ロバート・タウン氏の訃報に接して
今週月曜日、ハリウッドで主に脚本家として活躍したロバート・タウン氏が亡くなったことが報じられました(注1)。89歳でした。死因などは公表されていませんが、自宅で亡くなったようです。
1960年代から映画やTVの製作・企画開発・脚本制作などに従事し、アカデミー賞(脚本賞)に4回ノミネートされ、「チャイナタウン」で受賞しました。監督や俳優としての活躍もあります。
「さらば冬のかもめ」や「俺たちに明日はない」といったニューアメリカンシネマの時代からトム・クルーズ主演作(「デイズ・オブ・サンダー」「ザ・ファーム 法律事務所」「ミッション・インポッシブル」シリーズ)まで、様々な作品を手掛けてきました。低予算のB級映画で有名なロジャー・コーマンの製作スタッフからキャリアをスタートし、TVドラマも含めて数多くの映像作品に関わってきました。
実際に鑑賞したことがある作品として次のもの(注2)があります。
脚本作品
「さらば冬のかもめ」(“The Last Detail”USA、1973年)
「チャイナタウン」(“Chinatown” USA、1974年)
「ザ・ヤクザ」(“The Yakuza”USA、1974年)ポール・シュレイダーとの共同脚本
「シャンプー」(“Shampoo”USA、1975年)
「オルカ」(“Orca”USA、1977年)
「黄昏のチャイナタウン」(“The Two Jakes”USA、1989年)
監督・脚本作品
「マイ・ライバル」(“Personal Best”USA、1982年)製作も担当
「テキーラ・サンライズ」(“Tequila Sunrise”USA、1989年)
脚本協力作品(脚本としてのクレジットはない)
「俺たちに明日はない」(“Bonnie and Clyde”USA、1967年)
「ゴッドファーザー」(“The Godfather”USA、1972年)
「天国から来たチャンピオン」(“Heaven Can Wait”USA、1978年)
社会の裏側やアンダーグラウンドの世界を描く作品が「チャイナタウン」「黄昏のチャイナタウン」「ザ・ヤクザ」「テキーラ・サンライズ」「俺たちに明日はない」「ゴッドファーザー」と数多い一方、「シャンプー」や「天国から来たチャンピオン」のようなコメディもあります。なかには、「ジョーズ」以降に流行した海洋動物パニック映画のひとつである「オルカ」もあります。
この中でいささか異彩を放っているのが「マイ・ライバル」です。この作品は陸上競技の女性アスリート同士の恋愛を扱っており、困難に打ち克って最後に勝利や栄冠を手にするスポーツものとは明らかに一線を画す映画です。
この作品の2年前に製作された「ミュージック、ミュージック」(注3、“Can’t Stop the Music”ヴィレッジ・ピープルがグループを結成する物語と音楽の映画)がホモフィビアの中、酷評されてゴールデン・ラズベリー賞を受けてしまうほどであったことを思い起こすと、レズビアンのスポーツ選手という主人公のキャラクターに挑戦する気概に感心させられます。
また、同時期に製作された「炎のランナー」(注3、“Chariots of Fire”ユダヤ人とキリスト教牧師の二人のライバル・ランナーとパリオリンピックを巡る映画)がスポーツやオリンピック競技と信仰のありかたを男性たちの世界の物語として描いているのに対して、「マイ・ライバル」はスポーツと恋愛関係を描く点で、女性たちの世界の物語をよりパーソナルに見せてくれているように思われます。
1980年に開催されたモスクワオリンピックでは、その前年に起きた旧ソ連によるアフガニスタン侵攻に対して西側諸国を中心にオリンピックのボイコットに直面し、改めて政治とスポーツのありかたが現実の問題として問われることとなりました。個人の弛まぬ努力や栄光、最高の舞台で競い合いたいという感情との折り合いがつかない情況が、国家によるオリンピックのボイコットという形で眼前に出現した直後に、こうした作品が公開されていたわけです。
「マイ・ライバル」で氏は脚本だけでなく監督や製作も行っており、もしかしたら最も製作したかった作品ではなかったのか、と思わざるを得ません。「炎のランナー」で舞台となるパリオリンピックからちょうど100年後の今年のパリオリンピックがもうすぐ開催されるタイミングで、スポーツを描く映画を見直すのであれば、「炎のランナー」とともに「マイ・ライバル」も見逃してはいけないでしょう。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
脚本家ロバート・タウンが死去、「チャイナタウン」「さらば冬のかもめ」など手がける - 映画ナタリー (natalie.mu)
米脚本家、映画監督のR・タウンさん死去、89歳 「チャイナタウン」で米アカデミー賞脚本賞 - 産経ニュース (sankei.com)
【注2】
以下に予告編などで作品を紹介します。
【注3】
以下に予告編を紹介します。
作成・編集:QMS代表 井田修(2024年7月6日)