コロナ時代のマネジメント(6)

コロナ時代のマネジメント(6

 

さて、以上を踏まえて、人材マネジメントのありかたを採用・育成・配置・評価・報奨・退職という人材マネジメントのフローに沿って考えてみましょう。

 

  採用

 

採用は、当面は新卒も中途も行われない見通しが強いのですが、2年も3年も採用抑制の状態が続くとは思えません。多くの企業でリモートワークが一般化し当たり前のことになるにつれて、その動きについてこられない社員を入れ替えて、テレワークで成果を出せる社員にしていこうとする動きが活発化していくはずです。採用そのものもリモートで行われることが主流となり、テレワークで仕事をする適性があるかどうか、採用選考のプロセスを通じて判断していくことになります。

もちろん、下手に選ばずに、応募してきた人を一度は採用して自由競争にするという方法もあります。テレワークが主流となり全社員が1ヶ所のオフィススペースに収容される必要性がないのであれば、来る者は拒まずにすべて入社させるというのも一つの有力な人材獲得の手段と言えます。

これから企業の倒産や廃業が本格化し、一定規模で失業者や就職難民のような新規学卒者が出現するとすれば、数多く採用して社内で自由競争の篩にかけていくという方法は、生き残って新たな成長・発展を目指す企業にとって人材確保の有力な手段でしょう。

何らかの選考を行うとしても、選考の基準やプロセスが完璧ということはありえません。どういう採用選考を行ったとしても入社後は何らかの社内競争があるわけですから、多めに採用して後は社内で自由競争というのもひとつの考え方です。

しかし、同じオフィスにいてもチームワークが順調に進むわけではないことや、他部門で協力してプロジェクトを進めることが難しいことは、改めて指摘するまでもないでしょう。まして、リモートの状態で積極的にチームプレイやコラボレーションを実現することは容易ではありません。リモートワークでのインターンシップを一定期間行って、他のメンバーと協力して現実に成果を挙げることができたかどうかをメンバー相互の評価を含めて問うという方法もあります

ちなみに採用に際して見逃されがちな視点に、同じメンバーで働くことが好ましい(楽しい)人材であるかどうかという点があります。すべてリモートで仕事を進めるとしても、むしろそうであるからこそ、仕事を進めながら、おもしろいアイデアやちょっとしたヒントをいつも出してくれるような人材こそ、必要なのではないでしょうか。

物理的に同じ職場にいて楽しい(好ましい)人であるかどうかという点と、リモート環境で共同作業を行っていて楽しい(好ましい)人であるかどうかという点は、多分、同じではないでしょう。言い換えれば、リモートで仕事をすることが日常化すると、いっしょに仕事をしていて、より生産的な(前向きな)環境を生み出せる人材の能力・資質・適性やもっているキャラクターが異なってくるでしょう。

これまでの職場では自ら引っ張っていくキャプテンのような人が望ましいとすれば、テレワークが主流となる職場では仕事上関係する人たちにきめ細かくコミュニケーションをとってリモートの不安をできるだけ小さくできるケアテイカー(面倒見の良い管理人)が求められるように思われます。

採用を考える上で、こうした人材像の変化にも対応していくことが不可欠と言えます。

 

  育成

 

採用に注力することも必要ですが、採用した人材が活躍する場を生み出すことはもっと重要であるかもしれません。リモートで仕事をすることが当面は試行錯誤の連続となる組織も多いでしょうから、採用以上に社員が活躍する場を作り出すための工夫が求められます。

そのモデルとなる企業(注1)はこれまでも存在しましたが、これからも同様の工夫でよいのか、それとも何か別の新たな工夫が求められるのか、考えて試行していかなければなりません。直接、指導・助言することで表面的な言葉以上に体現すること(非言語上のコミュニケーション)で伝えていたことを、リモートの状況下で言語化・映像化して伝えていくための工夫が肝要となります。

また、ICTサービス会社、コンサルティング会社や監査法人、さまざまな事業開発に長けた企業など、いわゆる人材輩出企業と一般に呼ばれるような会社も、採用して後は社内で自由競争というわけではなく、採用後は一定レベルまでの教育をしたうえで、活躍する機会を生み出し与えるところに、人材面での競争優位性が発揮されています。

これからは、リモートでの人材教育と身につけたスキルを発揮するための場作りがより重視されます。そこで、特に組織内のコミュニケーションのありかたも問題となります。

なかでも集合研修については、そもそもの必要性とCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のクラスターが発生してしまった時のリスクとを厳しく比較衡量した上で、集合研修を実施する合理的な理由付けが求められます。

