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日清食品パワーステーション・リブート

日清食品パワーステーション・リブート

 

一昨日より日清食品パワーステーション〔リブート〕がオープンしました。1980年代後半から10年余り、レストラン付きのライブハウスであった日清食品パワーステーションが、コロナ禍の現代に「全席、神席。」「日本初の音楽限定・配信限定・無観客ライブハウス」として新たに活動を開始したのです(注1)。

 

個人的には、90年代前半を中心にパワーステーションにはよく足を運んでいました。JRまたは丸ノ内線の新宿駅から、靖国通りを歌舞伎町のほうへと横断し、ゴールデン街の隣の遊歩道を道なりに進み、明治通りを新宿文化センターのほうへと渡ったところに、日清食品の東京本社がありました。今なら、大江戸線と副都心線の東新宿駅から明治通りを南へ歩けばすぐのところです。

日清食品東京本社の1階や地下のフロアがFOODIUMという施設になっていて、その一角にパワーステーションがあった気がします。B2フロアがスタンディングでしたが、公演によってはテーブル席が用意されることもありました。開演1時間前か1時間半前に入口付近に整理番号順に並んでから入場するのがスタンディングのルールでした。

当時よく行っていたライブハウスには、PIT INN(新宿、六本木)、Loft(新宿、荻窪)、Club Quatro(渋谷)、ON AIR(渋谷)、赤坂BLITZSatin Doll(六本木)、MANDARA(南青山、吉祥寺)、JIROKICHI(高円寺)、intro(高田馬場)などがありました。その多くはスタンディングで、テーブルがあるところでもドリンクはあっても食事はつまみ程度のものでした。

また、シアターコクーン(渋谷)、草月ホール(青山)、青山円形劇場など、ライブハウス以外のスペースでも音楽ライブに行くことはよくありましたが、会場内での飲食は不可でした。ドリンクはあってもレストラン並みの食事となると適当なところがなかった当時、パワーステーションは音楽ライブの世界に独自のポジションを確立したかに見えました。

そこで実際に観たアーティストとして今でも覚えているのは、さねよしいさこ、小野リサ、鈴木祥子、GONTITI、モダンチョキチョキズ、CHAKAなどです。CHAKAは、チャカと昆虫採集としても、PSYSとしても見たような気がします。

このうち、小野リサのライブでは、B2フロア全体にテーブル席がセットされ、ステージが始まる前に1時間半ほどディナータイムがあったように思います。他のアーティストの時にも、B1のレストランフロアで飲食を楽しみながらライブも楽しんだこともありました。

一方で、モダンチョキチョキズやPSYSは盛り上がってノリが重視されるステージでしたから、スタンディングのほうが楽しめたことも事実です。登場するアーティストや音楽ジャンルとレストラン&ライブハウスというスペースのありかたがミスマッチだったせいか、またはそもそもチケット価格が高かった(特にテーブル席)ことに原因があったのかわかりませんが、90年代にはビジネスとしては成功と言い難い結果となり、事業としては中止されたこともまた事実です。

 

一般にリブートというと、映画などの映像作品などで作品に登場するキャラクターの基本的な設定は変えずに、製作スタッフやキャストを替えたり時代設定や世界観を(部分的に)変更するなどして、新たな作品(シリーズ)を作り出すものをいいます。

例えば、シャーロック・ホームズとか金田一耕助などのミステリー、バットマンやスパイダーマンなどのアメリカンコミックなどでよく見られるものです。ルパン3世のシリーズも、リブートとは銘打ってはいませんが、実質的にリブートを続けているようにも思われます。

ちなみに、単に改めて作るものは、リブートとは言わず、リメイクと呼びます。市川崑監督が同じ脚本と主演で自らもメガホンを取った“犬神家の一族”はリメイクの代表作です。

「日本初の音楽限定・配信限定・無観客ライブハウス」として、レストラン付きのライブハウスからコロナ禍の現代にリブートしたパワーステーションが、ネット配信用の単なる貸スタジオかレンタルスペースに留まらずに、新たなカルチャーや音楽を楽しむ習慣をも生み出す起爆剤としての役割を担うように期待したいとものです。

当時足繁く通っていたライブハウスのなかには、すでに廃業したものや今年いっぱいで閉店する予定のものもあります。そうした状況で、パワーステーションがリブートを試みる価値は大きいものと思われます。ただ、それが今の時代にどのように受け入れられるのか、大いに気になります。

コロナ禍を嘆いてばかりでは、ビジネスは停滞したままです。コロナ禍という状況を前提に、新たなサービスや製品を生み出して価値創造を試みることがビジネスを止めない最も有効な手段でしょう。そのための一つの手法として、リブートを位置付けることもできます。過去に挑戦したサービスや製品を見直して、今の時代に合ったものに作り変えることもイノベーションのひとつに他なりません。そうした観点からも、パワーステーションのリブートに注目していきたいと思います。

 

【注1

詳しくは以下のサイトをご覧下さい。

日清食品 POWER STATION [REBOOT] (nissin-ps.com)

 

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(20201123日)