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コロナ禍時代のマネジメントを語る座談会(3)~アジリティとピボット~

コロナ禍時代のマネジメントを語る座談会(3)~アジリティとピボット~

 

以下の座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が経営される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性40歳代):外食サービスを創業。現在もCEOとして複数の業態で多店舗展開の陣頭指揮を執る。

Bさん(男性60歳代):ある地方でマルチ・フランチャイジーを経営。外食、コンビニエンスストア、事業所向けサービス、教育関連サービスなどをフランチャイジーとして展開。

Cさん(女性50歳代):IT関連サービスを創業。観光や宿泊などに特化してビジネスを展開している。

Dさん(女性50歳代):製造業の会社を父親より引き継ぎ、CEOとして大きく業態転換を図った。現在、一種のSPA(製造小売業)として事業展開中。

Eさん(男性30歳代):医療・介護サービスの会社で新規事業を立ち上げ、その後、立ち上げた事業をスピンオフしてCEOに就任。現在、医療・介護関連のITサービス会社を経営。

Fさん(女性30歳代):大手税理士法人から独立し、数名の仲間とともに複数の士業で構成される事務所を開業し、代表に就任。

 

― ところで、政府や自治体などの支援策がいろいろと打ち出されましたが、効果のほどはいかがでしたか。

 

Aさん うちでは手始めに持続化給付金と家賃支援給付金を申請しました。雇用調整助成金(注1)は夏過ぎに申請はしたのですが、現実には退職してもらった従業員が多くて、あまり役に立った感じはありません。

 

Dさん 弊社では、もの作りに不可欠な技術者や特殊な技能をもった職人的な従業員やベテランの嘱託さんは、一時的に自宅待機をしてもらいました。その分は雇用調整助成金で多少は埋めることもできましたが、休みっぱなしというわけにもいかず、定期的な機器のメンテナンスには月に数日は出勤してもらったり、一応、全員に在宅勤務ができるようにパソコンの設置やネットの契約をまとめて行いましたから、結局は持ち出しが多かったです。

 

Fさん Dさんが指摘されたものは、自治体によっては助成金が出るものもあるはずです。ちなみに、うちは事務所のコロナ感染予防対策として東京都からの助成金(注2)を活用しました。助成金はないよりあったほうがまし、というのが顧問先の経営者の方々の本音でしょう。

 

Eさん うちはもともと在宅勤務者もいましたし、コロナ禍では他の皆さんほどには大きな影響は受けなかったほうだと思います。それでも、プロジェクトの中止や顧客先の事情の急変で、コストはこちらもちで急ぎの対応をせざるを得なかったこともありました。そうしたコストはすべて自社でかぶるしかありません。

 

― Go Toトラベルなどの各種のキャンペーンについてはいかがでしょうか。

 

Cさん 観光関連では、やはりGo Toトラベルは一定の効果がありました。1011月のまま進んでいたら、宿泊施設や観光地は復活したかもしれません。そういう意味で確かに効果はありました。とはいえ、キャンペーンの中止が急で、結局は振り回されただけ、というのが宿泊施設や観光地関係者の実感でしょう。

 

Aさん Go Toイートは準備した割に効果が実感できませんでした。Bさんのところはいかがですか?

 

Bさん Aさんのおっしゃる通り、効果というほどのものはなかったですね。こういうキャンペーンよりも、とにかくお客さんが安心して外で楽しく食事ができる状況に1日でも早く戻して欲しいですね。それ以上に効果的なキャンペーンなんてありえません。

 

Dさん 観光関連の業界や飲食業にはプラスの効果はあったはずですが、それ以外の業界は最初から対象外です。製造業でも、土産物を納入しているところはキャンセルだらけで大変ですが、特に救済策はありません。同業者の話では、オリンピックなどのイベント類の延期も同じで、イベント関連の商品はほぼすべて売れなかったそうですが、特に補償はないということでした。

 

― キャンペーンや補助金・助成金には限界があるということでしょうか。

 

Bさん そもそも商売がキャンペーンや補助金頼みというのは、おかしな話です。

 

Aさん 政策として緊急措置で補助金やキャンペーンを行うのはいいのですが、コロナ禍の収束に年単位の時間が必要であることが予想された時点、多分、今年の春には予見可能だったと思いますが、その時点でビジネスモデル自体から変えることを強く奨励する政策が求められていたのではないかと思います。外食ビジネスはその典型です。ビジネスのありかたを根底から見直すしかありません。

 

― 根底から見直すというのは?

