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2025年度の補助金・助成金を申請する上で改めて考えたいこと

2025年度の補助金・助成金を申請する上で改めて考えたいこと

 

 今回は、資金調達の手段として公的な補助金・助成金を活用することを改めて考えてみたいと思います。ちなみに、個人事業や中小企業では一般に資金調達の方法として以下の7種類を挙げることができます。

 

1.   自己資金

経営者個人または経営者の親族などのもっている資金や資産を資本金(増資)または貸付金として投入する方法。

既に事業運営が行われている場合は、これまでの事業運営で得られた剰余金が内部留保として存在するのであれば、その剰余金を活用することもあります。

資本金であれば返済義務がなく自由に資金を使えます。言い換えれば、財務的な自由度が高く迅速な意思決定と資金活用が可能です。

経営者自身またはその親族から借り入れた資金であれば、形式的には返済義務はありますが、借り換えを繰り返すことで実質的に返済義務を無効化することも不可能ではありません。

但し、自己資金は資金量に限りがあり大規模な投資には向きません。もちろん、経営者個人やその親族の生活資金が逼迫することもあります。通常、自己資金だけで当初必要と見込まれる費用を全て賄うことは極めて難しく、必要最低限の初期費用を自己資金で賄い、不足分は他の資金調達手段で用意することになります。

2.   出資

個人投資家、事業法人、ベンチャーキャピタルなど、経営者本人及びその親族など以外から直接資金を受ける方法。

返済義務がなく、得た資金を自由に活用できます。出資者のネットワークやノウハウを活用することも可能です。

但し、株式を譲渡するため、経営権の一部を失ったり、取締役として経営チームに人を迎え入れなければならないことも起こります。当然、出資者の期待に応えて事業を成長させることができなければ、経営責任を追及され、ときには経営者の地位を追われる虞もあります。

将来の飛躍的な成長を望み、実際に事業計画もスケーラブルなものであるのであれば、積極的に出資を募るべきです。事業によっては、出資を受ける時点でエグジット(他社への売却とか株式公開など)の見通しを具体的にもっておくべきでしょう。

3.   融資

金融機関から借り入れる方法。

対象となる金融機関には、銀行・信金・信組などの民間の金融機関もあれば、日本政策金融公庫などの公的な金融機関もあります。比較的大規模な資金を安定的に調達したい際や当面の運転資金が必要な時に活用されます。

株式を譲渡する必要がないため、経営権を維持できるメリットはあります。一方、融資金を返済する義務と利息の負担があり、キャッシュフローへの影響が大きいことに留意すべきです。また、誰でもいつでも好きなだけ借り入れできるはずもなく、融資には金融機関による審査があり、少なくとも事業計画や担保が必要です。

公的機関や自治体では創業融資や製品・サービスの開発などへの融資制度がさまざま用意されています。一般に、民間の金融機関よりも金利負担が軽かったり、融資期間が長かったりします。設備投資や運転資金に利用できます。

4.   クラウドファンディング

インターネットを通じて不特定多数の支援者から資金を募る方法。

プロジェクトの宣伝効果や市場テストを資金調達と同時に行ったり、製品やサービスの潜在的なファンを獲得することなどを目指して行われたりするものですが、魅力的なプロジェクトでなければ、思ったようには資金が集まりません。また、クラウドファンディングを行うためのプラットフォームを利用するので、その手数料が発生します。

そもそもクラウドファンディングが成立するくらい、注目を集めることができるのであれば、他の資金調達手段でも相応の資金を集めることができるでしょう。

一般的には、社会課題を解決しようと試みるプロジェクトや製品・サービスの立ち上げに効果的な方法ですが、資金調達手段として必要な資金に占める割合を高く予定することは避けたほうがよいでしょう。

5.   資産売却

事業の一部及び稼働率の低い資産や保有しているだけの権利関係(パテントなど)を他者に売却して現金を入手する方法。

既に何らかの事業を行っている場合は、既存の事業で活かしきれていない資産を売却したり、現事業で活用している資産であっても一旦売却してリースバックするなどして、現金を生み出します。

新たに起業して事業を立ち上げる場合やもともと固定資産をあまり保有していないビジネスでは、売却すべきものがありません。一般に大企業や歴史が長い法人であれば売却できる資産がありそうです。この手段を用いることができるのは限定的と言わざるを得ません。

6.   補助金・助成金

国や自治体が一定の条件を満たす事業者に提供する支援金のことです。

返済不要なので事業のコストを削減できたり、採択されることで事業の信用力が向上したりする可能性があります。但し、融資や出資に比べて金額的には小さいので、この手段だけで資金を調達するのは無理があります。また、通常、必要な投資に要する費用を一旦は事業者が全額支払い、その領収書などを精査した後に、その費用の一部を補助金・助成金として支給することになるので、別途、融資などの資金調達が必要となります。

未経験者にとって申請手続きが複雑に感じるかもしれない上、審査結果が出るまでに時間がかかり、ストレスを感じる経営者も少なくないでしょう。また、多くの場合、資金の使途が限定されていますから、同じ法人の別の事業に転用したりすると、事後的に返還を求められることもあります。

