ハロルド・プリンスの訃報に接して
昨日、ブロードウェイのプロデューサー・演出家のハロルド・プリンス氏が91歳で死去しました(注1)。氏は、1950年代からブロードウェイで舞台スタッフとしてのキャリアを積み、プロデューサーとして、また演出家として、ミュージカルの制作に関わり、数多くのヒット作・傑作を生みだしました。
日本でも上演されたり、映画化されて公開されたものなどの一部を以下にご紹介するだけでも、実績の凄まじさが理解できます
「パジャマゲーム」
「くたばれ、ヤンキース」
「ウェスト・サイド・ストーリー」
「ローマで起こった奇妙な出来事」
「屋根の上のバイオリン弾き」
「キャバレー」
「その男、ゾルバ」
「リトル・ナイト・ミュージック」
「キャンディード」
「太平洋序曲」
「20世紀号に乗って」
「スウィニー・トッド」
「エビータ」
「オペラ座の怪人」
「蜘蛛女のキス」
ミュージカルが中心という点では一貫したキャリアと言えるのかもしれませんが、軽快なラブコメディもあればドラマチックで重厚なオペラのような作品もあります。現代を舞台にしたり、現代的なテーマを扱ったものもあれば、古代ローマやベルエポックのパリを舞台にしたものもあります。
作品の幅広さは、音楽にも表れています。音楽を担当したのは、スティーブン・ソンドハイムを始めとして、レナード・バーンスタインやアンドリュー・ロイド・ウェバー、ジョン・カンダ―&フレッド・エッブなど、ミュージカルの歴史に名を刻む人々ばかりです。また、ジェローム・ロビンスやボブ・フォッシーといった振付家とも仕事をしており、氏の存在自体がブロードウェイの伝説といえます。
ハロルド・プリンス氏は、舞台監督助手として舞台のキャリアをスタートさせ、プロデューサーとして「ウェスト・サイド・ストーリー」などを世に送り出したのち、芸術監督や演出家に転じて「オペラ座の怪人」の初演などを成功させました。
特に「オペラ座の怪人」は、ケン・ヒル版「オペラ座の怪人」とあえて断りを入れなければ自動的にハロルド・プリンス演出版を意味するほど代表的な作品です。筆者自身がこれまで観たミュージカルのなかで最も気に入っている作品として、劇団四季が上演した「オペラ座の怪人」を挙げることができますが、これも氏の演出によるものです。
観客にせよ、スタッフやキャストにせよ、何らかの形でミュージカルに関わったことがある人にとって、ハロルド・プリンスの影響をまったく受けていないということはありえないでしょう。
そうした影響力の大きさは、プロデューサーだけ、演出だけ、という普通のキャリアからは生まれなかったのかもしれません。資金のことや観客へのアピールなどを考えてスタッフを動かしながら、音楽や振り付けなどと協力していかに舞台上で描く世界の質をキャストとともに高めていくのか、両方を実現してきたからこその力量だったのでしょう。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190801/k10012016441000.html
作成・編集:QMS代表 井田修(2019年8月1日)