新春CFO座談会(4)~CFOは探すか育てるか~

 

新春CFO座談会(4)~CFOは探すか育てるか~

 

この座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が所属される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性30歳代):金融関係の会社勤務からベンチャーへ転職。その後、あるスタートアップに創業メンバーとして参画したのち、現在の金融系ベンチャーにCFOとしてヘッドハントされる。

Bさん(女性30歳代):シンクタンク勤務ののち、ITサービスのベンチャーに転身。いくつかのスタートアップを経て、最初に転職したITベンチャーにCFOとして戻る。

Cさん(男性30歳代):友人たちと学生時代にIT関連のベンチャーを立ち上げ。管理や営業など、技術系が多い友人たちをカバーするうちに自らCFOに。

Dさん(男性40歳代):税理士法人を経て、経理事務担当として中小企業で働くうちに、管理部門全般の実務を経験。現在、成長著しい飲食サービス会社で管理部門の責任者に。

Eさん(男性50歳代):商社出身。関連会社や合弁会社の経営に携わった経験をもつベテランのCFO。子会社のITサービス会社のIPOに際して財務経理の責任者として陣頭指揮を執る。その後、別のベンチャーにCFOとして転じ、現在、上場を目指している。

 

― ベンチャーでCFOを探しているところは多いと思いますが、どうやったら見つけることができますか。

 

Cさん 一般的には、ヘッドハンティングとか人材紹介などを活用することになります。今は、CFOに特化した人材派遣サービスとか、CFOの仕事をアウトソーシングするようなサービスを提供する会社もありますね。

 

― 皆さんは、そうした会社やサービスを利用されたことはありますか。

 

Dさん 私は一時期、ある人材紹介会社2社に登録していたことはあります。現在は、会社として人材紹介会社を利用していますが、CFOとか経営幹部を探しているわけではありません。

 

― Aさんは、今の会社にはヘッドハントされたとお聞きしましたが。

 

Aさん 金融やITに強いヘッドハンター数名とは以前から知り合いでした。こちらが特に仕事を探していなくても、時々は向こうからコンタクトがありますから、業界動向とか知人たちの動きなどを情報収集させてもらいながら、軽く食事をすることはあります。

 そうした関係がもともとあったところで、今の会社のお話をいただいたわけです。

 

Cさん 私たちのように学生から起業してそのまま事業をやり続ける場合は、自前で育てるも何もありません。私自身、CFOとしてのトレーニングとかMBAの受講経験とかもありません。ただ、これでも大学や院で経済学全般やファイナンスの理論程度は学びましたから、まったくのゼロから企業財務をやっているわけではありません。

 

Bさん 本当なら、先輩のCFOが実地に指導しながら次のCFOを育てるとか、成長途上のベンチャーならCFOにしたい人を他社のCFOの人が週に12日来て指導するとか、実践的なものがないと難しいでしょうね。

 レンタルみたいな形でうまくいく会社もあるのでしょうけれど、私は自信がもてないですね。

 

Eさん そういえば、創業者であるCEOが実質的にCFOを兼ねているような会社もありますね。直接存知あげているベンチャーの経営者で、3人ほどそういうタイプの方がいます。

 

― CEOCFOですか。

 

Eさん もともとファイナンスの方面に強いのか、前職で財務や会計などの仕事を経験していたのか、詳しくはわかりませんが、そういうバックグラウンドをもった方が起業されると、創業者自らファイナンスの責任者として動くことがあります。

 起業する方は、自分で起業資金を何とか調達されるわけですから、本来、ファイナンスに詳しかったり、その経験が深かったりするはずです。

 

Dさん そういう会社では、事業のほうはCEOが見ないのですか。

 

Eさん いや、そんなことはないですよ。ただ、COOとかCTOといった、いっしょに起業したメンバーが事業面や技術やマーケティングなどをちゃんと伸ばしていかないと、CEOひとりで全て見るわけにはいかないでしょうから。

 

― ちなみにCFOに向いている人とか、CFOの適性というと何かありますか。

 

Aさん レジリエンスとかグリッドとか、ダメだったら諦めるのではなく、すぐに復活して、できるまで諦めない…、融資にせよ資本調達にせよ、そう簡単には実現しませんからね。

 

Bさん 楽観的でもあり悲観的でもある、厳しい時こそ前を向いて、いい時こそリスクを考えて慎重に動く、CEOと同じ感覚ではないのかもしれません。

 

Eさん 最低限の適性は、数字が苦にならず、数字を理解できることです。もちろん、数字だけではだめで、事業そのものへの理解とか組織や戦略を組み立てる能力、交渉を中心としたビジネス・コミュニケーションのスキル、これらの前提となるロジカル・シンキングとかビジネスセンスといったものは不可欠でしょう。

