大林宣彦氏の訃報に接して(1)

 

大林宣彦氏の訃報に接して(1)

 

  既に10日ほど経ちますが今月11日、映画監督の大林宣彦氏が肺がんのため82歳で死去しました(注1)。 

氏が監督した作品については、たとえば次のようなサイト(注2)に一覧があります。1980年代を中心に、70年代後半から90年代前半にかけて映画を見続けていたファンの一人として、個々の作品はもとより、原作や制作主体が何であろうとも独自の作品世界を生み出し続けた映像作家と、その生み出した世界全体が忘れ得ないものです。 

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で在宅時間が長くなる中、昔購入した映像素材を見直そうとしてところ、劇場公開が決まっていて製作された商業ベースにのった映画作品を作る前に、自主上映という形で制作された作品(注3)がでてきたので、大林監督の初期の作品を改めて見直す機会を得ました。 

筆者は学生時代に一時期、自主上映作品を数多く見ていたこともあり(注4)、その当時から大林監督の作品、特にEMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ』と『CONFESSION=遥かなるあこがれギロチン恋の旅』は、自主上映や実験映画と呼ばれた世界で注目を集めていた作品でした。この2作品はそのころに見ていたはずで、よく2本セットで上映されていた記憶があります。 

それぞれの作品について大林監督が自ら語るシーンもあり、制作プロセスや音楽などを解説しています。監督が自らピアノを弾いて劇伴の音入れをするものもあり、大林監督のファンに限らず、映画を研究する方々にとっても資料価値のあるものでしょう。 

 

さて、大林監督といえば、少女というモチーフを抜きにしては語れません。『絵の中の少女』や『EMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ』は、まさにそうした作品です。 

『形見』や『Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しいワルツに乗って葬列の散歩道』は、あの世とこの世の交流を描いているところがあり、これも作品のモチーフとして後々まで描かれるものです。 

また、階段というモチーフも忘れることができません。尾道の坂道や階段の多さをイメージされるファンも多いでしょう。まさに『だんだんこ』は階段がテーマの作品と呼びうるものです。 

『喰べた人』は、ベルリン自主映画祭に出品を薦められただけはあって、シュールレアリズム時代のルイス・ブニュエルさながらのカットもありながら、同時に大林監督独特のユーモアのセンスがあって、ほのぼのとしたシュールさが楽しめます。『CONFESSION=遥かなるあこがれギロチン恋の旅』でもそうしたテイストがあり、のちの一般公開作品にも受け継がれていくものが見出せます。ただし、こうした特徴は商業ベースの作品では好き嫌いや拒否反応を生じさせるものでもあります。

 

(2)に続く 

 

【注1 

たとえば、以下のように報じられています。 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200411/k10012381411000.html 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200411/k10012381871000.html 

https://hochi.news/articles/20200411-OHT1T50092.html

  

【注2 

https://cinema-rank.net/list/50168

 

【注3 

1997年に株式会社バップより発売されたVHSのビデオ作品「大林宣彦青春回顧録」(全4巻、カラー、スタンダードサイズ)として発売されたものです。

 

1巻「絵の中の少女に思いをよせて…」 

(『絵の中の少女』、『だんだんこ』、『形見』の3作品を所収) 

2巻「フィルムは息吹とともに」 

(『尾道』、『木曜日』、『中山道』の3作品を所収) 

3巻「風速1.6センチの大冒険」 

(『喰べた人』、『Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しいワルツに乗って葬列の散歩道』、『EMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ』の3作品を所収) 

4巻「尾道、はるかなるあこがれ」 

(『CONFESSION=遥かなるあこがれギロチン恋の旅』を所収)

 

ただし、筆者の手元には第2巻がないため(97年当時、購入しそこなった理由は不明)、大林監督の初期作品をすべて見たことがあるわけではありません。

 

【注4 

自主上映作品として当時見ていた作家では、森田芳光、山川直人、長崎俊一、牛山真一、橋本以蔵といった人たちがいました。彼らの先品に出演していた役者のなかには、内藤剛志や船越栄一郎といった人たちもいました。池袋にあった文芸座ル・ピリエで見ていた記憶が強く残っています。 

実験映画作家では、飯村隆彦、足立正生、寺山修司、かわなかのぶひろ、田名網敬一、鈴木志郎康、萩原朔美、伊藤高志、山田勇男などの作品を四谷3丁目のイメージフォーラムで度々見ていました。 

  

  作成・編集:QMS代表 井田修(2020421日)