今年は新入社員研修を急遽、リモートで実施した企業・団体が多かったものと思いますが、今後はリモートで行うスタイルが研修のスタンダードとなります。これまでのように、研修施設に投資したり著名な講師を招聘したりすることなどに予算を掛けるよりも、今後はITツールや教材制作に人材も資金も投入することが強く求められます。

 

  配置・異動

 

職場作りとともに配属や異動についても、リモートで仕事をすることが大きな影響を及ぼすことは言うまでもありません。これからは人事異動に物理的な移動を伴わないとすれば、転勤という概念もなくなりそうです。特に単身赴任のような、いわば非人道的な異動プログラムは、さすがに廃止されるでしょう。

部署を異動することはあっても、居住地を移ることがマストではないようになれば、異動や配属の変更はより柔軟にスピーディーに行うことが可能となります。これは、事務系の仕事だけでなく、営業や開発プロジェクトなど社外の人々と接点を持つような仕事においても同様です。

従来は、夫婦共働きでどちらか一方が転勤となると、必然的に単身赴任か一方が仕事を辞めるかという二者択一を迫られました。それが女性のキャリア開発を妨げる一因にもなっていました。

リモートで仕事をすることが可能ということは、この二者択一を無意味なものに変えただけでも大きな意味があります。つまり、転勤せずに仕事に挑戦する機会が出てくるのであれば、それを活かせるかどうかは、よりその人次第ということになりますし、結果を出して更に次のステップへ進むこともよりやりやすくなります。

一方、現場がある仕事、たとえば、建設や工事の現場、医療や介護の現場(病院や介護施設、サービスを受ける人々の自宅など)、エンターティンメント(演劇や音楽などのライブ、スポーツイベントなど)などについては、現場間の異動は物理的な移動を伴うものでもあります。これらの仕事については相変わらず、異動に伴う転居(=転勤)が避けられませんし、長期の出張を強いられるケースもまだまだ多いでしょう。とはいえ、対象者や実施期間は必要最小限となるでしょう。

 

転勤とセットで考えるべきテーマに社宅があります。

転勤が必ずしも転居を伴わないとすれば、社宅の必要性は低下します。故に社宅は今後、削減される方向となるでしょう。

ただし、賃貸の更新や新居の購入などにより自宅を移る際に一時的に社宅扱いの借家に入るとか、家族内に感染症が発生した場合に一時的に自宅近くの宿泊施設を社宅扱いとして在宅勤務の拠点にするといったことは起きることが予想されます。こうした場合、一時的に自宅や所属地ではない地域に仮住いしたり、ワーケーション(注2)を行ったりするといった方法も出てくるかもしれません。

ちなみに、新卒者を数多く採用する方針を実施する企業においては、新卒採用者が全員、自宅で在宅勤務では教育研修も職場導入もそうそううまくはいかないでしょう。最初の数年は寮や社宅などの集合施設を自宅として貸与するほうが、望ましい結果を得るにはいいかもしれません。

 

  評価

 

多くの企業が単独でサバイバルしてくことが容易でない状況に置かれており、出張や営業などの対面で仕事をすることに代替していくことが求められるとすれば、他の社員や業務委託者やパートナー企業の関係者などとの協業をうまく進めてプロジェクトを成功させるといった成果が要求されるでしょう。

また、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)とは関係なく事業環境の変化が急激な時代である以上、毎日とかひとつひとつのタスク毎に短いサイクルで評価する必要性がより高まっています。

したがって、業績評価も短い時間軸で多面的に行うことになります。少なくとも、誰(自分でどこまで、他の人のサポートは?)が何をいつまでにどのようにするのか、事前に(毎日)設定して1日終わったところで自己評価をしつつ、他の関係者についても簡単な業務レビューをフィードバックすることが求められます。

リモートワークともなると、管理職の仕事の大半は、仕事の設定と日々の結果確認、その間でのサポートなどをタイミングよくコミュニケーションを行うこととなりそうです。こうした管理職のコミュニケーションスキルは、業績評価のスキルと同様に、多面評価されるべきものです。

こうして見ると、年に1回、目標設定をしてその達成度を評価するとか、コンピテンシーやスキルを定めてその実行状況を評価するといった、従来はスタンダードと思われていた業績評価の方法が、事業環境が変化するスピードに付いてこられないのではないでしょうか。

業績評価につては、さまざまな仕事の進捗状況や問題発生状況をできるだけ自動的に把握できるICTの仕組みを整備しながら、事後的に新たな成功モデルを見つけていくことにならざるを得ません。

可能であれば、業績評価の測定指標を事前にセットしておくことが望ましいのですが、仕事がうまくいくモデルを確立する時間的な余裕がない状況が当面続くのであれば、結果を評価するだけで報奨(昇給や賞与など)に反映させるしかないでしょう。

