱います。実際には業務マニュアルや職場の慣例として確立しているものを、そのまま執り行うだけということも多いと思われますが、ケースバイケースで個別に対応しなければならない事象が発生するかもしれない点は注意が必要です。

例えば、退職時面接、業務引き継ぎ、最終出社日のセレモニーなどは、マニュアルや慣例通りに済めばよいのですが、辞める経緯や退職予定者の心情などでトラブル化するかもしれません。特に、辞めるということが噂として広まるのは、組織運営上も人事管理上も感心することではありません。誰がいつどのようにして本人と会う(会わない)のか、事前に本人と会社が話し合って、どのように退職までのタスクを行うのか趣旨や作業内容を確認して、ひとつのプロジェクトとして日程や予算を調整しておくことが望まれます。

人事戦略上取り組むべきものというのは、人材戦略と退職・解雇の現実との整合性の確認、人員計画と事業計画の整合性の確認、退職者の活用(狙いと方策の明確化)などです。特に経営幹部や事業戦略の鍵となるコア人材の退職については、その影響が事業にどの程度及ぶのか見極めた上で、対応策を打ち出さなければなりません。極端な話、CEOがスキャンダルで失脚といったストーリーが社外に流出してしまうと、ダメージコントロールを社内外のコーポレートコミュニケーション活動の一環として即座に進めなければなりません。ことは人事の範疇では済まなくなります。

 

退職管理について扱うべきこれらの事項は、現実的には人事の専門的な知識や実務経験などを有する人材の質と要員数でどこまで取り組むことができるのか変わってきます。言い換えれば、企業の規模や歴史及び経営資源(財務や人員など)によって、できることとできないことがでてきます。そこで次回以降、小規模企業・中規模企業・大規模企業に分けて、退職管理のありかたを考えていきます。

なお、このコラムでは本人が退職を求める退職希望者や会社が退職を要望する退職要請者が発生した時点から後の退職管理について述べることとします。退職希望者の引き留めや辞めてほしくない人材と辞めてほしい人材の線引きなど、退職・解雇に至るまでの人材マネジメント上の課題については扱いません。これらの課題については、後日、稿を改めて取り扱うかもしれません。

 

作成・編集:QMS 代表 人事戦略チーム(2025913日更新)