起業家の働き方改革(5)

 

(4)より続く 

 

 起業家自身の働き方がここまで変わるものなのか、と驚かざるを得ない先例も既に出てきています。起業家の働き方改革の最後に、著名な例を2つご紹介しましょう。

 

ひとつは、サイボウズ株式会社を創業し上場した青野慶久氏です(注2)。

同社のHPにもありますが、もともとIT企業として創業し事業を拡大してきた同社は、一方で社員の離職にも悩む時期が続いていました。

その状況から、ワークスタイル変革を推進して青野社長自ら育児休暇や時短勤務を実践するなどして、100人いたら100通りのワークスタイルを実現する方向にマネジメントの舵を切ってきました。そこには、育自分休暇制度や子連れ出勤制度、大手起業でいち早く導入された副業制度など、同社ならではの仕組みもあります(注3)。

いまでも会社に寝泊まりするのが当然かとも思われるIT企業や創業まもない会社と同様に、以前のサイボウズもそういう会社だったそうですが、経営トップ自らが働き方を変えることで組織全体の働き方を変えてきました。

そして、今では働き方改革の見本のような会社として広く認知されるとともに、「チームワークあふれる社会を創る」という理念を実現する企業としても、製品やサービスだけでなく企業活動全般で認知される存在となっています。

 

もうひとつの事例は、株式会社ミクシィを創業し上場した後、会長となった笠原健治氏です(注4)。

いくつかのITサービスに挑戦した後、mixiで成功をおさめ、更にモンスターストライクで事業を発展させてきた笠原氏は、大企業の創業経営者として大きな組織を率いていくことから、1人のクリエイターとして新たなサービスを生み出す役割に変わりました。

それが、個人としても組織としても、双方にとって望ましいものであるという認識のもとに、自ら決めて動いたものだそうです。

ある種の起業家については、ひとつの特性として、新しいものを生み出したいという気持ちが誰よりも強いことが挙げられます。多分、笠原氏もそうしたタイプの起業家なのでしょう。

そのことを自覚しても、組織における自分のポジションをあっさりと替えることができる人は、なかなかいません。往々にして、成功して一度手に入れたポジションには死ぬまでしがみつく姿を見せられるものです。一般的には、地位にしがみつくのはサラリーマン経営者の特性であるように思われますが、起業家にも会社社長とか公的な役職(○○委員会の委員とか××審議会の民間代表など)といったものに執着する人は多い気がします。

しかし、自分が本当にやりたいことに忠実であれば、肩書きや地位に拘るような働き方は、起業家こそ、本来はしないはずです。大事なのは、自らの意思で働き方を変えることです。無意識のうちに、働き方が変わってしまうことではありません。

起業家、特に一度は成功した起業家の少なくない方々が、いつの間にか、創業の志も理念もどこかに忘れてきてしまい、大企業の経営トップというポジションが好きな人にしか見えなくなってしまうのは、実に残念と言わざるを得ません。

 

起業家が自ら主体的に自らの働き方を変える必要があるのは、起業家自身が比較的若い場合に、より起こることかもしれませんが、中高年で起業した場合にも働き方の改革は必要でしょう。

中高年での起業ともなれば、親族の介護や自分の健康などの諸事情によって、若い起業家と同様にがむしゃらに働くこと自体が、そもそも難しい状況に置かれていることもあるでしょう。また、それまでの仕事のやり方に限界を感じて、大きな組織から脱出して起業することもあります。

つまり、個人でビジネスを興したり小規模な事業から始めたりする人にとっては、起業=(自分の)働き方改革、ということなのかもしれません。

 

初めての起業をしたばかりでは、自分の働き方がこれでよいのかどうか判断がつかないかもしれません。ただ、2年、3年と仕事をしていく一方で、いつになっても忙しく、オフィスに寝泊まりすることが常態化したままであるようならば、自らからの働き方を見直さなければならないことは明らかです。

仕事をいつも同じようにしかしない、できない起業家には、多分、未来も現在もないのではないでしょうか。

事業を成長させるには、最初は1人でスタートするにしても、次第に数人の人が集まり、やがては数十人、数百人といった人々を巻き込んでいかなければなりません。そのプロセスで、起業家の果たす役割も変化していきます。そして、自ら役割の変化を生み出すことで事業を成長させる契機を作り出していく、自己変革型のワークスタイルが起業家にこそ、求められているのかもしれません。

 

【注2

青野氏自身がセミナーやインタビューなどで語っていることが多いのですが、その一例として次のインタビュー記事を紹介しておきます。

https://www.houdoukyoku.jp/posts/10099

https://www.houdoukyoku.jp/posts/10104

 

【注3

詳しくは、サイボウズ株式会社のHPの次の該当箇所をご覧ください。

https://cybozu.co.jp/company/work-style/

 

【注4

笠原氏が新たな起業について言及した記事として次のものがあります。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170729-00010017-abema-bus_all&p

  

作成・編集:経営支援チーム(201788日)更新