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気候変動の何が問題か?(1)

気候変動の何が問題か?(1)

 

昨日、61日は気象記念日でした(注1)。今日は、台風2号が梅雨前線に大きく影響して九州から関東、東北南部まで大雨に対する警戒が必要になるほど、本格的な雨のシーズンに入っています。

日本のように四季がある国や地域に暮らしていると、気候は変化して当たり前と思いがちですが、世界には1年を通じて気候の変化に乏しい地域もありますし、変化あっても一定の幅に収まって寒さや暑さがひどくない地域(地中海性気候が代表的)もあります。

気候の変化がそれぞれの地域で一定のパターンを示しているのであれば、人間はその変化に合わせて対応することもできれば、気候の変化に合わせて暮らしぶりも周期的に変えていくこともできます。気候の定常的で通年並みの変化であれば、敢えて「気候変動」と呼ぶ必要はありません。

しかし、周期的、定常的、通年並みの気候の変化がその振れ幅を著しく大きくし、気候変動と呼ぶレベルになると人間の対応にも限界がでてきます。そこで最初に問うべき問題は、そもそも気候がどの程度変動しているのか、という問題です。

この問いについて、代表的な指標として気温を採り上げ、その移り変わりを見てみましょう。その一例として、東京の冬(1月)の平均気温について、この150年ほどの推移を表したものが次のグラフです。

 

 

 

このグラフは、気象庁HPに公表されているデータ(注2)と、そのデータから10年間の移動平均を算出したものから作成しました。この移動平均線から読み取れるのは、以下の点です。

 

  戦前は上昇や下降の傾向を示す時期はあるものの、おおむね3度前後で推移していた

  戦後は一貫して上昇傾向を示していて、90年代には6度を超えるまでに上昇した

  ただし、⓶の上昇傾向は21世紀に入る頃からストップがかかったように見える

  なお、2015年から測定場所が変わったことも③の傾向に影響している可能性がある

 

上記の①と②から単純化して言えば、気温が3度高くなったといえます。

これは1日の変化としては取り立てて言及するほどのことはないように思えます。一般に3度の違いは着るもの1枚の違いだそうです。

その違いが1ヶ月の平均気温の差となると、異なる気候区分となる程度に違います。このグラフを見ると、戦後50年ほどの間に冬季の東京はそれだけの変化を遂げたことになります。

ちなみに、1月の月平均気温が3度(2.53.4℃)というのは、プサン(韓国)、南京(中国)、上海(中国)、パリ(フランス)、バンクーバー(カナダ)があります。一方、6度(5.56.4℃)というのは、アトランタ(アメリカ)、イスタンブール(トルコ)、マドリード(スペイン)、ナント(フランス)、があります(注)。半世紀ほどの間に、バンクーバーからアトランタに移ったようなものです。

 

実は、40年以上前に、演習か何かで同じグラフを作成したことがあります。当時は気象庁のHPからデータをダウンロードということはできず、「理科年表」などの資料にあったデータを基に、電卓を叩いて移動平均を出して、手書きでグラフ用紙にドットを記入して折れ線を引いた覚えがあります。

そのころは、まだ地球温暖化とか気候変動といった言葉もなく、戦後の気温が右肩上がりに上昇し6度を超えるようになっていた要因として、自然環境が減少しアスファルトやコンクリートが市街を覆うようになる「都市化」とか「ヒートアイランド現象」を挙げていたように思います。つまり、日本全体とか地球規模での現象ではなく、東京(に代表される大都市)の局所的な現象として、このようなグラフを解釈していたはずです。

それから40年ほどを経た現在は、こうした変化を気候変動と呼びます。なぜなら、このグラフが示唆しているのは、局所的な現象ではなく、地球規模での気候変動の影響が目に見えて表れている現象のひとつである、と認識されるようになってきているからです。

それから40年ほどの間に、ゲリラ豪雨に線状降水帯といった短時間で大量の降雨をもたらす現象や猛暑日の新設など、単なる異動気象というよりも、確かに気候そのものが大きく変動している時期に来ていると実感せざるを得ない気象用語が次々に生まれています。言葉の面からも、単なる気候の変化ではなく、前例のない規模や傾向を見せる気候変動が出現していることが窺えます。

 

(2)に続く

 

【注1

ウェザーニュース社のサイトに気象記念日や天気予報の歴史について紹介されています。

61日は気象記念日、日本初の天気予報とは? - ウェザーニュース (weathernews.jp)

 

【注2

気象庁HPTOP>各種データ・資料>過去の気象データ検索>過去のデータをダウンロード>「地点を選ぶ」より「東京都・東京」を選択>「項目を選ぶ」より「データの種類」は「月別値」、「項目」は「気温」の中の「月平均気温」、「期間を選ぶ」より「特定の期間を複数年分、表示する」を選び「1月」から「1月」の値と「1872年」から「2023年」までを選ぶ>「CSVファイルをダウンロード」 という順にクリックしていくとグラフ中の「気温」のデータが得られます。

 

【注3

気象庁及び「海外赴任ガイド」世界・主要都市の気温と降水量 - 海外赴任ガイド (funinguide.jp)に拠ります。

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(202362日)