組織  「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー(5)

組織  「組織という有機体」のデザイン 28のボキャブラリー(5

 

(5)組織デザインを行うのは人

 

 7C7Sを活用して組織の問題点を整理し、具体的な解決策を考えていくことができたとして、実際の組織運営のどこをどのように変えていけばよいのか、この点がまさに組織デザインそのものなのですが、単に組織図(組織のハコ)をいじるだけではなく、組織の何を変えていくことで社員の行動を変えていくことができるのでしょうか。

 著者によれば、組織の意思決定システム、業績モニター・評価、人材育成といった要素を変えていくことが必要不可欠であり、これらのルールや仕組みを変えるとともに、実効性のある運用が行われるように、現場での実態に応じた手直しを次々と行っていくべきものです。

 

社内の各種会議の役割と進め方も、あらためて見直すべきだ。数年ごとに定期的にやるべき作業である。(中略)常務会などで部長が説明するのをやめて、専務、常務が自分で説明するようにするだけで、いろいろなことが変わる。(「組織 『組織という有機体』のデザイン 28のボキャブラリー」175ページ)

 

組織の意思決定システムの代表例として、ここでは常務会が取り上げられていますが、会社全体でなくても、部や課、数人のチームでも同じことです。その組織(チーム)のミーティングのやりかたをちょっと変えるだけで、仕事のやり方が変わり、社員(メンバー)の発言のしかたや中身が変わり、行動にも大きな変化が見られます。実際、参加するメンバーを1名入れ替えただけで、ミーティングでの発言が活発になり、日々の仕事にも積極的かつ責任感をもって取り組むように一変することも珍しくありません。

たとえば、会議を行う場所を変えるというのも一つの方法です。会議室と名付けられている、半円型の中央に議長席があり、その両側に長い机が並び、議長席の遠い向かい側に主たる発言者(主に報告や提案説明を行う主管部署の責任者)が座る長方形の部屋に、革張りで立派な背もたれや肘掛けがついている黒い椅子が1020脚並んでいる情況では、自由闊達な意見交換が行われて、クリエイティブなアイデアが生み出されてくるとは思えません。

時には円形の作業場のようなスペースで車座になって、互いに思っていることをぶつけ合うことで、なぜそういう意思決定を行ったのか、その理由や背景をしっかりと伝えることが可能となります。いっそのこと、リモートで意見を出し合ったり、チャットで思いつくままにアイデアを列挙したりするほうが、活発にコミュニケーションが取れますし、その結果として決定された事項についてしっかりと理解できるでしょう。

このように場所を変えることで、固定的な議長と発言者という役割を一旦、破棄して、会議の参加者はより多くの発言をすることに注力し、それを整理・記録するのはICTのシステムに任せておくというように、社員の行動が半ば自動的に変わる契機ともなります。

同様のことは、業績モニター・評価についても言えます。

どのように業績をモニターし、業績評価を行うのかということが変われば、自ずと社員の行動も変わります。よく言われるのは、成果主義で評価を行う際に、成果の定義は戦略によって、またその組織のもつ価値基準や行動規範によって異なるということです。従って、同じ業界で同じ職種だからといって、評価基準が同じということにはなりません。むしろ、同じ業界であるからこそ、成果主義を採る会社同士は、同じ職種なのに評価基準は具体的になればなるほど違うものになります。故に、社員の行動も違うものであるはずです。

たとえば、同じ営業職といっても、A社では売上額や売上の伸び率とか新規顧客の獲得件数といった指標を重視するのに対して、B社では注文のリピート率や顧客満足度で業績を判断というように、一見、定量評価という点では同じに思えても、その内容はまったく異なる場合もあります。この例でいえば、A社はこの製品市場においてPLCでいえば離陸期から成長期にあるはずです。一方、B社は同じ市場で成長が鈍化しているか成熟期に入っている状況にあります。PLCのどこに自社が位置付けられるか、またそこでどのような戦略を採るのかによって、見るべき指標は変わります。そして、指標の違いは、営業行動の差異となって現れます。A社は積極的でアグレッシブに動くことが期待されそうですが、B社は顧客の事情を察知してそれぞれの事情に応じて企画書を提案するといったことが求められそうです。

しっかりとマネジメントができる上司は、同じ部署の部下であっても、担当する顧客や市場によってこうした事情が異なることを見越して、同じ定量指標を用いずにそれぞれの状況に応じた指標を用いるでしょう。また、時には定性的な要素もしっかりと加味して判断することでしょう。

もちろん、同じ会社であっても、前期と今期では状況が違いますし、事業戦略自体が変わって求められる成果も変わることもありえます。極端な話、ある市場からは撤退するというのであれば、昨年まではいかに効率よく売上を立てるかが目標であったものが、今年は下手に売らずに正式発表があるまで取引額を徐々に下げていくかが目標となるはずです。

さらに言えば、たとえば「新たに配属された新人の育成・戦力化」といった定性的な目標については、無理に定量化して「2人の新人について1人しか一人前に育てられなかったから達成度は50%なのでC評価」というようなことは絶対に避けるでしょう。むしろ、「育成・戦力化」といった抽象的な目標を事前にブレイクダウンして一人前の営業担当であれば実行してほしい行動をリストアップするなどして、身につけるべきスキルセットや知識・経験などを具体的に記述して、一人前の営業担当の人物像を共有できるように指導するでしょう。場合によっては、新人の指導に当たる部下が一人前の営業担当の人物像をしっかりと言語化しイメージを語ることができるかどうか、事前に検証するミーティングをもつかもしれません。