 

Aさん 当社で言えば、店舗がなくてもできる外食とかフードサービスのありかたは、宅配やテイクアウトだけではないと思います。たとえば、シェフが個人の家に行って調理するのがいいのか、食材とレシピをセットで送り届けるのがいいのか、試行錯誤中です。

 

Cさん そうですね。インバウンドや海外旅行どころか、国内での旅行すら安心して楽しめないのであれば、ツアーやパッケージという旅行のありかたからして変えていかないといけません。

 

― ベンチャービジネスでいうところのピボットのような動きを、全ての企業がコロナ禍に対応するために行うように迫られているのでしょうか。

 

Eさん そうです。それも、ただ見直せばいいというわけではありません。コロナ禍の動向も政策の動きも、12ヶ月でコロコロ変わりますから、それに対応して素早く仕事のやり方やプロダクト・サービスの展開を変えていくことができるアジリティが最も必要です。介護や医療は施設で行うことを前提にサービスを提供する体制が作られてきたため、その体制そのものを見直さないと感染を防止できない虞があります。いきなりは無理ですが、何とかコロナ禍を抑え込めるように体制を立て直すことが必要です。

 

Fさん 税務や会計の面でも、補助金や助成金をうまく使えるように、リモートでもスピーディーに対応できるように、メールに説明用の映像を張り付けて顧問先に送っています。

 

Bさん ピボットといえば聞こえはいいですが、それが単なる廃業を意味する事業者も多いはずです。現に私のところも、外食事業のひとつと事業所向けサービスの事業は今年いっぱいで止めることにしました。

 

Aさん うちは外食ビジネスそのものをやめるつもりはありませんが、オフィス街に立地するものを中心に既に7店舗を閉めました。このままでは、来年上期中に、さらに5店舗を閉めざるを得ません。

 

― 皆さん、事業の見直しは必須ですね。

 

Fさん どうせ補助金を出すなら、事業構造を変えて利益が上がったことへの褒賞で出したらどうでしょうか。収益への課税率を下げるとか、社会保険料を免除するとか、ピボットがうまくいったら、それに対する成功報酬を出すという発想です。単に事業計画を提出させて、その通り実行すればお金がもらえるというでは、コロナ禍のような不測の事態をチャンスに変える気が起きません。

 

Eさん そもそも公的機関に事業計画の評価や審査なんてできるんでしょうか。そんなことができるのであれば、補助金や助成金を出すよりもそれを直接使って、事業を起こせばいいはずです。

 

Dさん 相変わらず、ふるさと納税とかもやっているのも理解できません。これまでの補助金や助成金はすべて一旦廃止して、医療機関への補助に充てるとか、医療従事者に特別手当を直接支払うとか、予算の使い方の面で大胆なピボットを国や自治体が身をもって示すべきです。それもできることならもっとアジリティをもって実行してほしいのです。

 

Cさん 同感です。どうせ補助金を出すなら、既存の事業で余ったしまった人員を人手が必要な業界や職種に転換できるような教育訓練費用に出して欲しいです。観光関連で余剰となった人たちを医療や介護に早急に転換できたら、双方に有益でしょう。観光関連には言葉ができる人材も相当いますから、その人たちを医療に振り向けて、日本に滞在している外国人のコロナ対策に充てるとか、人材の活用方法はいくらでもあります。

 

― ピンチの今こそ、大胆な変化を掴むチャンスですね。

 

Cさん 観光にせよ、外食にせよ、店舗とか施設とか、場所が固定されるビジネスはコロナ禍では不利であることは明らかです。医療や交通、学校といった公的なサービスも同様です。それらがサービスを提供するのに、いかに場所から離れて、リモートでサービスを提供できるのか、それを収益化できるのかが問われていると思います。

 

Bさん その指摘は耳が痛いですね。もっている土地の有効活用を図るために、さまざまな事業を導入してきたことが今回は裏目に出ました。リモートで仕事をするとか、ネット販売とかに、もっと早くから手を付けておくべきでした。

 

― 本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。来年は、コロナ禍を乗り越えて昨年以上にビジネスがうまくいきますようにご祈念申し上げます。

 

【注1

上場企業における雇用調整助成金の活用状況については、東京商工リサーチ

が取りまとめてその結果を公表しています。

 

【注2

詳しくは以下のサイトを参照してください。

新型コロナウイルス感染予防対策 ガイドライン等に基づく対策実行支援事業 (tokyo-kosha.or.jp)

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(20201231日更新)