一方、昇進やキャリア開発などについては、評価するに値する結果が出ているケースと出ていないケースを比較分析し、結果に至るプロセスや結果につながった成功要因を抽出することから着手することになります。そのために必要な情報は、管理職(直属の上長)だけでなく、その人と仕事上接点がある社内外の関係者から広く収集することになります。

上司が部下を評価するという基本は変わらないとしても、上司が評価するための情報は、より多角的に見ないといけません。それができない管理職が大半を占めるような組織は、社員から見捨てられるでしょう。

つまり、個々の社員が誰の下で働きたいのか、上司を選ぶ時代になる確率が高いのです。さらに言えば、社員や外部スタッフなどから評価される管理職がいない組織というのは、結局のところ、そこで仕事をしたいと思う社員や外部スタッフがいないことになってしまいます。

 

  報奨

 

報奨には、報酬と処遇があります。

処遇は、たとえば、昇進や昇格、次の仕事の機会を得ること、研修や留学などで自らのスキルを高めるチャンスを得ることなどがあります。このうち、昇進や昇格は報酬制度(昇給)とリンクして実施されるのが一般的です。

処遇を決定するのは、通常は一定期間に累積された業績評価の結果および社内試験などの特別な審査の結果から判断されるものが多いでしょう。こうした基本的なルールや制度の枠組みは、コロナ時代だからといって急に変更する必要はあまりないと思われます。

ただし、ここでいう「一定期間に累積された業績評価の結果」というのは、そもそも業績評価の基準やプロセスが変われば、その内容も影響を受けます。特に累積する期間は、事業環境の変化が極めて激しい状況では、あまり長くは取れないでしょう。とはいえ、変化が激しいなかで柔軟に対応できるかどうかは、一定期間の仕事ぶりから判断されるものですから、一度成功したから即時に昇進させるといった方法は、ダメなら即時解雇か降職・降格とセットでなければ、実用的ではないでしょう。

 

次に報酬制度ですが、これは金銭的なものと非金銭的なものがあります。

金銭的なものは、給与・諸手当・賞与・退職金・株式連動型報酬制度などがあります。これらのうち、大半のものは、コロナ時代だからといって大きな影響があるわけではありません。

たとえば、基本給について考えてみると、何を基準として基本給を決めるかという決定要素の面では、職務にせよ職能にせよ、業績にせよ年功にせよ、役割やスキルにせよ、いずれの要素で決めるとしても、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)とは直接は関係のないものです。

もちろん、一般的な意味で人事の考え方が、従来のメンバーシップ型から、よりジョブ型になるとか、年功要素はほぼなくなり成果中心になるといった傾向はあります。事業環境の変化が激しい以上、それに対応すべく仕事のやり方も大きく変わっていきますから、その傾向をより強める方向に基本給の考え方に影響を及ぼす可能性は高いでしょう。

諸手当についていえば、100%テレワークということになれば、通勤手当や外勤(営業)手当は不要となります。一方で、対面販売に従事する接客スタッフやフィールドサポートのように現場に出向いてサービスを行うスタッフについては、一種の危険手当のようなものを職務手当の中に含めるべきかもしれません。実際、手当を増額しないと、担当するスタッフを集めることが難しくなるかもしれません。

サテライト・オフィスやワーケーションなど自宅やオフィス以外の場所での勤務を認めるとなると、その場所に行くコストや宿泊費・賃借料、在宅勤務であれば、社員の住環境の整備費用(より広く在宅勤務に向いた住居を社員自身が選ぶとか、自宅以外に在宅勤務可能な施設を借りる費用を会社負担とするとか)、ICT環境の整備費用(パソコン、Wi-Fi、通信費、電気代など)などを肩代わりするような手当を支給する企業も出てくるでしょう。そうなると、これらのコストをより手厚く補填する企業と、そうでない企業の労働条件の違いも採用条件を検討する際に無視できなくなります。

賞与や株式連動型報酬制度については、それぞれの情況に応じて検討すべき重要な事項です。

業績の悪化が明らかに見通せる状況では賞与や株式連動型の報酬を支給しないのも止むを得なせん。とはいえ、急にテレワークを強いられたり、医療サービスや物流サービスなど業務量の急増や業務体制の急変に対応を要請された職種については、そうした負荷に対する一時的な報酬も必要です。一時金として賞与の代わりに支給するのか、毎月の手当を新設して報いるのか、株式連動型報酬の対象者にするのか、人材の引き止め効果も考慮に入れて検討すべきものです。

 