業績モニター・評価について著者は、システムの課題というよりも上司がしっかりと見ているという実感を重視しているようです。確かに、部下の立場でいえば、日々の仕事で細かい指図をされるよりも、時に応じて重要なところや痛いところを衝いてくる上司のほうが、手強くマネジメントに長けている印象を持つでしょう。

ただ、これは実は最も実現が難しいことを要求しているようにも思われます。そもそも、部下のことをしっかりと見て、その仕事ぶりを把握しているのであれば、業績評価制度がどのように変わったところで、上司が部下を評価した結果について、部下は納得せざるを得ないでしょう。現実はそうではないということは、業績評価の仕組みの不備や欠陥以上に、部下のことをあまり見ていないし、その仕事ぶりをよくわかっていない、少なくともそう思っている部下が多数を占める組織が多いからなのではないでしょうか。

実際、役員への登用や上級管理職への昇進などを見た時に、なんであの人が?という感想を多くの社員がもつような人事を行っている限り、業績モニター・評価に関する制度的な仕組みや評価者のマインドセットをいかに改革・改善しても、ほぼ無意味と言わざるを得ません。言い換えれば、会社の経営幹部がそれなりの人材から構成されていると社員が納得できる、そういう人材の育成・登用が実現されていることが組織デザインに必要なのです。

 

ボキャブラリー25

「人材重視」のはずの日本の組織だが、実際は人材育成がおざなりである。

 

 人材育成というと、コロナ禍があってもリモートの研修だけでなく、実地のOJTも徐々に実施して、今年の新入社員はこれまで以上に戦力化できている、と自負する企業にとっては、今更何が問題なのかと訝しく思われるかもしれません。

 もちろん、新入社員の教育も大事な人材育成のテーマのひとつですが、そもそも“人材育成=研修・教育訓練”と捉えているのであれば、全くお話にならないレベルの誤解です。

人材育成というのは、競争戦略上の優位を人材の面で確立することです。どのようなレベルの人材を獲得するにしても、少しずつでもより高いレベルの人材を確保できているのか、入社した人材を自社の人事プログラム(研修だけでなく異動・配置・評価など人事全体の仕組み)を通じてレベルアップを実現できているのか、昇進させるべき人材とそうではない人材を区別し適切に処遇できているのか(もしできていれば、昇進できない社員の多くができないことを納得せざるを得ない)、こうしたことを実現するのが人材育成ということです。

つまり、人材育成とは人事戦略を遂行することであり、それは事業戦略、ひいては経営戦略を実現することにほかなりません。

 

人材育成・配置システムは戦略的差別化に結び付く重要な要素である。世間の流行を追わず、他社の真似をせず、外部の専門家に丸投げせず、時間がかかっても自社の事業特性に合ったシステムを自前で構築すべきだ。(「組織 『組織という有機体』のデザイン 28のボキャブラリー」182ページ)

 

いわゆる戦略人事という考え方が主張されるようになって四半世紀は過ぎようとしていますが、本書が指摘するような意味で人材の育成や配置を通じて戦略的差別化を実現するというアプローチを成功させている企業は、皆無に等しいと言わざるを得ません。特に戦略人事が強く求められるトップマネジメントや経営幹部の人材育成について見ると、指名委員会といった制度を導入したり、社外プログラムなども活用して経営能力の向上を図ったりしようとしてはいますが、結果に結びついている実例はあまり見受けられません。

著者が説くように自社の事業特性にあった人材育成のシステムを自前で構築するというと、人材育成にかけられる資金や人材や時間がそうそう確保できず、とても実行する余力がないという企業が大半かもしれません。

しかし、これは何か完璧な人材育成システムを何年がかりで作り上げるという意味ではありません。たとえば、Amazonの採用基準や面接での質問、リーダーシップのあり方=「リーダーの14原則(Amazon’s Leadership Principles)」(注1)などは既に広く紹介されており、ご存じの方も多いでしょう。重要なのは、自社固有の(Amazonならではの)採用やリーダーシップの基準がきちんと存在し、日々の人事業務に活用されていることです。実際に採用面接で質問されたり、マネージャーへの昇進を検討したりマネージャーなどを評価したりする際の基準として活きていることです。人材育成システム全体を作り上げるのが目的ではなく、自社固有のアプローチで、重点的に注力すべきところから実行に移していくことを肝に銘じておきたいものです。

組織デザインを行うということは、このように個々の役員や社員の採用・登用・配置・業績モニター・業績評価・能力開発・異動・退職などの人事プロセスを通じて、一人ひとりの行動が変わっていくことであり、それらを通じて組織全体を改革していくことなのです。

 

(6)に続く

 

【注1

Amazonの採用面接については、ライフハッカー2020102日配信記事ジェフ・ベゾスがAmazonで「社員採用」の基準とする3つのポイントで、次の3点を紹介しています。

  称賛できる人物か?

  グループ全体の効率を高める人物か?

  スーパースターになれる人物か?

「リーダーの14原則(Amazon’s Leadership Principles)」については、流通視察ドットコムのサイトに日本語に訳されたものが記事としてあります。

 

文章作成:QMS代表 井田修(20201016日更新)