マネジメント課題としての事業承継(1)
東京商工リサーチによると、今年度上半期(4月~9月)の倒産件数は3,858件で、コロナ禍による観光需要や外食需要の消失を反映して、観光関連の業種(宿泊業など)や飲食業を中心に前年同期比で増加した業種がある一方、流通業など多くの業種では件数の減少が目立ちました。これは、コロナ禍により法的整理が進みにくくなったことも一因と思われます。倒産の理由としては、もちろんコロナ禍に関連するものが多くありますが、人手不足というものも微増でした。なかでも後継者難を理由とするものも微増で、173件を数えました(注1)。
倒産件数の4.5%程度が後継者難ということは、一見するとあまり多くないように思われるかもしれませんが、後継者がいないと倒産よりも廃業や解散を選ぶほうが多いという現実もあります。実際、同社が行っているアンケート調査(注2)によると、コロナ禍が廃業・解散の動向に拍車をかけている虞があります。
コロナの収束が長引いた場合の廃業検討の可能性(廃業検討率)については、8.6%が「ある」と回答し、前回調査(引用者注、9月に実施された第5回)から0.2ポイント改善にとどまった。このうち、44.2%は時期を「1年以内」と回答している。今年1-8月の「休廃業・解散」は3万5,816件で、このペースで推移する と年間5万件を突破する可能性が大きい。
2000年に調査を開始以降、「休廃業・解散」の最多は2018年の4万6,724件だったが、2020年 はこれを大幅に上回るペースをたどっている。今後、減収企業率や廃業検討率に大きな改善がない場合、「大廃業時代」が現実味を帯びてくるかもしれない。(株式会社東京商工リサーチ2020年10月20日発表・第9回「新型コロナウイルスに関するアンケート調査」8ページより)
こうした危惧は統計データ以上に、経営者、特に中小企業のオーナー経営者の間で共有されているように感じられます。現に廃業・解散を含めて事業承継についてご相談いただくことも珍しくありません。
そうした際に検討しなければならない事項として、たとえば次のようなものがあります。
・現状の事業の動向は? 中長期的な収益の見通しは?
・法人の形式は?(また、オーナーシップと経営執行は分離しているか?)
・何を承継させるのか?させたいのか?(法人という器か? それとも事業の実質か? 技術やノウハウ、顧客基盤、従業員などの人材、共有された価値(観)などを継承していく意思が現経営者にあり、かつ今後の経営者にも求めるのか?)
・誰に承継するのか?(親族、特に長男や婿養子か? 他の親族か? 従業員であればいわゆるMBOやEBOを実施することになるがその準備は? 取引先や顧客などの他社またはまったく関係のない第三者にM&Aや営業譲渡などを通じて承継させるのか?)
・いつ承継するのか?(オーナー経営者の引退時または死去時? サラリーマン社長が会長になるとき?)
・承継準備をいつから行うのか?(親族、特に長男であれば生まれた時からか? 今すぐに行うのか? 将来の特定の時点から具体的に取り組むのか?)
・承継すべきものの価値は?(譲渡すべき資産とは? 譲渡価額は?)
・承継のスキームや手続きについて(関与者は誰か? たとえば取締役会に指名委員会は存在するのか? オーナーシップと経営執行を一体として引き継ぐのか?分離して引き継ぐのか? 次のオーナーを決めるのか?次のサラリーマン社長を決めるのか?)
・事業承継に要する費用はいくらか?(監査法人や金融機関との折衝は? 費用の手当てができる目途はあるのか?)
・相続の準備(遺言書作成、相続税対策など)は?
次回以降、こうした検討課題について考察していきます。そして、事業承継というのは、単に中小企業のオーナー経営者だけの問題ではなく、広く企業経営全般にわたるマネジメントの基本的な課題の一つとして認識すべきものであることをご理解いただければと思います。
【注1】
件数は株式会社東京商工リサーチ発表の「半期企業倒産状況」(2020年度上半期)によります。
https://www.tsr-net.co.jp/news/status/half/2020_1st_02.html
【注2】
株式会社東京商工リサーチ2020年10月20日発表・第9回「新型コロナウイルスに関するアンケート調査」のこと。調査結果のレポート全文は以下のサイトを参照してください。
作成・編集:経営支援チーム(2020年10月26日)