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より高い給与を得るには(3)

より高い給与を得るには(3

 

自分の給与の中身を理解したところで、次に自分の給与の立ち位置を知ることが求められます。自社内での位置づけは元より、広く社外での位置づけを知っておくことも、より高い給与を得ようと思えば忘れてはなりません。

 

現在勤めている組織において、自分の給与がどの程度高いのか(または低いのか)ということは、個別具体的な金額はわからなくても、採用区分・年齢・勤続年数・職位・グレード(資格等級)などを考慮すれば相対的な位置関係は想定できます。

採用区分というのは、新卒定期採用か中途採用か、また学歴区分や入社試験によるコース区分(典型的には公務員にあるもの)がある組織ではそれらの区分によって、昇進や昇格のスピードが違います。その違いによって、昇給のスピードも違えば、昇給して到達できる給与の水準も大きく異なります。これらは明示的なルールというよりも、人事慣行として不文律として行われているケースも多い点に注意が必要です。

例えば、新卒定期採用で同じ大卒という区分で入社した同期であったとしても、主任への昇格など最初の昇格(昇進)が1年でも違えば、その瞬間から毎月1万円単位で給与が違うと考えるべきです。まして、入社10年、20年と時が進めば、昇進・昇格の違いは単にスピードの違いというよりも、到達する社内での地位(資格等級や役職位など)の違いに直結します。

その結果が、月例給与では10万円単位の違いに、年収では100万円単位の違いになって、長期的に大きな収入格差となります。もし役員に就任ということになれば、大手の上場会社であれば年収で数千万円から1億円というのが実態です。同じ企業でも、同期入社で管理職にも登用されていないままであれば、役員の10分の1程度の年収しか得られないかもしれません。

ここで注意したいのは、社内での昇進昇格競争は、よほどのことがない限り、一度ついた差を逆転することは現実的には不可能に等しいということです。もちろん、人事のルール上は、抜擢や役職の洗い替えなどで昇進昇格が遅れた人であっても先に上がった人に追いついたり抜き去ったりすることはあるでしょう。しかし、それは、あくまでも制度(理論)上ありうるということに過ぎません。役員から社長・CEOへの登用といった場合を除けば、一般の管理職までの間では、逆転の実例はそうそう見られません。特に、規模が大きい組織や創業年数の長い企業ほど、こうした傾向が強いでしょう。

つまり、自社内の位置づけというのは、自分がどのような経緯で採用されて、今現在どのような職位や資格等級にいるのかによって、だいたい想定されるはずです。そして、自分がどこまで昇進昇格できそうか、同期や先輩の人たちの昇進昇格と比較すれば自ずと想定されるので、給与規程(特に給与テーブルと昇給ルール)を概略理解していれば、今後の昇給の見通しも同様に想定できます。

以上述べてきたことは、あくまでも正規の雇用者(いわゆる正社員や正規職員)についてのものであって、非正規の雇用者(パートタイマー、アルバイト、嘱託社員・嘱託職員、契約社員、いわゆる業務委託者など)は含んでいません。非正規の雇用者は、大半が正規の雇用者のような昇進昇格システムの対象外であり、昇給も極めて限定的です。実際、雇用されて1年経ったとしても、全く昇給しない人も珍しくはないでしょう。

非正規の雇用者や定年延長の再雇用者などは、採用時の給与がそのまま継続されて数年が過ぎるか、昇給があってもわずかなもの、というのが現実です。外食や流通などパートタイマーやアルバイトが社員の大多数を占める業態であれば非正規の給与管理は経営課題ですが、一般の組織では社内における給与の位置づけの議論の俎上に登らない存在でしょう。もし、議論の対象となるとしても、全体的にいくら昇給させるか、というベースアップのような給与水準の見直しであって、正規雇用者と同様に制度的な昇給メカニズムが働くわけではありません。

 

一方、自分の給与が社会(労働市場)全体の中でどのように位置づけられるのか、ざっと概要を把握するにはいくつかの公的な統計資料が有用です。

ひとつは厚生労働省の「労働統計要覧」における賃金のデータ(注3)です。これを見ると、産業別・地域別・事業所規模別、学歴別・性別・年齢階級別・勤続年数階級別、役職別などで賃金の金額や格差の指数が把握できます。近年の動向もある程度は把握することができるでしょう。

