マネジメント課題としての事業承継(6)

マネジメント課題としての事業承継(6

 

 本稿の最後に、実際に後継者としてどのような人が事業を承継しているのか見ておきます。

 先月発表された帝国データバンクの調査結果(注7)によれば、事業を承継した人の3人に1人は同族で、ほぼ同じ比率で内部昇格で事業を承継していることがわかります。ただし、同族による承継はここ数年で一気に減少しており、このまま推移するならば来年には、(近年少しずつ増加している)内部昇格のほうが多くなるものと予想できる程です。

 また、現在の経営者が想定している現時点での後継者候補は、「子供」が4割など同族が多数を占め、「非同族」(内部昇格または外部からの招聘がほとんどと思われます)は3分の1ほどです。「後継者が不在」と回答する企業は近年、6566%と多数を占めるなかで、少数派とはいえ事業を承継する計画がある企業も一定数、確実に存在しているようにも見えます。

ただ、これらは現経営者の頭の中にしかないものであるとすれば、想定通りに事業が承継されるとは限りません。後継候補と想定している人がいるとしても、実際に事業を承継する段になると、親族であっても承継を拒否することはよくあります。反対に、親族同士で後継者の地位を巡って争う場合もあるでしょう。そうした時には、親族ではなく、第三者(親族以外の内部昇格または外部からの招聘)が後継者となることもあります。その結果が、同族で承継する人の比率が減少している点に現れているのかもしれません。

内部昇格となると、現経営者が後継指名を事前に非公式にでも行ったり、後継の打診を試みたりするでしょう。後継者となる人にも相当の覚悟ができてから実際の事業承継が行われるとすれば、後継者不在の事態だけは避けられますし、後継者の育成プログラムを実施することも不可能ではありません。

その一方、あまりに早く後継者を明確にしてしまうと、自分が後継者になれるかもしれないと思っていたのにとか、あいつの下で働くのだけはいやだ、といった感情的な面での問題が社内で、特に役員や経営幹部などの間で発生してしまうケースもあります。ときには会社の分裂につながることも珍しくはありません。

 いずれにしても、事業承継には画一的に正解を導き出す方程式はありません。現在の経営者の年齢・家族構成その他のプロフィール及び資産状況、事業の現状や将来の見通し、経営者の親族の情況、従業員特に経営幹部や次世代を担う社員の能力・資質・経験そして相互の人間関係、顧客や主要取引先の動向などを幅広く勘案して、いくつかの代替案を用意しておくことが望まれます。

事業承継の代替案というのは、前2回で述べたように、事業承継が発生する時点によって3種類に分けて考えられます。

 プランAは、現時点での事業承継です。今日、経営者自身に何かあったとして、誰がすぐに事業の責任者となって会社を回していくかという視点で捉えた場合の適任者を想定するものです。このプランは、正確に言えば、事業承継というよりも経営者の急な不在に対するリスクマネジメントと言えます。

 プランBは、数年後に事業を承継することを意図したものです。現経営者と同世代か510歳程度若返るのが一般的です。この場合、承継を終えた経営者自身の処遇をどうするのかも決めておく必要があります。会長や取締役として残るのか、もし残るとすればどの程度の期間残るのか、そして役員報酬及びその他の報酬パッケージをどうするのか、検討し決めなければなりません。

 プランCは、世代交代となる事業承継です。同族に引き継ぐのであれば、子供の世代の誰かに引き継がせることになります。時間的な猶予は最もありますが、だからと言って悠長に構えていてよいわけではありません。特に後継候補が複数いる場合には、育成と選抜のプログラムを運用して数年をかけて候補者を絞り込んだり、親族の中で誰に何を遺産として残すのかを検討し遺言として残したりしておくことが不可欠です。とりわけ、経営している会社の支配権(株式の所有権)を誰にどれだけ渡すのかは、後継者を決めることと同時に決定しなければなりません。

 以上の3プランを検討した上で一定の方向付けができればいいのですが、具体的な後継者が見つからないこともあります。その際はプランDを採らざるを得ません。プランDとは、DisappearDでもあって、事業を止めて事業体が消え去ることになります。

顧客や取引先などの事情もありますが、次第に事業規模を縮小して解散・清算の準備に入るというのも、実は事業承継のひとつです。すなわち、事業を承継しないというプランも事業承継の1形態として選択肢に入れておかねばなりません。

プランDは、法人としては解散決議を行って清算手続きに入り、最終的には残っていた従業員を全員解雇し、債務を返済し債権を回収し、納税や許認可・事業免許の返納などを行うことになります。これも言葉で言うのは簡単ですが、実務的には年単位の時間がかかります。

また、起業や事業再建のように、今は大変なことが多くても未来に向かって課題や難題に取り組む仕事とは異なり、今はそれなりに稼げているとしても、将来の見込みがないことを自ら認めて事業を畳む仕事ですから、経営者自身のモチベーションが上がりにくいことも事実です。

事業を承継すべき後継者が見つからなかった経営者にとっては、顧客や取引先、従業員や地域コミュニティなどの関係者に迷惑をかけないで事業の幕を下ろすことも、責任の取り方として検討すべき選択肢のひとつです。ただ、解散・清算するにしても、その手続きを進めるだけの資金が十分にあり、清算後には多少なりとも残余財産が手元に残るといった財務的な目途が立たないと、解散・清算をそうやすやすと行うわけにもいきません。もしプランDを選ぶにしても、解散・清算したくてもできない状況に陥ることだけは回避して、少なくとも財務的な面では事業が順調に推移している間に決断をすべきです。

この点からも、事業承継は事業が順調に回っているときにこそマネジメントの課題として認識しなければなりません。

 

【注7

本稿で紹介している数値は、株式会社帝国データベースが実施した“全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)”の調査結果によります。調査結果の詳細は以下のサイトをご覧ください。

全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年) (tdb.co.jp)

  

  作成・編集:経営支援チーム(2020128日)