1週間前の今月17日、女優のダニエル・ダリュー氏が100歳で死去しました(注1)。フランス映画界の伝説的な女優であり、80年に及ぶキャリアを有し、21世紀になっても出演作がある現役の女優でもありました。
実はこの訃報を耳にして改めてその略歴や出演作品などを振り返ってみたところ、観たことがある作品2本はいずれも主演のカトリーヌ・ドヌーブと母娘の関係にあるミュージカル映画でした。
ひとつは「ロシュフォールの恋人たち」(注2)で、もうひとつは「8人の女たち」(注3)です。
「ロシュフォールの恋人たち」では、(ドヌーブとその実姉のフランソワ―ズ・ドルレアックが扮する)双子の娘たちに、昔愛した男性のもとを離れた理由を母(ダリュ―)が歌うシーンを忘れることはできません。(ミシェル・ピコリの扮した)相手の男性がダムという姓なので、結婚するとマダム・ダムになってしまうのがどうしても嫌だったという、オヤジギャグにもならない理由を歌います。その後、実は同じロシュフォールに住んでいたダムと再会することになるという、あまりにご都合主義的なところが、却って清々しいというか、笑って済ますしかない作品です。
「シェルブールの雨傘」と同じ、監督ジャック・ドゥミ、音楽ミシェル・ルグラン、主演カトリーヌ・ドヌーブの組み合わせでありながら、「ロシュフォールの恋人たち」はまったく別の魅力をもった映画になっており、そのなかでダリュー氏の果たす役割は独特のものがあります。
「8人の女たち」はロベール・トマの戯曲をフランソワ・オゾン監督がミュージカルに仕立てて映画化したものです。この作品では、車椅子で生活している年老いた母親を演じているのですが、自らが歌うシーンになった途端に車椅子から立ち上がったのには、びっくりさせられました。
この映画は、密室ミステリーの会話劇の合間に8人の女たちが唐突に歌い踊り出す作品です。ここでも、ダリュー氏の存在感を抜きにしては映画が成立しないように思います。
いずれもミュージカル・コメディにして、作品全体がコントのようです。そのなかで、品のある母親を演じて娘の役であるカトリーヌ・ドヌーブと渡り合う姿を思い出し、またこれらの映画を見たくなります。
ダニエル・ダリュー氏は、戦前から美人女優として活躍し、戦後も大きな作品に主役として君臨していた、正にフランス映画を代表する大女優でした。そうしたキャリアの後半で、(その当時の)若手の映画監督が手掛ける「ロシュフォールの恋人たち」や「8人の女たち」といった特色のある作品に出演し、ミュージカル・コメディにおいても確かな存在感を示した役者でした。
俳優という職業以外の多くの人々にとっても、ダリュー氏のように、正統派として積んだキャリアをベースに、より幅の広い役や作品で活躍していくキャリアへと展開する姿は、ひとつのモデルを提示しているのではないでしょうか。
【注1】
たとえば、以下のように報じられています。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171019-00000042-jij_afp-int
http://eiga.com/news/20171020/24/
ダニエル・ダリュー氏の略歴などはウィキペディアにもあります。
【注2】
作品の概要はウィキペディアにあります。
【注3】
作品の概要紹介はウィキペディアにあります。
作成・編集:QMS代表 井田修(2017年10月24日)