ファクトフルネス (12)

ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣~(12

 

12)知識のアップデートが必要という事実を認識する

 

ここまで本書に従って、分断本能・ネガティブ本能・直線本能・恐怖本能・過大視本能・パターン本能・宿命本能・単純化本能・犯人捜し本能・焦り本能という10の思い込みについて説明し、それらに囚われないようにどうすればよいか、そのヒントを紹介してきました。

ご紹介の最後に、ファクトフルネスを実践しようとする上で求められる最も基本的なマインドセットについて、本書で述べられていることを見ておきましょう。

 

なによりも、謙虚さと好奇心を持つことを子供たちに教えよう。

謙虚であるということは、本能を抑えて事実を正しく見ることがどれほど難しいかに気づくことだ。自分の知識が限られていることを認めることだ。堂々と「知りません」と言えることだ。新しい事実を発見したら、喜んで意見を変えられることだ。(中略)

好奇心があるということは、新しい情報を積極的に探し、受け入れるということだ。自分の考えに合わない事実を大切にし、その裏にある意味を理解しようと努めることだ。答えを間違っていても恥と思わず、間違いをきっかけに興味をもつことだ。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」316317ページより)

 

 まず、謙虚さと好奇心をもつことが指摘されています。これは、子供、特に小さい子供ほど、もともと持っているマインドセットではないかと思われます。それを一定の型にはめて好奇心を削いだり、学校や塾での勉強や受験というゲームに子供を漬け込んで、そのなかでの勝者と敗者を作り出すのが教育の機能であると誤解しているような大人が、子供の謙虚さをも壊しているのではないでしょうか。

 むしろ、大人こそがファクトフルネスの重要性を理解し、少しでも実践すべき存在です。

 

世界は変わり続けている。知識不足の大人が多いという問題は、次の世代を教育するだけでは解決できない。学校で学ぶことは、学校を出て10年や20年もすれば時代遅れになってしまう。だから、大人の知識をアップデートする方法も見つけなければならない。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」317ページより)

 

 ここで述べられている大人の知識のアップデートについて、その必要性は個人的に痛感するところです。また、周囲を見回しても、知識のアップデートをしなさいと思わず説きたくなる大人たちが多いこともまた事実です。

 特に日本では、相変わらず、出身校(大学名)や所属する企業名でその人の能力を判断してしまいがちです。しかし、どの大学を出たか、どの企業に就職したか、という過去のある時点での行動の結果よりも、その後現在に至るまで、その人が仕事や日常生活を通じて、どのような経験を積んで何を学び身につけてきたのかということを、どれだけ重視すべきなのか、改めて考えてみるまでもなくわかることです。

就職後の習慣的な行動の長期の蓄積こそが今のその人を作っています。本をまともに読んだことがないとか、何でもネット検索で済ましてしまい、自分の力で調べたり試したりしたことがないといった日常的な行動を何十年にもわたって繰り返しているのです。そこでは学歴の違いなどは人材を評価する上では無視してよい瑣末な要因に過ぎません。

 つまり、人材を比較し、それぞれの能力を評価するのに、最終学歴のように20年も30年も前の知識レベルを代替する指標とはなっても、現在の知識レベルとは何の関係もないものを持ち出しても無意味です。

 

採用担当者なら、欧米企業というだけで外国人を簡単に採用できる時代は終わったことを知っておいたほうがいい。たとえば、真のグローバル企業になったグーグルやマイクロソフトには、「アメリカ臭」がほとんどない。グーグルやマイクロソフで働くアジアやアフリカの社員は、まぎれもないグローバル企業の一員だ。グーグルのサンダー・ピチャイCEOとマイクロソフトのサティア・ナデラCEOはどちらもインドで生まれ育っている。(「ファクトフルネス ~ 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 ~」316317ページより)

 

正に今はグローバルに人材の獲得競争が行われています。個人にとっても組織にとっても、絶えず最新の情報や知識にアップデートし続けることが、競争に参加する最低限の条件と言えます。

中途採用の試験や内部登用の審査の際に、本書で例示されているような客観的で容易に探すことはできても、意外にアップデートしていない知識(それが仕事に直結するものであればなお望ましいものです)を質問してみるといいかもしれません。その結果で、その候補者が知識をアップデートする習慣があるかどうかを推測できますし、さらに言えば、その人の謙虚さや好奇心の程度も想定できます。現代のリーダーには、謙虚さや好奇心は必要不可欠であることは論を俟ちません。

経営者や人事の責任者にとって、本書は自分の知識や知的好奇心の程度を再確認させてくれる格好の試験問題かもしれません。年齢が高くなるにしたがって、どうしてもいろいろなものに好奇心を持つことがしんどくなります。また、立場が上になるほど、そうそう知りませんとは言いづらいものです。周囲の人々も、その知識は「古いです」「間違っています」とはそうそう言えません。今からでも一人で本書を読んで知らなかったことを認識すれば、部下や社員の前で面子は保てます。

 

文章作成:QMS代表 井田修(2020821日更新)