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リモートワークにおけるリーダーシップ(2)

リモートワークにおけるリーダーシップ(2

 

コロナ禍にあるかどうかに関係なく、リーダーシップは組織で仕事を進めていくのに必要不可欠なものです。そのことに異を唱える人はまずいないでしょう。それでは、リーダーシップとは何なのか、いつどのように発揮すればよいのか、そして結果とどのような関係にあるのか、こうしたことを明確に意識して実践している人は稀かもしれません。

 

まず、本稿におけるリーダーシップの定義と考察する上での枠組みについて述べます。

ここではリーダーシップというのは、複数の人々が仕事(注2)を行う際に、関係する人々に何らかの影響力を行使して自ら主体的に仕事を進めることとしましょう。そのリーダーシップを考察するには、リーダー、フォロワー、オブザーバー、そして(仕事をする)場を検討しなければなりません。

リーダーは、自ら主体的に仕事を進める人です。ただ、その仕事は一人ではできないものです。一人で完結する仕事には自主性や積極性は必要かもしれませんが、リーダーシップは不要です。

言い換えれば、リーダーシップとは行動や発言を通じてある結果や目標に向かって人々(関係者)を動かして結果を生み出すことに他なりません。リーダーとはリーダーシップを発揮して仕事を進める人です。

フォロワーは、リーダーがやろうとしていることを理解し協力していっしょに仕事を進める人(たち)です。企業という組織で言えば、通常は上司がリーダーで部下がフォロワーとなります。ただし、これはあくまでも一般論で、個々の仕事においては部下がリーダーで上司がフォロワーとなる場合も往々にして発生します。

例えば、チーム全体で「今期の売上目標を達成する」ということは、チームの責任者である営業所長がリーダーとなってチーム全員で取り組むものでしょう。しかし、個々の営業先に対してどのようなアプローチでどのような提案をして売上につなげていくかということは、営業担当一人ひとりがリーダーシップを発揮して取り組まなければ結果に結びつけることはできません。個々の営業先については、営業所長はリーダーではなく、担当営業をサポートするコーチや支援者として動かなければなりません。

オブザーバーというのは、リーダーやフォロワーと違って直接その仕事を進める立場や役割にはないものの、仕事の進み具合やその結果が自分の仕事に影響を及ぼすなど何らかの間接的な関係も有するものです。新入社員にとってみれば、他の部署に配属になった同期入社の人とか、採用担当だった人事の人などです。

オブザーバーはリーダーの直接の影響下にはありません。さきほどの例で言えば、営業所長がリーダーとして振る舞う影響は、あくまでも当該営業所だけですが、同じ営業所長同士はオブザーバーとして相互に営業所長としてのリーダーシップのありようを見合っているでしょうし、他の営業所の営業担当者も自分のところの所長と比較して他の所長の評判を見聞きしているでしょう。

そうした見聞が何らかの形で自分のところの営業所長のリーダーシップのありように影響しないはずはありません。「A所長は頭ごなしに怒らずに、ちゃんと事情を聴いてくれる(それに引き換え、うちの所長はまともに部下の話を聞こうとしない)」とか「B所長は同行セールスでとれたお客さんも、部下のCさんの手柄として部長に報告したそうだ(うちの所長は部下の手柄も自分でやったことにしている)」といった噂話でも、他の所長の耳に入れば何らかの影響があるかもしれません。

 

リーダーシップを考察するには関連する人々だけを検討するだけでは不十分です。なぜなら、仕事をする場のありかたもリーダーシップを規定し大きく左右するものであるからです。この「場」というのは、組織のありかた、コミュニケーションのシステムやツール、仕事のコンテクスト、個人のキャラクターなどから構成されます。

組織のありかたというのは、組織の規模、組織図で表される組織の形や相互の関係(上下関係、指揮命令系統など)を始めとして、組織の運営方法、意思決定や命令・報告などのルート(公式のものだけでなく非公式なものも含む)、職務権限や責任範囲、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)、固有名詞ベースの人員配置、公式の組織図には表示されない非公式なネットワークなどを含みます。

