人事に主義はいらない(3)

人事に主義はいらない(3

 

さて、人事に〇〇主義といった考え方や制度の枠組みを設ける必要性がないこと、下手に○○主義を導入・整備すれば組織がよくなるとか競争に勝てるというのは誤解に過ぎないことを理解したとして、では人事に本来必要なものは何でしょうか。

結論から言えば、それは人の面から事業をリードしサポートすることです。よく言われる表現を借りれば、戦略人事ということになるのでしょう。ただし、通常、戦略人事というと事業戦略を実現するために採用・異動(配置)から教育・評価・報奨などを行うことですから、戦略ありきの人事、または事業戦略とセットで構築・運用される人事という意味合いになります。

それに対して「人の面から事業をリードしサポートする」というのは、誰がどのように事業戦略を策定するのかというところから始まります。誰に事業戦略の策定や実行を委ねるのか、事業を運営できるであろう人材プールをいつからどこに設けるのか、そもそも事業戦略自体に革新をもたらす人材をどのように発掘・調達するのか、といった事業戦略を策定し実行する人材とともに、事業戦略が実行されるように具体的な解決策(人事のルール作りや現場での運用など)を提供していくことを意味します。

従って、事業戦略を策定する人(チーム)が決まれば、戦略論一般と同様に外部環境における自社のありかたを人の面から分析・検証し、あるべき姿を描くとともに現状の姿を客観的に把握した上で、そのギャップを解消していく解決策を作り出すことが最初に求められます。

そして、実際にはその解決策に取り組みながら、企業内外の環境変化に応じて人の面から対応していくことになります。そのプロセスで最も忘れてならないことは、事業戦略に差別性(他社との違い)が絶対的に必要である以上、事業戦略をリードしサポートする人事もまた、他社の人事とはここが違うという差別性が不可欠であるということです。

この差別性という点をもう少し詳述しましょう。

事業を取り巻く外部環境についていえば、一般的な市場動向や地域の特性、人口動態、技術動向や社会的な課題設定の動向、社会的なインフラ(エネルギーや交通などの物理的なものと法体系や公的機関などの制度的なもの)などに加えて、特に人に関わる外部環境要因、たとえば、労働市場の構成や労働法規の体系、社会全体としての雇用の歴史や雇用慣行、企業がアクセス可能な労働者の質と量、就職・転職のメディアなどを十分に考慮しなければなりません。とはいえ、これらを分析しただけでは、基本的に差別性の源泉にはなりえません。

その一方、自社についていえば、マッキンゼーの7Sではありませんが、事業戦略・組織構造(範囲、規模、種類など)・仕事のやり方(スタイル)・業務(意思決定)システム・組織の有する能力(経営資源の過不足と調達方法と獲得した経営資源の活用方法=内部への取り込みの巧拙)・人材の特徴・組織で共有されている価値観(事業目標よりも上位のミッションやパーパスだけでなく、仕事を進めるうえで侵してはならない規範や暗黙のルールなども含む)などが検討され、解決すべき課題が列挙されます。

これらすべてに人事は関わるはずです。事業戦略には、戦略遂行に必要な経営資源の配分という点で、「誰にこの会社の経営を委ねるのか(CEOなどの経営チームを指名するレベル)」や「誰にどの事業を担当させるか(執行役員などの事業責任者のレベル)」から「今日、この作業を誰にやってもらうか(日常の仕事の割り当てのレベル)」まで、しっかりと関わります。いわば、経営人事から事業部人事、最終的には各職場での仕事の割り当てまで、すべてが人事なのです。

このなかで一般に日本の大企業でいわゆる本社人事部門が関与するのは、管理職から一般社員までの個々の人員配置でしょう。それよりも上のレベルは経営人事で取締役会や役員会での管掌事項で、下のレベルはいわゆる現場の人事管理であって、本社人事部門が直接口出しするところではありません。とはいえ、現実に重要なのは、本社人事部門が直接見ないところなのです。経営人事が重要なのは当然ですし、現実の仕事や社員個々の人事評価はまさに現場で行われるのです。

 実は差別性(=事業戦略をリードしサポートする人事が他社の人事とは違うという差別性)が最も問われるのが、経営人事のところです。そして、ここに差別性があるならば、管理職や一般の社員の人事に関する差別性もまた、相当程度に実現されているはずです。

 言い換えれば、自社の人事は他社と比べてここが違うという差別性があるということは、同業他社が導入した〇〇制度を自社も導入するとか、〇〇主義がトレンドだから人事制度もその方向に切り替えなければダメだという行動原則とは相容れません。

人事における差別性というのは、組織のありかたや保有している能力、仕事のやり方、コミュニケーションや意思決定の仕組みや慣行、人材の質や仕事のチャンス、組織文化や価値観などが他社にないものがあるかどうかを問うものです。もちろん、事業戦略そのものやそれが形成され実行されるプロセスなども何らかの独自性があるはずです。その差別性が、外部環境の変化に適切に対応しているかどうかが問われることで、人事の課題が具体的に現われてくるのです。単に人手不足であるとか、人件費率が同業他社に比べて高いというのは、問題事象であるかもしれませんが、課題ではありません。

蛇足ですが、ここでいう人事における差別性は、単に給料が高いとか仕事が楽といったものではありません。もちろん、出世が早いとか福利厚生が充実しているものでもありません。人事(特に人材採用市場)における競争力として挙げられるものではないのです。

 

(4)に続く

  

作成・編集:人事戦略チーム(20211022日)