補助金・助成金を活用するには、業種や事業規模に適したものを探し出すことが必要です。その探索や書類の作成・申請といった業務を専門家に依頼することも多いでしょう。中には、成功率を向上させることができますと謳う専門家もいますが、玉石混交は否めません。

自社で活用するのに適した補助金・助成金にはどのようなものがあるのか不明であれば、取引のある金融機関及び自治体の専門部署や商工会議所などに相談するのも一つの方法です。

7.   資金回転

入金(即時の売上回収、前受金となるサービスの導入など)と出金(支払い期限の先延ばし)の時間差を利用して、現金を確保する方法。

現金販売のみか現金販売中心の小売業や外食産業、入会費を徴収する会員制のサービス、サブスクリプションによるサービス事業など、先払いや現金収入があり費用の支払いが後払いの契約や慣行となっている特定のビジネスモデルで活用可能な方法です。一般にどの事業者でも使える手段というわけではありません。

事業が量的に成長するほど、次の仕入れやサービス開発により大きな資金が必要となるので、この方法だけでは資金需要に対応しきれません。反対に、事業が縮小しつつある際には、この方法で確保できる資金も縮小していくので、他の資金調達手段を用いなければなりません。

 

さて、ここで仮に1,000万円の投資に対して、補助率が2分の1で最大500万円までの補助金があるとしましょう。多くの場合、補助金は正味(消費税を含まない)価格に対する補助率なので、1,000万円の投資ということは、補助金を支給される前に事業者が支払う金額は消費税を含めて1,100万円です。事前の申請書の通りに補助金を満額得ることができたとしても支給される補助金・助成金は500万円ですから、600万円は申請した法人が最終的に負担することになります。

もちろん、補助金の申請準備の前から金融機関などに相談していれば、投資に必要な金額全体を融資したり、このケースで言えば600万円を法人が自己資金で調達し、補助金相当額をつなぎとして融資することもあります。いずれにしても、キャッシュフローの面から言えば、600万円は社外に出ていくことになります。それだけの資金流出があっても取り組むべき経営課題があるから、この1,000万円の投資を行うわけです。

1年前のコラム「2024年度の補助金・助成金をより戦略的に申請するには」では、以下に引用するように指摘しました。

 

改めて考えてみると、補助金・助成金を活用しようとする際に、補助金・助成金の制度ありきで考えるのではなく、自社の経営課題は何かということを最初に検討すべきです。

既存の事業がうまくいかず、赤字を垂れ流すまま現状があるとしましょう。

抜本的に事業を組み替える必要があるのであれば、まずはリストラが必要です。いわゆる止血にまずは取り掛かります。赤字部門の統廃合や人員を含む事業資産の整理などを、金融機関や社外専門家などの協力を得ながら進めることになりますが、こういう場合に活用できる補助金・助成金があれば助かるはずです。例えば、雇用調整に活用できる補助金とか、事業の売却や引継ぎ時に活用できる助成金です。

次に、今後展開すべき事業を立ち上げて軌道に乗せることが求められますが、その際にも活用できる補助金・助成金がありますから、使わない手はありません。製品開発や市場開拓に活用できる補助金・助成金は、地域や業界などに応じて様々なものがあります。

 

 実際に補助金・助成金を申請しようとする法人・個人のなかには、こうした経営課題に関する問題意識よりも、当面の資金調達のことが優先しているケースが多々見られます。中には、資金調達というよりも、コロナ対策で行われた給付金と同じようなものと誤解して、書類を用意すればもらえる金と思って申請しようとする場合も見受けられます。

再度述べますが、補助金・助成金というのは、資金調達というよりも、掛かった費用の一部が後から払い戻されるもの、そのように経営者は認識しなければなりません。本来の資金調達は、先ほど挙げた15の手段です。

表現を変えると、個人事業者や中小企業で資金調達というのであれば、1,000万円単位の資金需要がある、少なくとも500万円程度の資金が必要というのでなければ、資金調達を考える意味がないでしょう。100万円にも満たない補助金・助成金では、もはや資金調達ではなく、後日払い戻される割引に過ぎません。

現実の補助金・助成金には事業者向けであっても、支給額が100万円に満たないものも少なくありません。これらは資金調達の手段ではありえず、政策的に推奨される活動を行った事業者に対するご褒美かキックバックを公的機関が些少なりとも与えるに過ぎません。

その僅かな金額でも、ないよりはましというほど財政的に困窮している事業者が存在することも事実です。そういう事業者に限って、申請事務を怠ったり、補助・助成を得ようとして下手に政治家に頼ったりして、その補助金・助成金を取り扱う公的機関からダメ出しをくらう事例も時々見聞します。

どうせ、政治家に頼るのであれば、補助金・助成金の制度設計や見直しのために陳情を行う際に活躍してもらう方が社会的に良いはずです。それこそ、政治の本来果たすべき役割というものでしょう。

補助金・助成金を資金調達の手段としたいのであれば、まずは解決すべき経営課題を特定し、その解決に向けた事業計画や投資計画を策定して補助金・助成金以外の手段(主に15)で必要な資金の手当てを行うことです。そして、解決に向けて何らかの投資や費用支出を行った際に、一部を補助金・助成金の制度を通じて回収することになります。

 

作成・編集:経営支援チーム(2025117日更新)