非金銭的な報酬制度については、大幅な見直しが求められそうです。

たとえば、優秀な社員を表彰するといっても、そもそも“優秀”の定義を改めて考えなければなりません。ノルマを達成した人を表彰すればいいのでしょうか、それともICT環境に不慣れな社員を自主的にサポートしてくれた人を表彰すればいいのでしょうか。答えは会社によって、もしくは同じ会社であっても部署によって異なるでしょう。

表彰するにしても、その方法はどうすればいいのでしょうか。全社員が一堂に会するイベントとか全店店長会のような拠点責任者が全員集まるようなミーティングでもあればいいのですが、すべてリモートで表彰式を行うのも考えものです。

近年、一部の会社では社員旅行や社員運動会のようなイベントが復活していましたが、これらも今後はどのように取り組むべきか再考する必要があります。いわゆるインセンティブ・トリップは、社員参加イベントというよりも表彰制度のひとつですが、集団で旅行するというのは、さすがにアウトでしょう。

旅行や運動会のような3密必至のイベントを当面は実施しないのは当然としても、新年会・忘年会、歓送迎会、部会などはどう運営すればいいのでしょうか。リモートでやるとしても、その目的や効果をどのように捉えればいいのでしょうか。飲み物や食べ物を会社がすべてセットアップして宅飲みをやることで、従来の職場飲み会に替えるとすると、それを行う意味はどこにあるのか、改めて考えてみるべきでしょう。

テレワークが常態化して職場自体が物理的に存在しないに等しいのであれば、職場の同僚とのつながりやコミュニケーションの場を設けるには、Zoomを介したランチミーティングや宅飲み会を行うしか手段はないのかもしれません。

今後、テレワークが長期化して常態化すればするほど、健康管理やメンタル面のサポートも必要となるでしょう。運動不足などの体調面の問題とともに、同僚や顧客などとのつながりが希薄化することによる孤立感・孤独感は、とりわけ一人暮らしの社員にとって重大な問題となるかもしれません。

オフィススペースの縮小、通勤・出張や外勤などの削減による旅費・交通費等の減少、昼食代補助・会議費・交際費など食事や会食などの費用削減等々から得られた財務的な余裕をどこに活かすか、手当や賞与で支払うのも一案ですが、それぞれの職場での知恵や経営者の創意工夫が求められそうです。

 

  退職

 

在宅勤務によるリモートワークが主流となると、これまでのような通勤は不要となります。また、足で稼ぐ営業といった仕事のやり方も姿を消していくことでしょう。

もしそうであれば、今よりも高い年齢であっても働くことは可能になるはずです。また、1日の労働時間や1週間の労働日を自分でコントロールできるのであれば、ある日を境にいきなり仕事をしなくなるのではなく、週3日働くとか15時間勤務にするというように、徐々にリタイアしていくという方法も採れます。

つまり、定年年齢を一律に定めて、それまでは無理にでも雇用を継続するといったものから、一人ひとりの事情(子や孫の育児、家族の介護、自分の健康状態や労働意欲、自分や家族の財務状況やライフプランなど)に応じてリタイアのタイミングややりかたを自ら設計するほうが、働く個人にとっても職場を提供する組織にとっても都合がよいでしょう。

ちなみに、リモートワークのほうが決まった職場に出勤する就労形態よりも副業をやりやすいはずです。そこで、さまざまな副業を経験することで本業の会社に見切りをつける社員も一定数、出現してくるでしょう。この点からも、社員が会社を選ぶ時代になりつつあるのです。それは同時に、社員が自らのタイミングで退職を選ぶ時代でもあります。

業績評価とも強く関連しますが、社員から選ばれる会社にならないと、企業は採用も離職防止もできません。最悪の場合、人がいないことで事業が成り立たなくなる日を迎えるのです。いわば、社員から見捨てられて廃業していく会社も珍しくはなくなる一方で、人材募集に応募してくる人が引きも切らない会社も出てくるのです。

 

(7)に続く

 

【注1

HPのコラムでも以前言及したことがある、HILLTOP株式会社やコミー株式会社など人材育成・活用に会社のコアコンピテンスがあると思われる中小企業があります。詳しくは、以下の座談会の「(4)見習うべきモデル」を参照してください。

https://www.qms-imo.com/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC/workstyle-zadankai/

 

【注2

ワーケーションについては、当HPのコラムでもご紹介したことがあります。詳しくは、以下を参照してください。

https://www.qms-imo.com/2015/07/31/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AF%E4%BC%91%E3%81%BF%E3%81%8C%E5%B0%91%E3%81%AA%E3%81%84-%EF%BC%94/

 

  作成・編集:経営支援チーム(202084日)