· 

2024年度の補助金・助成金をより戦略的に申請するには

2024年度の補助金・助成金をより戦略的に申請するには

 

昨年も当コラムで述べましたが、補助金・助成金を活用するには、できるだけ早い段階で自社の経営課題を明確かつ具体的に認識し、その解決に当たってどのような補助金・助成金が活用可能なのか、検討しておくことが要請されます。

今年は既にコロナ禍を芳しくない企業業績の言い訳にできない時期に入っています。実際、業績の良い企業も少なくありませんし、コロナ禍にせよウクライナや中東地域の戦争にせよ、インフレ基調の経済情勢や地震等の自然災害にせよ、眼前の事実として一定の時間が経過しています。これらに対応できないのは、できない組織に何らかの欠陥や不備があると言わざるを得ません。

例えば、昨年の経営課題として次のものを挙げました。

 

  ポストコロナ時代を生き抜くことが可能な事業の立ち上げ・変革(インフレや為替相場の急な変動への柔軟な対応などを含む)

  AIDXなど情報技術を採り入れた経営改革

  (上記のような)経営改革を主導できる人材の確保・育成・登用

  コロナ禍以前からの課題である次世代経営人材の確保・育成・登用

 

これらが正に自社の経営課題であると認識できるのであれば、それぞれに適した補助金・助成金を活用することを検討しましょう。

例えば、①「ポストコロナ時代を生き抜くことが可能な事業の立ち上げ・変革」という課題については、経済産業省所管の「事業再構築助成金」が候補のひとつです。今年は内容の変更が予想されていますが、第12回以降の公募が行われる見通しはHP上に公表されていますから、11回までの公募要領をベースに申請の準備に入ります。認定経営革新等支援機関と話し合って、公募の書式に則り詰めておくべき事項を検討したり、財務面を中心に数字を一度は検証したりしておくことが望まれます。こうした作業は、正に経営戦略を考え実現するプロセスです。

 

②「AIDXなど情報技術を採り入れた経営改革」が自社の経営課題として最優先と認識しているのであれば、「IT導入補助金」の活用が一例として考えられます。

ITとかDXといっても何から手を付ければよいのかわからないという経営課題かどうかはっきりしない企業であれば、「みらデジ経営チェック」(注1)という現状分析ツールを利用するところから着手してみるとよいでしょう。そこで課題がはっきりと認識できたならば、2024年度に向けて具体的なITツール選びと補助金・助成金の申請準備に今から取り掛かることが推奨されます。ITのツールの導入を契機として、自社の課題を明らかにしてその解決に向けて行動する以上、補助金・助成金に戦略的に取り組むことになります。

 

また、③「経営改革を主導できる人材の確保・育成・登用」と④「次世代経営人材の確保・育成・登用」については、経済産業省所管の「事業承継・引き継ぎ補助金(第8次)」を活用して事業の承継や引き継ぎを行う中で、社内から適切な人材を発掘・育成したり、社外から経営人材を受け入れたりすることが可能となるものです。

こうした事業承継や次世代リーダー発掘を目指すものは、MAなどの外部専門家の活用が求められることもあるので、補助金・助成金の公募が始まる相当前から具体的な事項を検討しておかないと、公募期間に間に合わない場合も出てきます。現時点で具体的な検討を進めておかないと、「事業承継・引き継ぎ補助金(第8次)」が公表される時(予算成立後か?)から行動を起こしたのでは、申請作業が間に合わないと予想されます。

「事業承継・引き継ぎ補助金(第8次)」のように経営課題に直結するような補助金・助成金を活用するだけでなく、リーダーシップを自ら発揮するような人材が出やすい企業文化や組織風土を醸成することから始めて、将来的に事業承継を実現したり他社から事業を引き継いで発展させたりするというアプローチもあります。そこで、厚生労働省所管のスキルアップを目的とした各種の補助金を活用することを組織的に奨励したり「IT導入補助金」で学習支援ツールを導入したりして、学習するカルチャーを作り上げていくという組織文化面での戦略もあります。

