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オリビア・ハッセー氏の訃報に接して

オリビア・ハッセー氏の訃報に接して

 

先週金曜日(27日)、イギリスの俳優のオリビア・ハッセー氏が73歳で死去しました(注1)。氏は10代前半より俳優としてのキャリアを本格的にスタートさせ、主に50代まで俳優として活動していました。キャリアとしては長いものがありますが、世間的な印象は「ロミオとジュリエット」において10代で演じたジュリエットに極まるのではないでしょうか。

実際に鑑賞したことがある映画作品としては、以下の5作品があります(注2)。

 

「ロミオとジュリエット(原題:Romeo and Juliet)」(1968年、イギリス・イタリア合作)

「暗闇にベルが鳴る(原題:Black Christmas)」(1974年、USA

「ナザレのイエス (原題:Jesus of  Nazareth)」(1977年、イギリス・イタリア合作、日本での劇場公開は1980年)

「ナイル殺人事件(原題:Death on the Nile)」(1978年、イギリス)

「復活の日」(1980年、日本)

 

さて、「ロミオとジュリエット」と「ナザレのイエス」を監督したフランコ・ゼフィレッリが亡くなった際に当コラムで次のように言及しました。

 

「ロミオとジュリエット」は1968年の作品で、シェイクスピアの戯曲の設定にできるだけ忠実に作られています。主演のレナート・ホワイティングとオリビア・ハッセーは映画化された作品の中では最も実年齢が戯曲の設定に近いことや、ニーノ・ロータの音楽などが特に有名です。筆者も、ロミオとジュリエットの音楽といえば、プロコフィエフが作曲したバレエ組曲か、このニーノ・ロータの映画音楽のいずれかを必ず思い出します。(中略)「ロミオとジュリエット」は、のちに他の映画や舞台(ストレートプレイやバレエ作品)で10回以上鑑賞することになりますが、シェイクスピアのテクストとともに他の作品を鑑賞する際の基準となったことは間違いありません。

 

「ナザレのイエス 」は、もともとはテレビ用に製作されたものを3時間超の映画作品に編集して日本では1980年に公開されたものです。文字通り、イエス・キリストを描いた作品です。「ブラザー・サン、シスター・ムーン」で描かれるアッシジのフランチェスコよりは、イエス・キリストのことであれば多少は知ってはいましたが、登場人物も多く、ストーリーを追うので手一杯でした。

 

オリビア・ハッセー氏のキャリアを振り返ると、やはり「ロミオとジュリエット」に言及しないわけにはいきません。筆者の個人的なイメージとして、ジュリエットといえば氏が演じたジュリエット像を打ち破るものに、未だに出会っていません。ハムレットといえばローレンス・オリビエを想起させるのと同じレベルにあるのかもしれません。

その後、聖母マリア(「ナザレのイエス」)やマザーテレサ(筆者は観ていませんが2003年製作の「マザー・テレサ」でタイトル・ロールを演じています)を演じています。主人公としてジュリエット・聖母マリア・マザーテレサと演じた俳優はちょっと思い当たりません。いずれも愛に身を捧げた人物で、それらを体現した氏の演技は卓越したものがあります。とは言え、俳優としてのキャリアはそれらに止まるものではありません。

 

「暗闇にベルが鳴る」は、今ではカルト的な人気と評価を得ているホラー映画のひとつです。殺人事件を巡るサスペンス映画です。氏は主人公の女子大生で正体不明の殺人者に不可解な電話で追われる役です。

この作品の特長は、誰が主人公の友人や恋人を殺したのかという謎解きものであるかのような展開を見せながら、その正体が不明なまま物語が終わることです。もうひとつは、殺人者の視点から被害者たちを追い詰めるプロセスや殺人の行為を描いて見せている点です。これらは後のホラー映画の定番の演出手法となります。

キャスティングやスタッフについて言えば、ジュリエットを演じた6年後のオリビア・ハッセー氏が実年齢相当の大学生役となり、少女から大人になりつつある姿をファンとしては確認できます。

2001年 宇宙の旅」でボーマン船長に扮したキア・デュリアが恋人の大学生、この当時「暗闇にベルが鳴る」の前後に「悪魔のシスター」や「リーインカーネーション」などのサスペンス・スリラー系の作品に出演し後に「スーパーマン」シリーズでクラーク・ケントの恋人ロイス・レインに扮するマーゴット・キダーが友人の女子大生を演じたり、「暗闇にベルが鳴る」だけでなく他のサスペンス系の作品でも殺人事件を捜査する警部や警部補を演じることが多く「燃えよ ドラゴン」ではブルース・リー演じる主人公を助けて共にカンフーで戦う格闘家ローパーに扮したジョン・サクソンが登場したりします。監督のボブ・クラークは後にコメディ映画でヒットを飛ばすことになるなど、不思議に多様な人材が集まったものだと思わざるを得ません。

「ナイル殺人事件」と「復活の日」は、いわゆるオールスター出演の大作映画で、今日でも観て楽しめる作品です。特に「復活の日」はコロナ禍で改めて注目が集まった作品です。これらでは、実年齢に相当する流行作家の娘や滅亡に瀕する世界で生き残る女性といった主要な役を演じています。

残念なのは、これらの作品では氏にとっては役不足と言わざるを得ないのかもしれないことです。表現はともかくとして、超人的な愛の姿を現すことこそ、氏の特長が活きるのではないでしょうか。それだけの作品に巡り合うのは難しく、今後果たして氏に比肩しうるような俳優が現れるのかどうか、人材面とともに作品面でも容易でないと改めて思わされます。

 

【注1

たとえば、以下のように報じられています。

オリビア・ハッセーさん死去、73歳 「ロミオとジュリエット」主演:時事ドットコム

女優オリビア・ハッセーさん死去、73歳 「ロミオとジュリエット」に主演 - CNN.co.jp

 

【注2

 

「ロミオとジュリエット」予告編

「暗闇にベルが鳴る」予告編

「ナザレのイエス」予告編

「ナイル殺人事件」予告編

「復活の日」予告編

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(20241231日)