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リモートワークにおけるリーダーシップ(4)

リモートワークにおけるリーダーシップ(4

 

リモートワークから生じている問題点として、例えば次のようなものが挙げられます。

 

・物理的に同じ場を共有していない

・時間的にも同じ場を共有できないこともある

・コミュニケーションの際に言葉以外の要素が極めて弱い

・特に表情やボディランゲージなどの非言語的な要素が受けとめられにくい

・テンポよく次々と意見やアイデアが出てくることが難しい

・情報を伝えようとする側から見ればこちらの伝えたいことが本当に伝わったのか実感が得にくい

・情報を受け取る側も相手が何を言いたいのか伝わりにくい

・それらの結果として知識の共有が進みにくい

・いっしょに働く仲間としての意識とかパートナーシップといったものが醸成されにくい

・一人ひとりが孤立化して燃え尽きるのを止めることが難しい

・仕事の成果を評価するのが難しい(注4

・情報漏洩やハッキングなどの対策としてセキュリティの強化・進化と働く人々への信頼感の両立が容易でない

・個人の住居などオフィス化することに伴う経済的な補償が適切かどうか不明な場合もある

・そもそもリモートワークに必要なツールを使えない人がメンバーの中にいる(使おうとする気がない人がいる)

 

これらの問題点について、もう少し詳しく見てみましょう。

まず、物理的に同じ場を共有していないというのは、問題点というよりもリモートワークで行う上での必然です。実際、MBWAのように、その場その場できめ細かなコミュニケーションを取るようなものはリーダーシップの手法をして採りにくいでしょう。

直接対面しているのであれば、ミーティング終了後にちょっとした立ち話をしたり、コーヒーでも飲みながらアドバイスを送ったり注意したりすることもできますが、リモートワークでの打ち合わせとなると、Zoomなどをオフにしてしまうとフォローが難しいこともあります。特に叱責や揶揄など本人にとってみれば心穏やかでいられないコミュニケーションが行われた場合、リーダーが言ったことでなくても、言われた側は心理的安全性が維持されていると感じることが難しいでしょう。

空間的な共有だけでなく、時間的に同じ場を共有できないこともリモートワークでは往々にして起こります。極端な話、日本と欧米やアフリカでは大きな時差がありますし、同じアジアといってもインドや中東ともなると同時に打ち合わせを行うことは難しいでしょう。日本国内でリモートワークを行うにしても、各人の仕事の都合や個々の家庭の事情などによって、同じタイミングで同じアプリにアクセスをしようとすること自体が厳しいかもしれません。

仮にミーティングの設定はうまく出ていたとしても、リモートならでは問題として、関係者の相互理解がどこまで得られたのかという問題があります。フォロワーに理解して欲しいことが的確に理解されているかどうか、リーダーにとっても把握しきれないところがあります。だからといって、ミーティングや日常的な業務指示を行う度に理解度チェックのテストをするわけにもいきません。フォロワーやオブザーバーにしても、自分たちの疑問や懸念がちゃんとリーダーが受けとめて適切に対応してくれるのか、なんとも言えないままミーティングが打ち切られてしまったと思っていても、そのことは誰にも伝えらないままであるかもしれません。

リーダーとフォロワーの間だけでなく、フォロワー相互やリーダー同士の間も、リモートワークのために職場でのちょっとしたやりとりができなくなってしまい、情報やノウハウの共有ができにくくなっています。仕事の結果はファイルなどで共有できるとしても、そこに至るまでのプロセスで必要な仕事の進め方やちょっとしたヒントとなる知識の共有が進みにくいのもリモートワークの問題点と言えます。

また、仕事を手際よく進めたりアイデアを出し合ったりするのに、コミュニケーションがリズムよく行われることも必要です。リモートワークとなると、このリズムがどうしても形成されにくいでしょう。これは単に通信回線のスピードの問題ではなく、アイコンタクトやボディランゲージなど非言語的なコミュニケーションが取れにくい点に問題があるように思われます。

こうした情報やノウハウの共有が進みにくくなると、いっしょに働く仲間としての意識とかパートナーシップといったものも醸成されにくくなるでしょう。仕事上何か困難なことがあっても、上司どころか同僚などにも気安く相談することが難しいとすれば、どうしても一人で仕事を抱え込みがちになります。それは同時に、一人ひとりが孤立化して燃え尽きる虞を増大させることにもなります。