 

改めて考えてみると、補助金・助成金を活用しようとする際に、補助金・助成金の制度ありきで考えるのではなく、自社の経営課題は何かということを最初に検討すべきです。

既存の事業がうまくいかず、赤字を垂れ流すまま現状があるとしましょう。

抜本的に事業を組み替える必要があるのであれば、まずはリストラが必要です。いわゆる止血にまずは取り掛かります。赤字部門の統廃合や人員を含む事業資産の整理などを、金融機関や社外専門家などの協力を得ながら進めることになりますが、こういう場合に活用できる補助金・助成金があれば助かるはずです。例えば、雇用調整に活用できる補助金とか、事業の売却や引継ぎ時に活用できる助成金です。

次に、今後展開すべき事業を立ち上げて軌道に乗せることが求められますが、その際にも活用できる補助金・助成金がありますから、使わない手はありません。製品開発や市場開拓に活用できる補助金・助成金は、地域や業界などに応じて様々なものがあります。

但し、補助金・助成金の仕組みが課題解決のひとつしかない道ではありません。経営人材の確保に悩む中小企業にとって、ひとつは「事業再構築助成金」の活用が解決策となるかもしれません。しかし、M&Aを受け入れて別の会社の傘下に入ることもひとつの方法ですし、個人のオーナーにオーナーシップを有償で譲渡することも検討すべきものでしょう。

要は、応募可能な補助金・助成金が公表されてから(補助金・助成金のコンサルタントなどに言われてから)経営課題を作り上げるのではなく、もともと認識している経営課題を解決する方策を検討するプロセスにおいて、タイミングや人的問題なども含めて活用できるものがあれば活用する、というスタイルが必要なのです。公募が始まる前から、しっかりとやるべきことを詰めておいて、公募がスタートした頃には申請書を物理的に作成するだけという程度に事前の準備をしておきたいものです。

 

通常、補助金・助成金といえば、取り組む経営課題が何であれ、その解決に向けて必要な経費や投資など自社が負担する費用の一部を代替するものです。一方で、補助金・助成金を自社の営業ツールと活用することもできます。この場合、補助金・助成金は顧客や取引先などにわたることになりますが、自社は売上が向上したり、補助金・助成金の申請を代理したりすることで顧客のことをより良く知る機会を得たりすることができます。

具体的には、少子化対策、地震や津波・洪水などの自然災害への対策、安全安心やセキュリティ、地球環境関連、スキルアップや雇用改善・賃金引上げなど、多岐にわたるテーマで個人や中小の事業所を対象として支給する補助金・助成金があります。自社の製品やサービスに関わるものがあれば、既に申請が終了している2023年度のものであってもよいので、営業ツールとして活用できないか、一度は検討してみるべきです。

地域ごとに独自の施策として補助金・助成金を支給しているところもあります。東京都を一例としてご紹介すると、スキルアップや雇用改善・賃金引上げは東京しごと財団、地球環境関連のテーマ(脱CO2GX、発電・蓄電、熱効率向上、水素活用など)はクール・ネット東京(東京都地球温暖化防止活動推進センター)があります。特に後者は、本日時点において「個人家庭向け」で「住宅」を対象とする補助金・助成金を検索すると15件がヒットする(注2)など、対象やテーマに応じて数多くの制度がありますので、東京都で環境関連のビジネスを営んでいる企業は、絶えずチェックしておくことがお勧めです。

 

【注1

みらデジ経営チェック|みらデジ 経済産業省 中小企業庁 (miradigi.go.jp)

 

【注2

クール・ネット東京 :東京都地球温暖化防止活動推進センター | 「補助金・助成金」 (tokyo-co2down.jp)

 

 

作成・編集:経営支援チーム(2024116日更新)