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B.J.トーマスの訃報に接して

B.J.トーマスの訃報に接して

 

一昨日、「雨にぬれても(原題“Raindrops Keep Falling On My Head”)」を歌ったB.J.トーマスが亡くなったことが公式HP上で明らかにされました(注1)。今年3月にステージ4の肺がんであることを公表してから2ヶ月ほどで悲報を聞くことになってしまいました。

彼の名を有名にした「雨にぬれても」は、映画『明日に向かって撃て』(1969USA、原題“Butch Cassidy and The Sundance Kid”)」の劇中に流れる主題歌です。

 

この曲は当初はボブ・ディランが歌うことを予定されていたようですが、B.J.トーマスの独特の歌声で映画を離れても著名なものとなりました。

『明日に向かって撃て』は、一応は西部劇というジャンルに区分されるようですが、もともとは芸術性の高い映画(アートフィルム)を志向して製作されていたようです。特に主演の1人であるロバート・レッドフォードは、後々自ら主宰する映画祭にサンダンスの名を冠したように、思い入れが強かったのかもしれません。

 主人公の男性2人にヒロインの女性1名が絡むという人間関係の構図や、自由を求めて生きる青春ドラマのように思えるストーリー展開など、それまでの西部劇の主流とは大きく異なるものでした。

その重要な要素として「雨にぬれても」という主題歌が存在します。特に晴天のもと自転車で走るシーンで「雨にぬれても」が歌われるのは、表面的には画面と一致しない曲であるにも関わらず、主人公たちの心情に強くフィットしているように思われます。

 

 『明日に向かって撃て』で見られる人間関係や従来のドラマ(のジャンル)とは大きく異なる展開は、『突然炎のごとく』(1962年フランス、原題“Jules et Jim”)を下敷きにしているように見えます(注2)。

 『突然炎のごとく』は単にアメリカ映画に影響を及ぼしただけでなく、その後の音楽やミュージックビデオにも引用があるほどです。なかでも、シックスペンス・ナン・ザ・リッチャーの“キス・ミー”は、最も直接的なものです。

  ちなみに、『突然炎のごとく』を撮ったフランソワ・トリュフォーは、後にハリウッド映画に出演します。それが、『未知との遭遇』(1977USA、原題“Close Encounters of The Third Kind”)です。その監督であるスティーブン・スピルバーグが、『E.T.(1982USA)で、少年とE.T.が自転車で空を飛ぶシーンを描き、自転車で走り回る自由さを受け継ぐ映画を作って見せました。

誰でも自転車で自由に走り回る機会があれば、ふと口ずさみたくなる曲として「雨にぬれても」はこれからも生き続けていくでしょう。

 

【注1

以下のサイトに、“B. J. Thomas Dead at 78”というニュース記事があります。

BJ Thomas

また、3月の肺がん公表や「雨にぬれても」の制作秘話(インタビュー記事)などもこのサイトのニュース記事にあります。

ちなみに、「雨にぬれても」の収録にB.J.トーマスが急遽呼ばれて、体調が悪く声が出にくい中、作曲したバート・バカラックらが立ち会うプレッシャーにも負けずに何とか録音を終える様子などを、日本の音楽ドキュメンタリー番組に語ったことがあります。

BS-TBSSONG TO SOUL〜永遠の一曲〜」|「雨にぬれても」B.J.トーマス

 

【注2

フランスでは1950年代からヌーベルバーグと呼ばれる映画の作品や作り方が出現していきます。『突然炎のごとく』を監督したフランソワ・トリュフォーのほか、ジャン=リュク・ゴダール、ルイ・マル、ジャック・リベット、クロード・シャブロル、エリック・ロメールなどがそれぞれ独自の作品を作り出していきます。

一方、USAでは、アメリカン・ニューシネマと呼ばれることになる一群の作品が60年代後半から70年代前半にかけて生み出されていきます。これらは、『明日に向かって撃て』と同様に、主人公は伝統的なハリウッド映画のように正義のヒーローというわけではなく、むしろ自由を希求するアウトローであったり警察や軍隊に所属しながらも組織から逸脱して獲物を追うタイプの人間であったりする特徴があります。

 

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(2021531日)