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アラン・パーカーの訃報に接して

アラン・パーカーの訃報に接して

 

昨日、イギリスの映画監督・MV監督・脚本家であるアラン・パーカー氏が病気のため亡くなりました(注1)。同氏を追悼してIMDbでは主要作品を紹介しています(注2)。このうち、「ミッドナイト・エクスプレス(1978年、USA)」または「フェーム(1980USA)」のいずれかを最初に観た記憶があります。

 

いくつかの作品を観ると、テーマとして“自由を求めて”ということが強く感じられた監督でした。

脚本を担当した「小さな恋のメロディ(1971年、UK)」は、特に後半からエンディングに向けて、学校という縛りを引きちぎろうとする子供たちが教師などの大人たちをやっつけるストーリー(そのきっかけが少女メロディと少年ダニエルの結婚式)です。

「ミッドナイト・エクスプレス」はまさに、麻薬所持によりトルコで囚われの身となったアメリカ人の青年が脱獄する物語です。「バーディー(1984年、USA)」は鳥となって自由に空にはばたく夢と精神病院に収容されている現実の姿との対比の作品です。

「フェーム」は芸術系の高校でレッスンに縛られている学生たちが、ふとしたきっかけでニューヨークの街中で歌い踊るようになるプロセスを描いた作品です。また、ピンク・フロイドのMVである「ザ・ウォール(1982年)」も映像は「小さな恋のメロディ」の1場面をダークにした印象を持つところもありますし、壊すべき壁を音楽と映像で描いた作品とも言えます。

この頃は、子供たちの集団を活かして作品を撮るという傾向もあったようで、監督デビュー作の「ダウンタウン物語(1976年、UK)」や「フェーム」でその特徴が発揮されています。

そして、「エンゼル・ハート(1987年、USA)」(脚本も担当)や「ミシシッピー・バーニング(1988年、USA)」といったミステリー・スリラー系の作品でも手腕を発揮し、見ごたえのある作品を生み出しました。

余談ですが、筆者が個人的に思う“3大卵シーン”のひとつが、「エンゼル・ハート」でロバート・デ・ニーロ扮する謎の紳士ルイ・サイファーが主人公ハリー(ミッキー・ローク)の報告を聞きながらゆで卵をまるっと食べるシーンです。残りのふたつは、「ロッキー」で主人公のロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)がトレーニング中にたくさんの生卵を飲むシーンと、「タンポポ」で生卵を介した男女(役所広司と黒田福美)のキスシーンです。ほかが生卵なのに対して、ゆで卵でここまでインパクトの強いシーンになっていたことに驚いた記憶があります。

氏の作品は、音楽の要素を抜きにしては語れないところがあります。「ダウンタウン物語」や「エビータ(1996年、USA)」はそもそもミュージカルですし、音楽やダンスを抜きにしては作品が成立しない「フェーム」もあります。直接的には音楽の要素は少ないはずの「ミッドナイト・エクスプレス」にしても、テーマ曲(注3)にジョルジョ・モロダーを起用してアカデミー賞作曲賞(注4)を受賞しました。

もちろん、MVの監督として、既述のピンク・フロイドだけでなく、マドンナ(「エビータ」の主演でもあります)やアイリーン・カラ(「フェーム」のメイン・キャラクターの1人を演じました)とも仕事をしています。

このように映像や音楽で幅広く活躍してきた人はほかにもいますが、MVに初期から取り組んできた監督のひとりとしても、その名が長く記憶されることでしょう。

 

【注1

たとえば、以下のように報じられています。

https://www.afpbb.com/articles/-/3296833

 

【注2

以下のサイトの“Remembering Alan Parker19442020”をご覧ください。

https://www.imdb.com/name/nm0000570/

 

【注3 

YouTubeにあったものを紹介しておきます。

 

【注4

映画作品としての「ミッドナイト・エクスプレス」はアカデミー賞作品賞と監督賞にノミネートされたが、受賞には至りませんでした。作品賞・監督賞ともに「ディア・ハンター」(マイケル・チミノ監督)でした。 

 

  作成・編集:QMS代表 井田修(202081日)