同一労働同一賃金を巡って(5)

 

同一労働同一賃金を巡って(5

 

4)より続く

 

前回述べたように、月例賃金について見れば、いわゆる正社員と非正規社員の間で賃率がほぼ等しいという意味において、同じ仕事をしているのであれば同じ程度の賃金(賃率)である企業は確実に増えつつあるでしょう。

しかし、そうであったとしても、たとえば賞与のように毎月支払うと定められているものではないものを含めて考えてみれば、必ずしも同一労働同一賃金とはいえない場合が多いのではないでしょうか。

もちろん、賞与についても、いわゆる正社員と非正規社員の間で同様の取り扱いとしている企業もあるでしょう。同様の取り扱いは実現していなくても、こうした賞与の格差をなくしていこうとする取り組みは見られるようになってきています(注5)。

 

こうした動きはまだまだ限定的と言わざるを得ないことも、また事実です。賞与についてはある程度まで同じような扱いをしていく方向にある企業であっても、たとえば退職金や年金など賃金以外の報酬制度については、非正規社員までも広く対象としていることは、極めて珍しいものでしょう。

今後、仕事ができる非正規社員が増えていくとすれば(そうでないと企業が成り立ちません)、優秀な人材ほど勤続期間も長期化することが予想されます。とはいえ、そうした人たちが全員正社員となるわけではありません。育児や介護などの個人の事情から、正社員と同様の勤務形態をとれないこともあるでしょう。また、会社の事情から正社員として採用する枠が空いていないということもあるでしょう。

 

また、ストックオプションなどの現金以外の報酬制度についても、いわゆる正社員と非正規社員との間で取り扱いが異なるケースがまだまだ一般的といわざるをえません。実態として担当している仕事が同じなのに、こうした報酬スキームの支給対象となる人とならない人が存在するのであれば、これも同一労働同一賃金の原則に合わないので是正すべきものとして把握しておく必要があります。

具体的には、次のような取り扱いが求められるでしょう。

幅広い従業員を対象とする株式連動型の報酬制度や自社株購入の制度などは、いわゆる正社員であっても一定の勤続年数の条件(たとえば勤続3年以上など)を設けることがよくあります。

非正規の社員についても同様の取り扱いが求められます。その際、正社員であれば勤続3年以上であるならば、非正規の社員は勤務時間に比例して取り扱うといったルールが必要となるでしょう。つまり、週3日正社員と同じ時間で勤務しているアルバイト社員であれば、勤続年数の条件は5年(正社員は週5日勤務で3年なのでこのアルバイトは週3日勤務だから5年)以上とするといったものです。

 

さらに、報酬以外の処遇プログラムについても検討すべきものがあります。一般的には福利厚生と呼ばれる分野であっても、たとえば有給休暇の付与日数や付与の条件および取得の実態などが、雇用区分や労働時間管理の違いから大きな差があるとすれば、やはり見直すべき事項として指摘できます。

たとえば住宅や社宅に関するプログラムは、まだまだ圧倒的に多くの会社でいわゆる正社員だけを対象としています。そもそも、非正規社員は現地(勤務地)採用で、通勤手当も支給されないことも少なくありません。その一方、地域限定正社員といった制度をもつ企業もあり、いわゆる正社員と非正規社員の雇用区分上の違いが不明確になっている場合すら、なかには見られます。

そうした状況で、現に担当している仕事に目立った違いがないのに、雇用区分が違い処遇が違うということになれば、同一労働同一賃金というのは単なるお題目に過ぎないと言えます。そこで、非正規社員に前向きに仕事に取り組んでもらいたいと経営者が考えているならば、人事管理の基礎の基礎から学び直す必要がありそうです。

ちなみに、非正規社員については、いわゆる正社員のように勤務地の変更を伴う異動(転勤)はないのが一般的です。しかし、担当する仕事やその仕事をする能力・適性や仕事を通じて挙げた成果などを考慮すると、非正規社員でも異動や昇進の機会をもつにふさわしい人材もいるでしょう。反対に、正社員だからといって異動や昇進の機会をもたせるのにふさわしい人材ばかりとも言い切れません。少なくとも、非正規だからと言って最初からチャンスがないというのは、同一労働同一賃金という考え方と矛盾しています。

 

【注5

こうした動向の一例としてKDDI労働組合の要求があります。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170216-00000014-asahi-bus_all

 

6)に続く

 

 

作成・編集:人事戦略チーム(2017228日)