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転職者を実際に戦力化するには(1)

転職者を実際に戦力化するには(1)

 

 コロナ禍が一段落して以降、人手不足や賃金の引上げなど経済社会全体で見れば人材の流動化が更に進むはずの状況が続いています。特に新卒採用は過熱気味で、インターンシップの段階から人材の囲い込みに走ろうとする企業もあるようです。中途採用者についても、積極的に採用を進める組織が多く見られます。

 改めて言うまでもなく、新卒採用者だけで成り立っている組織などなく、企業にせよ非営利の法人にせよ、数の多寡はあるにしても中途採用者がいるでしょう。中途採用者が過半数どころか従業員や役員の大半を占めている組織も珍しくはないものと思われます。

 一般に、新卒採用者については、その採用・教育・定着・活用などに注力する組織は多いのですが、中途採用者については一貫した考え方や仕組みに欠けて個別対応に終始しているように見えるケースが少なくありません。実際の人数や組織に与えるインパクト、採用される個々人のキャリアなどを考えると、中途採用で入社する転職者を双方の期待通りに戦力化できるかどうかは、組織の人事戦略を決定的に左右するほど重要なものであるはずです。

 組織として特に注意したいのは、中途採用を行う狙いや意図です。

つまり、人手不足なのか、人材不足なのか、経営資産としての人(人的資産)が足りないのか、経営の本源的資本としての人(人的資本)が足りないのか、中途採用で狙っている(意図している)ポイントを明確にすべきです。経営としてどのような狙いや意図をもって外部から人を採用しようとするのかによって、転職者を受け入れて活用していく方策が変わってくるはずです。

 実は、多くの組織で人という経営資源を一括りのものとして認識しているかもしれません。

しかし、人手として期待する人々に要求する仕事や成果は、人材として期待する人々に要求する仕事や成果とは異なります。前者は、文字通り、即戦力として採用されたその日から仕事をして、一定の結果を出すことが求められます。後者は、採用されてから一定期間は仕事を学んだり覚えたりして、その後、単に仕事をして結果を出す以上に、前職での経験や身につけてきたスキルなども活用して、仕事のやりかたを改善したり成果のありかたを変えたりすることを求められるでしょう。

従って、前者に求められるのは、通常はマニュアルや業務システムで定められているやりかたで作業を行い、所定の結果を出すことですが、後者は専門的な職種で様々な問題解決に当たるプロフェッショナルであったり、職場のリーダーや管理職といった役割を果たしたりすることが要請されます。

また、人的資産は「資産を生み出す人」であり「その人の関与なしには生み出されることがない資産を創出する人」です。ここでいう資産とは、固定資産そのものではなく固定資産に何らかの価値を付加するとか、無形資産として生み出されたものです。

そして、資本とは資本金がそうであるように、人的資本はその人または人々が事業の元となるものです。創業者や起業家であったり、事業を創出したり再生したりする経営者などを人的資本と認識できます。

この4種類の「人」はそれぞれの特徴に応じて、その採用・開発・配置・活用・報酬・報奨・退職などで異なった取り扱いが必要となります。例えば、報酬についていえば、人手は賃金(労働投入量1単位当たりの労働対価、時給や歩合給)、人材には給料(月例給)、人的資産には資産価値に見合う報酬、人的資本には事業プランに見合う報酬が望まれます。また、金銭的な報奨としては、人手は昇給(労働投入量1単位当たりの労働対価=単価=の上昇)、人材には賞与と昇給、人的資産には資産価値増大分の分配(長期的に分割して支給されるインセンティブ)、人的資本には増大した事業価値に見合う分配(株式連動型の報酬、株式そのものの付与)が必要でしょう。

人が足りないと言っても、どのような人がどの程度不足しているのかによって、組織としての打ち手は大きく変わってくるはずです。そして、人が足りない状況で転職者を戦力化すると一口に言っても、こうした人々の違いを念頭に置かなければ適切な措置を講じることはできません。

このコラムでは、転職者を人手・人材・人財(人的資産)・人本(人的資本)の4種類に分けて、それぞれを戦力化していくにはどのように進めていけばいいのか考察していきたいと思います。

 

 (2)に続く

 

作成・編集:人事戦略チーム(20231115日更新)