サッカーW杯が終わって

サッカーW杯が終わって

 

FIFAサッカーW杯(ワールドカップ)カタール大会はアルゼンチンがフランスの2大会連覇を阻んで優勝して幕を閉じました。日頃はサッカーのことをほとんど見向きもしない人でも、ワールドカップとなると母国の応援に熱が入るのは不思議なものです。もともとサッカー熱の高い国や人々となると、熱狂ぶりを通り越して暴動にまで発展する姿は、大会の度に報じられますが、今回も例外ではありませんでした。

さて、4年に一度開催されるW杯をひとつのプロジェクトとして見た場合、その結果が出そろった今は、業績評価と次の目標設定の時機です。よかった点や評価できる事項は高く評価し、改善すべき点や不十分な事項は次のプロジェクトに反省点として活かしていかなければなりません。

今大会に臨んで日本の目標は、グループリーグを突破し決勝トーナメントの1回戦を勝って大会のベスト8に入ることだったと思います。このことは正式な目標としてサッカー協会で定めているかどうかは筆者にはわかりませんが、メディアで報道されていた限りは、当事者もサッカーファンも一般の人々も、そう理解していたものと思われます。

結果は、グループリーグは突破したものの、決勝トーナメントの1回戦でPK戦の末に敗退しました。ベスト8入りは、またしても達成されませんでした。4年ごとに行われるサッカーW杯をひとつのプロジェクトとして見れば、失敗だったと判断せざるを得ません。

その原因としては、例えば、PK戦への準備不足とか、ベスト8クラスの強豪国と比較した場合の攻撃力の不足といったことが挙げられるかもしれません。そうした個々の要因については、現体制でも洗い出すべきですし、新たな責任者(監督)の下でも再度、検証すべきでしょう。

この結果を踏まえて次は成功するために、現時点でひとつだけはっきりとしていることは、明らかに失敗だったプロジェクトにまた挑戦するのであれば、その責任者は別の人に交代させるのが原則であるということです。一般の企業や団体でも、ひとつのプロジェクトが終わり、その結果が満足のいくものでない時は、プロジェクトチームを一度は解散しリーダーを退任させることになるでしょう。そして、再度、同じテーマでプロジェクトを立ち上げるのであれば、プロジェクトリーダーの選出プロセスから改めて実施することになります。

ここで、前回のリーダーにもう一度リーダーとしてプロジェクトを任せるチャンスを与えるか、別の人たちだけにリーダーとなるチャンスを与えるかどうかは、ケースバイケースで対応するにしても、プロジェクトオーナーはリーダーの選出に当たって忘れてはならないことがあります。

それは、次のプロジェクト(大会)に向けての新たな目標設定です。この重要なテーマは、リーダーを選んでから検討するのではなく、プロジェクトを任せる側であるプロジェクトオーナーが、リーダーを選ぶ要件の最も重要な事項としてリーダー候補となる人たちに事前に提示すべきものです。例えば、次のカナダ・USA・メキシコ共同開催の北中米大会では、出場国の数が48(カタール大会は32カ国)になるとしても、「大会ベスト8入り」という目標は変えない、というものです。

この目標を実現するために、あなたはリーダーとしてどのような計画や戦略でチームを作り、「アジア地区予選を勝ち抜き、大会の予選リーグを勝ち抜き(3チームのリーグ戦の結果2チームが決勝トーナメントへ進む)、大会の決勝トーナメントで2勝以上を挙げること」を実現するのか、というミッションを具体的に提示しなければなりません。

ベスト8入りで目標達成度が100%であるとすれば、その前の段階(カタール大会では予選リーグを通過した段階、次回大会では決勝トーナメントの1回戦を勝った段階)で敗退すれば達成率は70%程度(条件付き合格か)、もうひとつ前の段階(カタール大会では予選リーグで敗退した場合、次回大会では決勝トーナメントの1回戦で敗退した場合)では達成率は50%程度(評価としては不可か)となるのが妥当なところでしょう。反対に目標以上に結果が良かった場合は、ベスト4に進出で達成率120%程度、決勝戦に進出したら150%、優勝となれば200%、というイメージでしょう。

こうした目標設定を明確にすることが、プロジェクトに具体的に着手する前にプロジェクトオーナーの間で議論された上で合意されていることが重要です。その上で、リーダーの選定に当たることが求められます。一度、リーダーが決まれば、プロジェクトメンバーとしてリーダーや選手を支えるスタッフ(コーチ・トレーナーや通訳・アシスタント・事務担当など)の役割や個々のミッションが決まり、選出すべき選手の条件も決まってくるはずです。

プロジェクトオーナーは体制作りをサポートすることはあっても、実行するのはプロジェクトリーダー(監督)を中心とするスタッフや選手です。結果がどうあれ、大会が終わればまた、プロジェクトオーナーはガバナンスを機能させて業績評価や次の目標設定に臨むことになります。

 

カタール大会では、大会前からスタジアム建設の労働環境・労働災害の問題や贈収賄事件など、さまざまな不祥事やスキャンダルが報じられる一方、終わればスポーツロンダリングのお手本のようにアルゼンチンやメッシ選手を称える声ばかりが聞こえてきます。

4年後の次回大会ではそうしたことがないようにクリーンな大会であることを願うとともに、FIFA自体がプロジェクトオーナーとして次回大会こそ適切なガバナンスを発揮して、参加国が増えて広範囲な開催地で試合を行うことによる規模拡大が大会の盛り上がりにつながるように祈念してやみません。

 

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(20221221日)