より詳しく給与の金額を知るには、「賃金構造基本統計調査」(注4)があります。産業分類が細かいので、自社の業界だけでなく、就職・転職しようとする業界の水準や動向を知ることができます。難点は調査から公表までの時間がかかることで、12年前までのデータしか取れません。

直近の動向を知るには「毎月勤労統計調査」(注5)があります。これは毎月の現金支給額だけでなく労働時間なども調査するため、景気の動向を示す指標のひとつとしても重視されています。経済ニュースなどで見聞きしたことがあるものです。この調査では、時間外勤務手当のように毎月変動するものや賞与など臨時に支払われる給与も入っているので、自社の給与体系や支払いのタイミングと違っていると、そのまま比較するわけにはいかず、データの補正が必要となります。

これらは、実際に支払われた給与について、在籍者の平均的な水準がわかるものです。但し、在籍者というのは、正規に雇用された者とは限りません。それぞれの統計調査で定める基準をクリアしていれば、非正規雇用者も調査対象となり得ますし、実際に調査対象者に含まれています。

そこで、特に正規に雇用された者だけに絞って給与の水準や昇給のスピードを検討するのであれば、昇進昇格・昇給をモデル化したデータ(注6)を見るほうが個々の企業や業界の実態を理解するのに適していることもあります。

 

給与水準が社会(労働市場)全体の中でどのように位置づけられるのか、ざっと概要を把握するもう一つの物差しが、採用時給与の相場です。一般に新規学卒者の初任給は学歴別に企業ごとに公表されることもあり、認知度も高いでしょう。

中途採用者の採用時給与については、人材募集広告やハローワークのデータもあれば、転職サイトなどから推定できるものもあります。これらは条件がさまざまに異なり、提示される給与額も最低額であったり、標準的な金額であったりします。

正確に言えば、中途採用者を募集する際に提示される給与は在籍者の給与とは異なり、実際に支払われたものではありません。あくまでも、〇〇の仕事(職種、職務内容、職位など)で××の労働条件(勤務時間、勤務地、休日休暇、社宅等の福利厚生など)を希望するする人には、いくらの給与を支払う用意があるかを告知したものです。通常、応募する条件として、必要な公的資格(運転免許、医師免許や調理師免許などの仕事上必要な許可証など)、過去の職務経験、望ましいスキルやコンピテンシーなども表示されます。

中途採用は正規雇用であるか非正規雇用であるかは問いませんが、雇用者も被雇用者も双方ともに、給与も含めてさまざまな条件が交錯します。今の自分と条件にピッタリと一致するものとだけ比較しようとすると「該当なし」となりがちです。雇用区分・業界業種・役職・地域くらいの条件で絞ることで、比較的近いものを見つけ出すことは可能でしょう。

 

以上の資料やデータを使って、給与に関する現状認識と将来の見通しを得ることが期待されます。

今の自分の給与が客観的に見て(社外水準と比較して)高いのか低いのか妥当な水準なのか、もし仕事を変える(転職する)とすれば現状と同じ程度の給与を得るにはどのような業界業種でどのような仕事をすればよいのか(職種や職位など)、まずは現状をしっかりと理解します。

そして、もし現状よりも3割(5割、2倍)程度高い給与を得ようとすれば、社内に留まると何年くらいかけて実現する見通しがあるのか、社外に転じるとすればどのような業界業種でどのような仕事をすればよいのか(職種や職位など)、見当をつけることです。

もちろん、多くの被雇用者にとって、そうそう容易に大きな昇給が見通せるとは思えません。特に非正規で雇用されている人にとっては、わずかな昇給の見通しすら持てないのが実状でしょう。そうであるならば、自分が望む給与を得るには、どのような仕事に就けばより可能性が高まるのか、一度は明確に把握した上で、一気にそのような仕事に就くことは無理であるとしても、自分の「売り」を見つけ出してそれらを買うであろう雇用者を見つけ出す、いわば雇用のマッチングを繰り返していくステップを頭に描くことが必要です。

 

(4)に続く

 

【注3

働統計要覧(E 賃金)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

【注4

賃金構造基本統計調査|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

賃金構造基本統計調査 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp)

 

【注5

毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査) 結果の概要|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

【注6

一般には()産労総合研究所および(株)労務行政から定期的に取りまとめられている統計資料が活用されています。人事部門や労働組合など給与や賃金を専門的に扱う組織を対象とするものですが、一般の人でも購入することができます。

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作成 QMS代表 井田 修(2023220日)