一方で、情報漏洩やハッキングなどの対策はリモートワークで強化・向上させることはあっても、簡素化されることはあり得ません。実際、リモートワークのもとで仕事を進めるにはITは不可欠です。そのセキュリティを強化するには、情報機器のスペックを特定のものに制限したり、従業員のひとつひとつのアクセスをすべて把握して異なるパターンを検出したらすぐにネットワークから遮断するといった手法を導入している企業も多いでしょう。こうしたセキュリティ対策はコストもかかるとともに、対象となる従業員からの会社への信頼感を損なわないようにすることも忘れてはなりません。

そして、個人の住居などをオフィス化することに伴う経済的な補償が適切かどうかという問題もあります。そうした経済的補償を一切行わないというのも一つの方針としてあり得ますが、そのための前提条件は相当程度に高い賃金(報酬)をすべての従業員に支払っていることです。

経済的補償への対応として「自分から会社に意見を言う」といかにもリーダーシップを発揮したという体でミーティングをまとめたつもりが、いつになっても会社からの返答がなく、これといった施策も出てこないとなれば、リーダーとして失格と見なされるのは致し方のないところです。

 リモートワークに限った話ではありませんが、現実のビジネスを取り巻く環境の変化が速いことは今更述べるまでもありません。目まぐるしく状況が変化するのに対応するには言動も素早く変えることが必要です。リーダーシップにもアジリティが不可欠ですし、リーダーの言動にアジャイルなものが求められます。だからといって、確たる見通しのないことを勝手に言い出せば、リーダーシップを損なうだけです。

 状況の変化は至るところで生じます。対面で打ち合わせをしている最中であっても、リーダーとフォロワーの関係が入れ替わることもあるでしょう。特に相手が社内の人々だけではなく顧客やパートナー会社などの社外関係者なども参加している状況では、いま話題となっていることに最も詳しい人が話の主導権を握っていくとすれば、実際に詳しい人がリーダーシップを発揮せざるを得ません。

リモートワークでのミーティングともなると、打ち合わせているテーマについて詳しいかどうかは、よりはっきりとミーティングに参加している人たちが知るところとなります。上司か部下かといったことに関係なく、仕事を進める上で話が最も分かっている人にその場を仕切ってもらわなければ仕事が進みません。

そもそも、先輩や上級者(年齢が上)だから部下(年齢が下)に教えるとか指示を出すというのが間違った認識でしょう。年齢や経験がないほうがビジネスを進める上で有利な環境とすら思えるのが現実ではないでしょうか。

現にリモートワークに必要なシステムを整備し使いこなすのは若い人が多いでしょう。リモートワークの実務スキルがベテランほど欠けていることが多いから、リーダーシップを発揮したくても、できないのが現実です。ここでは、リーダー=年長者という前提で仕事を進めようとすればするほど、組織は機能しません。リーダーは自然発生的なものであるとすれば、若いほうがリモートワーク下でのリーダーになりやすいはずです。

特にリモートワークでZoomなどを使ってミーティングを行う際にリーダーシップを発揮しようとすれば、Zoomなどのコミュニケーションアプリを活用できるのが大前提です。それすらできなくて、セッティングなどをすべて部下任せにするような上司であれば、何を言っても誰も聞く耳をもたないでしょう。少なくとも、自ら学ぶ姿勢を見せて若手のできる人に事前に教えてもらうとか、反対にミーティングの仕切りをすべて若手に任せて自分はサポート役に徹して、できた成果は若手の手柄として褒めるくらいのことを行って見せるべきでしょう。

ちなみに、ミーティングが終わった後に飲みに行って愚痴や不満を聞くことで説得するなどの事後のフォローを行うことが困難であったり、上司にせよ部下にせよ個別にコミュニケーションを取って対応するといったテクニック(例えば「ここだけの話」「ほかの人には言わないで欲しいこと」をこっそり耳打ちすることで話を通そうとすること)が使えないのも、リモートワークの特徴かもしれません。これらもリモートワークに不慣れな人にとって、よりリーダーシップを発揮しにくい要因ともなっています。

 

(5)に続く

 

【注4

リモートワークにおける評価の問題については、既に言及したコラムがあります。

 

 

作成・編集:経営支援チーム(202155日更新)