 ただ、そう特殊なものは必要ないと思います。ある意味、ビジネスパーソンであれば、誰でもできるものかもしれません。

 

Dさん 数字への感覚といえば、何かCEOが何か新しいアイデアを喋っている時に、その話が100万円の話なのか1億円の話なのか、桁が読めないと話になりません。弊社のような飲食サービスの場合、厨房機器を更新すれば対応できるのであればすぐに「やってみよう」となりますが、店舗そのものを開発するとなると、アイデアだけでは突っ走るわけにはいきません。

また、いわゆる相場勘みたいのものも日常的には必要です。まったくわからない分野であっても、桁を間違えてはダメです。特に、不動産の相場とか採用する人の給与水準とか、東京都内のこの辺りであれば、一等地はいくら、ちょっと裏道に入ると30%ダウンとか、バイトの募集をかけるにも時給1000円が厳しければ、1200円でとれるのか、お金以外に提示できるものを何か捻り出せないか、毎日、数字の連続ですね。

 

Cさん いまのご指摘は、本当にその通りですね。10年前の自分に言ってやりたいですよ。オフィスを借りるにしても、まったく見当が付かなくて、気合で決めていました。

 

― 今おっしゃったようなことは営業系の企画スタッフが担当することではないのでしょうか。

 

Dさん そのまま、うちの社長に言ってください。私も営業支援みたいな仕事はそろそろ外してもらいたいのが本音です。うちの実態を言えば、営業開発は社長と私ですから。

 

Bさん 一口にベンチャー企業のCFOといっても、会計処理担当もいれば、いわゆる金庫番みたいな人もいますし、資金調達というか借入交渉のスペシャリストもいれば、いっしょに事業計画を何度も練り直してくれるところから入ってくれてほとんど創業メンバーとなる人もいます。

なかには、投資してくれる人もいます。ときにはリストラのためにCFOを引き受けてくれる人もいるそうです。

 結局、会社がいまCFOに何をやってほしいのか、その点がはっきりとしていないと、どういう人を探せばよいのか、わかりません。

 

Cさん 最低限の基本としては、MBAの財務コースが基礎知識で、それに金融機関との交渉とか社内経理などの実務経験が必要なのでしょう。

 

― こうして集まっていただいた方も男性が4人と多いのですが。

 

Aさん 私たち5人だけでも、職歴とか学歴では、あまり共通点はないでしょう。さきほどEさんが指摘されたように、誰でもできる可能性は十分にあると思います。こういうキャリアを積まないとCFOになれないということはないでしょう。

それに、やってくれる人がいればいつでも来てくださいという会社が多いのも現実です。昨日も、知り合いのヘッドハンターからこういう会社でCFOを探しているという情報が入ってきました。ベンチャーといっても、割と有名なところでも探していますね。

 

Bさん ものの考え方とか話の組み立て方といいますか、事業と財務をセットで考えて話をもっていくのに、事業のみでもダメですし、財務だけでもダメということはあります。両方を同時に組み立てて語るのがCFOなのかもしれません。

 

Dさん 確かに、経理は経理で会計や税務の面が問題ですし、財務は財務で金融機関やVCとの話が中心で、そこに事業や戦略を絡めて説明するというのは、通常は機会がないかもしれませんね。私も今は事業と財務をセットで話すことに少しは慣れましたが、以前は事業のほうが抜けていることが多くて、社長によく注意されていました。

 

Eさん 普通は、営業なら営業、経理なら経理でキャリアを積みますから、ベンチャーに転じたからといて、いきなり事業と財務を見て判断するほうが無理かもしれません。

皆さん、何か意識してトレーニングとかされたことはありませんか。

 

Cさん 私は、古典といいますか、井原西鶴や近松門左衛門の作品を読みますね。江戸時代って、けっこうビジネスの時代ですし、士農工商とはいいながら商人が時代を担っている感じがします。そのなかで、商人の生き方・考え方とか、商いの基本とか、お金の回り方とか、参考になることが多いですね。

 

Bさん そういう意味では、「ベニスの商人」は舞台として見ることもできますし、戯曲としても読みやすいです。特に、シャイロックの主張は、契約は契約という点で一理ありますし、ベニスという国家そのものがベンチャーのスピリットにあふれているといいますか、主人公のアントーニオが貿易船に全財産を賭けるという物語の発端からしてベンチャーそのものです。

 

Dさん 私は日常が情報収集の場です。どの街を歩いても、不動産屋を覘いたり、店のチラシを貰ったりします。基本、車では移動せず、電車とかバス、せいぜいタクシーで動くことで、相場の感覚を更新するように心掛けています。

 

(5)に続く 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(2017118日更新)