コミュニケーションのシステムやツールというのは、口頭(直接の対面、電話やZOOMなどによるリモートによるもの)・文書・IT(メール、チャット、ファイル共有など)などの仕組みによる違いもありますし、11(個別の指示・指導・面談・相談・助言など)、1対多(訓示・集合教育・CEOからの手紙・マニュアルやパンフレットなど)、多対1(目安箱・従業員意識調査・顧客満足度調査など)、多対多(会議、展示会などのイベントなど)といったチャネルによる違いもあります。

仕事のコンテクストというのは、どういう事情や経緯でその仕事を進めているのかということです。次々とうまく行っている状況で更に次の仕事をしようとしているのか、立て続けの失敗の中で何とか失地を回復しようとしているのか、同じ組織で同じ人が取り組むにしても、そこに至る経緯や事情が違えば取り組む姿勢(マインドセット)や求められるスキルセットも違ってきます。

時には、リーダーとフォロワーの人間関係もコンテクストを左右します。「この前、この人の言うとおりにやって、お客さんに怒られた」と10年前のことでもしっかりと部下は覚えていることであっても、マネージャーはそのことを忘れたままリーダーシップを発揮しようとして、あれこれと指示を出しても部下は聞く耳をもたないでしょう。

そして、個人のキャラクターもリーダーシップにおける場(コンテクスト)を考える上で無視できない重要な要素です。真面目に仕事に取り組んでいるにも関わらず成果が挙がっていないプロジェクトチームに、仕事はもうひとつでもどこか憎めないキャラクターのアシスタントをチームリーダーにつけたところ、チームのムードが明るくなり、ダメでもともとといった楽観的な空気が出てきて、プロジェクトも動き出すようになる、そういったエピソードはプロジェクトで仕事を進める組織ではよくあることです。このようにチーム内の特定の1人を入れ替えるだけで、チームの雰囲気が一変することは実によくありますし、そうした狙いで人事異動を行うことも常套手段と言えます。もちろん、反対に、あの人が加わったプロジェクトは、途中まで順調であっても最終的には必ず立ち消えになる、そういうキャラクターの人もいます。

 

従ってリーダーシップはTPOに応じて変化し、リーダーがそのスキルや適性を発揮する様もまた変化するものです。実際の企業組織でチームを率いてそれなりに結果を出している組織リーダーにとって、こうした変化は自然発生的なものかもしれません。誰に何をどのタイミングでいかなるコミュニケーション・チャネルを通じて伝えれば、相手を動かすことができるのか、巧みに使い分けることができるのが優れたリーダーの要件のひとつです。

ちなみに、状況に応じて変化するリーダーシップというと、シチュエ―ショナル(状況対応型)リーダーシップを思い浮かべる方もいらっしゃると思います(3)。シチュエ―ショナル(状況対応型)リーダーシップは部下の発達(成熟)度に応じて上司は指示のスタイルを変えていくことがポイントですが、リーダーシップは上司と部下だけを見ていればいいものではありません。そのほかの関係者(オブザーバー)やリーダー・フォロワー・オブザーバーが仕事を進める場についてもしっかりと把握しておかないと、適切なリーダーシップを実行することはできません。

 

(3)に続く

 

作成・編集:経営支援チーム(2021419日更新)

 

【注2

金銭を介しての労働という意味よりももっと広く「2人以上の人が共同で行う作業」というくらいの意味で、仕事を仮に定義します。

 

【注3

ケネス・ブランチャードが提唱したSLSituational Leadership)理論では、部下の発達(成熟)度が低い段階では上司は詳細な指示を出して部下を動かす指示型から、少しは部下からアイデアや意見を出させて自立を促すコーチ型を経て、業務遂行能力が十分に身についたところでより高いモチベーションを引き出す援助型となり、最終的には基本的な意思決定(方針や目標の設定)まで本人に委ねて上司は報告を受ける委任型へとリーダーシップのありかたも変えていく必要性が説かれています。