· 

転職者を実際に戦力化するには(6)

転職者を実際に戦力化するには(6)

 

人が足りないと言っても、どのような人がどの程度不足しているのかによって、組織としての打ち手は大きく変わってきますし、変わらなければなりません。人手なのか、人材なのか、人財なのか、人本なのか、名称に拘る必要はありませんが、転職者と一括りにせず「人」の違いを念頭に置いて適切な措置を講じなければ、組織として戦力を活かすこともできませんし、本人も仕事を通じて得るものがないでしょう。

 

今回のコラムでは、まず人手不足に対応して採用した転職者を戦力化する際のポイントを述べました。それは、次の3点です。

第一に、転職者が職場で安心できるように環境を整えておくこと、第二に、転職者がすぐに仕事に取り掛かれるように仕事のやり方を覚えやすくしたり仕事のハードルを下げたりしておくこと、第三に、比較的早い時期に仕事や職場に向かない人を排除することです。言い換えると、第一は安心できる職場環境、第二は仕事のハードルは低く、第三は戦力と非戦力の早期の振るい分け、ということです。

次に人材として期待する人々について考えました。

人手不足が「いま必要」にフォーカスするのに対して、人材不足は「次に必要」を重視するものです。そこで、人材不足に対応するために転職者を受け入れるには、次の3点に取り組むことが要請されます。

第一に、転職者が自社のカルチャーになじめるように環境を整えておくこと、第二に、転職者が仕事上のアイデアや改善案を言い出しやすくして主体的に仕事を進めるようにすること、第三に、次のチャンスを与えるべき人とそうでない人を一定期間で見極めることです。つまり、第一はカルチャーフィット、第二は主体的な仕事ぶり、第三は中期的な戦力評価です。

 個人にせよチームにせよ、人的資産である人財を戦力として活用するには、肝要なポイントがやはり3点ありました。

第一に、何をする(してほしい)かという採用時点で提示する仕事そのものの魅力、第ニに、チャレンジングな仕事や興味を示すような(わくわくするよう)仕事を提示し続けること、第三に、資産価値に見合う報酬及び資産価値増大分の長期的な分配を実現することです。即ち、第一に採用時点の仕事の魅力、第二に仕事の持続的な魅力、第三に資産価値(の増大)に見合う報酬です。

最後に、「事業を引き受ける人」という意味で人的資本(=人本)について述べました。

人本とは、単なる法人の代表者にとどまらない真に人的資本と呼びうる経営者のことです。CEOの肩書や代表権を持つ役員であるかどうかではなく、事業のスケールアップ(急成長軌道に乗せること)やターンアラウンド(再編・再生を行い収益力の回復・向上を実現すること)を実行する人に限られます。

こうした人的資本も、ある程度は市場が形成されるほどには存在するようになってきました。俗にプロ経営者といわれる人々の市場は、いわゆるハイクラスの転職市場と考えることができます。創業者や起業家は今の日本でもそれなりに存在し活躍しています。これらの面では一定の人的資本があります。最も不足しているのは、相変わらず後継者不足で廃業や倒産に至る法人が多いことから類推されるように、オーナー(個人としての法人所有者)かもしれません。

人本は、他の3種類の転職者とは異なり、一人で複数の法人に関わることが可能です。特にオーナーは、一人で複数の組織を有するほうが自然かもしれません。オーナーと経営者の違いというと、オーナーはガバナンス(法人統治)の責任者に徹する点でしょう。従って、その処遇は一般の従業員や役員と明確に一線を画す必要があります。その線引きが曖昧なままでは、その活用はあり得ません。最も重視すべき点は、オーナーがガバナンスの責任者としての自覚をもつことで、そのためには出資・買収・CEO指名などのプロセスを複数回、体験することで得られるものです。

 

転職者を受け入れる組織の側の話を進めてきましたが、転職しようとする人も自分がどのようなキャリアを目指すのか、しっかりと考えて行動することが求められます。仕事を通じて何が欲しいのか、金(経済的利得)か、福利厚生や住環境なども含めた生活の保障か、今日の現金収入か明日の資産形成か、組織における昇進か、社会的な地位か、仕事の楽しさや充実感とかやり甲斐か、次の転職へのステップか、自分の就職や転職の動機(本音)にしっかりと目を向けましょう。

自分の本音がわかれば、何をどこまで我慢して今の仕事を続けるのが良いのか、何を優先して転職先を探すのか、どのタイミングで転職活動を始めて退職までのプロセスを主導するのか、転職の進め方や成功基準を自分なりに設計することができます。

目先の仕事も大事ですが、中長期的なキャリアビジョンから逆算して転職の希望先・職種・ポジション及び地域やタイミングなどを書き出して整理してみましょう。その際に、職場のありたいイメージを想定してみることも一興です。例えば、どのような上司であって欲しいのか、反対に、こういう上司の下では仕事をしたくないという具体的な上司像はどのようなものか、これまで相対した上司たちを思い出すだけでも、次の転職に役立つ気づきがあるかもしれません。

こうしたことを考える際にも、人手・人材・人財・人本といった人的資源の区分を思い出して、自分がそうありたいものと転職先が求めているであろうものがそれぞれ何であるか検証してから、具体的な転職活動に当たっても損はありません。

 

作成・編集:人事戦略チーム(20231228日更新)