「2001 キューブリック クラーク」に見るリーダーシップとイノベーション(7)
前回まで「2001年 キューブリック クラーク」(マイケル・ベッソン著、中村融・内田昌之・小野田和子訳、添野和生監修、2018年早川書房刊)で紹介されている、イノベーションが映画作品という具体的な形となっていくプロセスにおけるさまざまなエピソードを通じて、リーダーシップとイノベーションのありかたを見てきました。
そのポイントをもう一度、挙げましょう。
<組織体制作り>
● 知のスパーリング・パートナーを確保する
● スポンサー兼後ろ盾を得る
● 各分野の専門家を手早く集める
● 未経験者でもすぐに戦力化する
<リーダー個人のキャラクター>
● 仕事は任せて、ダメ出しを徹底する
● 限界を超えて要求する
● 憎まれない性格
● 去っていくものは追わない
● 自ら最も働く
● 一貫性
<マネジメントのポイント>
● ビジョンを形作るにはとにかく粘る
● 期限はあってもないものと同じ
● 機密保持
● 使うべき資金と使わざる資金の峻別
● 業界の常識に囚われず、何が最も効果的か追求する
● 既存の勢力の評判は気にしない(若い世代に受け入れられるかどうかが、イノベーションの勝敗を分けるポイント)
● 捨てるもの・諦めるものが必ず生じる
もしあなたが、今、現に、起業したり開発プロジェクトに従事しているリーダーであれば、これらのポイントに〇×をつけてみて、強化・補強すべきところを明確にすることもできるでしょう。
そういう状況にはないとしても、ここに挙げたようなポイントを満たすことができるようであれば、起業や開発プロジェクトに取り組むチャンスが訪れているはずです。具体的なテーマが思い浮かばないのであれば、まずは“知のスパーリング・パートナー”と雑談をしてみましょう。互いに模索し考えていることをぶつけ合うことから、次のイノベーションが始まります。
ここで挙げたようポイントの大半に×がつく人は、無理にイノベーションに取り組もうとはせずに、まずは映画「2001年 宇宙の旅」を見てみることをお勧めします。特にこの作品をまだ見たことがない方には、一度、じっくりと鑑賞されてはいかがでしょうか。
筆者はGW中に改めて映画「2001年 宇宙の旅」を見ました。映像面や音響面で、改めて感心したり凄さを見直したりした一方、スタッフのクレジットがとてもあっさりしており(今なら細かい文字で書かれたクレジット・ロールが延々と続きそう)、本書で登場するスタッフたちのほんの一部しかクレジットされていないことに驚かされました。特に監督のアシスタントをしていた人たちは、まったく表示されません。
クレジットに表示されているかどうかに関係なく、そうした人々のさまざまな貢献が、この作品をイノベーションの塊として結実させたことは事実です。ただし、それらの貢献も、「仕事は任せて、ダメ出しを徹底する」とか「限界を超えて要求する」といったスタンリー・キューブリック監督のイノベーションを真摯に追及する姿勢があってはじめて成立するものであることを、本書を通じて私たちは知ることができます。
そこから得られるものを、イノベーションの現場に活かすかどうか、今からはそれが私たちに問われています。
作成・編集:QMS 代表 井田修(2019年5月10日更新)