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アイリーン・キャラ氏の訃報に接して

アイリーン・キャラ氏の訃報に接して

 

昨日、歌手で俳優のアイリーン・キャラ氏が自宅で死去したことが報じられました(注1)。63歳でした。日本では映画「フラッシュダンス」(1983年、USA)の主題歌“What a Feeling”(注2)でアカデミー賞(歌曲賞)とグラミー賞を受賞した歌手として著名ですが、その前にもアカデミー賞(歌曲賞)を受賞した映画「フェーム」(1980年、USA)(注3)で、主演グループの一人としてパフォーミング・アーツに通う高校生を演じた姿が、個人的には強く記憶に残っています。

映画「フェーム」はニューヨークの高校(専門学校?)を舞台に、俳優・ダンサー・歌手・演奏家などを目指す生徒たちの4年間を描いた作品です。クラシックを学ぶこともあれば、ジャズやコンテンポラリーのレッスンもある一方、ダンサーや音楽志望者でも朗読や台詞の教科もあるようで、パフォーミング・アーツに関わることは一通り身につけることが求められるようです。

特に、昼食時に偶然生まれたリズムに即興演奏が付き、校舎にいる生徒たちが外のニューヨークの街へと踊り歌いながら繰り出していく(ホット・ランチ・ジャムと呼ばれる)シーンは、タクシー運転手の父親が「あれ(アイリーン・キャラが扮する歌手志望の生徒)が俺の娘だ」と叫びながら喜ぶ姿に至るまで、一気に盛り上がってみせます。途中には、スキルの向上や表現上の困難さで壁に当たることもあれば、恋愛もあれば同性愛に悩む姿もあり、退学する者も出てきます。そして卒業公演のシーンで歌・演奏・踊り・朗読などが一つに結実していく物語です。

この作品を観た当時、ニューヨークには公立の舞台芸術専門校があるのか、とこの映画が製作されていた頃に都立高校の普通科を卒業した筆者は大変驚きました。そして、同じような高校生程度の人間とは思えないストーリーや各人が置かれている情況に、とても自分にはこんな高校生活は送れなかった、と観念させられました。そうした気持ちと音楽やダンスのシーンを楽しんでしまう心理が絡み合った作品であったので、それまでに観たミュージカル映画に多かった、明るく楽しい作品に尽きるという感想では済まないものでした。

そして今改めて蘇ってくるのは、後年、映画「フラッシュダンス」を観て、「フェーム」の学校を卒業した人々を待っているであろうプロになる厳しさが、ここに描かれていると感じたこともそのひとつです。そうした作品の主題歌を彼女が歌っていたことも含めて、「フェーム」のその後を描いているようでした。

これらの活躍で語られるアイリーン・キャラですが、80年代後半以降はレコード会社との契約を巡るトラブルから活動の場が限定されたようです。近年はポッドキャストなどで情報を発信したりしていたので、映画「グリース」のように当時のキャストが再び集合してコンサートを行ったり、映画「フットルース」のようにオリジナルと現代版(コピー)やフラッシュモブを行ったりするように、「フェーム」をベースに復活して欲しかったと願っていたのは筆者だけではないでしょう。

 

【注1

たとえば、以下のように報じられています。

アイリーン・キャラさん死去 「フラッシュダンス」主題歌歌う米:時事ドットコム (jiji.com)

『フラッシュダンス』主題歌担当アイリーン・キャラさん死去 63歳|シネマトゥデイ (cinematoday.jp)

 

 

【注2

 

【注3

 

Fame (1980) - IMDb

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(20221128日)