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MBAを活用するには(3)

 

MBAを活用するには(3

 

日本の企業が社命や社費でMBAを社員に取得させる場合、その目的は大きくは次の3項目があり、たいがいの会社のMBA取得の目的はいずれかに該当するでしょう。

 

・(次世代の)経営者または経営者候補を個別に育成するため

 ・経営を担う可能性が高い人材のプールを確保し充実させるため

・通常業務に必要な知識やスキルを体系的に習得させるため

  

まず、「次世代の経営者または経営者候補を個別に育成」することを目的としてMBAを取得させるというのは、ファミリービジネスの後継者(創業者や現経営者の長男など)として生まれ育てられてきた人を対象にするものが挙げられます。これは、欧米のファミリービジネスでも見られる例です。 

この目的ではほかにも考えられるケースがあります。たとえば、子会社や関連会社などが次々とできて企業グループ全体で経営者が不足気味といった場合です。大手企業だけでなく、ベンチャー企業でも急成長しているときには、同様の課題を抱えることがあります。この場合、MBA取得だけでなく、社外からのヘッドハンティングや社内での人材公募プログラム(○○会社の社長に立候補など)なども併用してMBA取得プログラムを運用することもあるでしょう。 

この目的でMBA取得プログラムを運用するには、MBAを取得することはあくまでも次世代の経営者か現時点での経営者候補となっていることを意味するだけで、いきなり経営者になるわけではない点を、会社も本人もしっかりと理解しておかなければなりません。この点に誤解があると、本人はMBAを取って戻ってくれば、子会社の社長か事業部門の責任者くらいのポジションに就けると勘違いしているかもしれません。

 

次に、「経営を担う可能性が高い人材のプールの確保・充実」という目的ですが、これは第一の目的ほど個々の人材をピックアップしているわけではなく、中長期的に経営幹部となりうる人材の層を厚くして、事業部のトップや子会社・関連会社の経営者などを経験させながら、更に個々の人材を見極めて選抜していこうとするものです。一般に大企業、特にグローバルに事業を展開する企業に求められるプログラムでしょう。 

現実には、第一の目的と第二の目的は、対象者の絞り込みをどの程度するのかによる程度の違いと言えなくもないものです。会社としては人材プールを組織する上での質を確実に担保できるとも言い切れないので、MBA取得をすべて社費で賄うのではなく、MBA取得をサポートするプログラムとして運用することが多いように思われます。たとえば、学費や生活費の補助、海外留学の場合は海外赴任扱いとしたり休職期間中も在籍扱いとしたりする特例などがあります。 

また、若手・中堅社員向けのジュニアボードやアクションラーニングのコースなどが、実質的に社内MBAコースとなっている企業もあります。こうしたものは、留学してMBAを取得するほど濃密に学習する時間が保証されるわけではありませんが、「経営を担う可能性が高い人材のプールの確保・充実」という目的には沿っており、学びながら現実の経営課題にチャレンジしていくという点で、単なるお勉強に陥ることは避けられます。

  

第三の目的である、「通常業務に必要な知識やスキルを体系的に習得させる」というのは、一般の企業ではなく、コンサルティング会社や経営トップ向けの法人営業を行っている会社などに限られるかもしれません。こうした事業を営んでいる企業では、第一線の社員にも顧客である経営者と同じ目線や感覚、知識やスキルが求められるため、MBA取得を強制こそしないものの、かなり強力に推奨することになります。 

最も極端にケースでは、社内にMBAコースに相当するトレーニングプログラムをもち、講師も時には社外からMBA担当教授を招聘するということもあります。グルーバルな規模をもつコンサルティングファームなどでは、一人ひとりのMBA取得を待っていたのでは事業展開が間に合いませんから、こうしたコースがあるのが当然と言えるかもしれません。 

 

 さて、これらの目的をもってMBA取得そのものを業務として実施したり、MBA取得を目指す個々の社員を支援したりするわけですが、その成果はどのように考えればいいのでしょうか。 

 成果は、それぞれの目的がどの程度達成されたかで判断されるべきです。つまり、第一の「次世代の経営者または経営者候補を個別に育成」するのが目的であるならば、MBAを取得したその経営者(候補)が現に経営者としての役割を果たしているのか、実際に経営者となっているのであれば、その手腕は業績としてどのように現れているのかをみれば、わかります。 

第二の「経営を担う可能性が高い人材のプールの確保・充実」であれば、一定期間を経てそれなりの人材プールが形成されて、事業部門のヘッドとなっていたり子会社・関連会社等の経営者として実績を挙げている人材が一定数、存在するはずです。もしそうなっていないのであれば、MBA取得を目指したプログラムは失敗だった判断せざるを得ません。 

第三の「通常業務に必要な知識やスキルを体系的に習得させる」ことが目的である場合は、MBA取得後すぐに現職に戻し、実際に仕事のなかで、仕事への取り組み姿勢にしても、あるテーマや業務目標へのアプローチにしても、そして実績においても、従前とは違うところをみせることができるかどうかが問われます。プログラムの対象者全体で見ると仕事の面で相当の成長が見られるはずで、MBA取得前と代わり映えがしないのであれば失敗と言えるでしょう。 

ここで注意したいことがあります。それは、MBA取得者本人と組織(経営者や人事責任者)の間で、時間軸や果たすべき役割について、かなり大きな認識のずれがあることです。本人はMBA取得後、直ちに相応の責任あるポジションに就いたり、企業戦略上重要なミッションを任されたりするつもりでいたところ、組織は、一度現職に戻して更に大きな実績を挙げたら次のより大きな仕事を任せてみよう、というようにスピード感が食い違っていることは往々にしてあります。 

こうした食い違いや認識のずれは、すべての目的においても起こりうるものですが、特に第二の目的の場合によくみられるのです。せっかく頑張ってMBAを取得したのに、それを活かして活躍できる仕事が与えられないと不満を持つ原因のひとつは、この辺りにありそうです。

 

(4)に続く 

 

  作成・編集:人事戦略チーム(2020218日)