新春CFO座談会(2)~CFOの仕事とは~

 

新春CFO座談会(2)~CFOの仕事とは~

 

この座談会では、一部、守秘義務を要する事項に言及しているものもあるため、個人名などを特定されないよう、お話しいただいた方はすべて匿名とさせていただきます。それぞれの方々が所属される企業について語っていらっしゃる内容も、企業名を特定されないように、一部、変更して掲載しています。

 

ご参加いただいた方々のプロフィールは以下の通りです。

Aさん(男性30歳代):金融関係の会社勤務からベンチャーへ転職。その後、あるスタートアップに創業メンバーとして参画したのち、現在の金融系ベンチャーにCFOとしてヘッドハントされる。

Bさん(女性30歳代):シンクタンク勤務ののち、ITサービスのベンチャーに転身。いくつかのスタートアップを経て、最初に転職したITベンチャーにCFOとして戻る。

Cさん(男性30歳代):友人たちと学生時代にIT関連のベンチャーを立ち上げ。管理や営業など、技術系が多い友人たちをカバーするうちに自らCFOに。

Dさん(男性40歳代):税理士法人を経て、経理事務担当として中小企業で働くうちに、管理部門全般の実務を経験。現在、成長著しい飲食サービス会社で管理部門の責任者に。

Eさん(男性50歳代):商社出身。関連会社や合弁会社の経営に携わった経験をもつベテランのCFO。子会社のITサービス会社のIPOに際して財務経理の責任者として陣頭指揮を執る。その後、別のベンチャーにCFOとして転じ、現在、上場を目指している。

 

― 実際に担当されている仕事というのは、どのようなものですか。

 

Aさん 当面は資金調達が仕事の中心です。それに関連して、資金計画や事業計画を毎月、アップデートしています。もちろん、日常的に資金の管理とか、経理全般をみています。

 

Dさん 実は私はCFOではないのです。役職は、管理部門担当の執行役員です。金融機関との折衝もあれば、不動産の管理、個々の契約の折衝や実務処理、社員の採用や人事管理全般、財務や経理、広報、IT、法務関連では弁護士や弁理士などとの折衝など、営業・商品・店舗開発以外のことを広く担当しています。

ちなみに、今最も時間を取られているのは、新オフィスへの移転です。事業の拡大が早いもので、本社機能がいくつものビルに分散してしまっており、春までには1ヶ所に集約する予定です。商品開発部門もいっしょにしたいので、レイアウトや技術的な事項などを設計事務所や施工業者と打ち合わせることもあります。

 

― それは幅広いですねえ。

 

Eさん 大手企業でしたら、CFOの役割とか責任が明確になっているはずですが、ベンチャーや中小企業では財務と経理どころか、ITもリスクマネジメントもやっているのが普通でしょう。個々の製品やサービスの収支見通しに始まって、事業計画や会社全体の経営計画まで、一手に作成している人もがいても不思議はありません。

 

― Eさんがもともと働いていらっしゃった商社では、いかがでしたか。

 

Eさん CFOは基本的に財務の責任者として財務部・経理部・予算管理部などを管掌していました。私が在職していた当時は、まだCFOという名称は使っていなかったかもしれません。今は、たとえば、投資委員会はCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)が主宰しますが、CFOは主要メンバーとして、CRO(チーフ・リスクマネジメント・オフィサー)や業務本部のメンバーといっしょに、投資に関する意思決定を通じて資産の再配分を行っているはずです。

 

Cさん ベンチャーのCFOは、財務や経理を取り仕切るだけではありません。

私自身、先週は毎日、商談に出歩いていましたし、開発会議に出席して新しいサービスの方向付けに参画することもあります。まあ、弊社のように、トップからアルバイトの社員まで、大半がエンジニアや研究者という組織では、事業企画や商品企画、営業から代金回収、資金調達から返済まで、開発と人事以外は全て対応するくらいでないと、会社が回っていかないですね。

 

Dさん 人事は関係されないんですか。

 

Cさん うちはCEOCTOがエンジニアや研究系の出身で、採用する人はほぼ全員がエンジニアか研究者ですから、採用は技術系のトップでないと無理です。私では、面接で内容のある会話ができませんから。

 

Bさん 待遇の交渉とか、業績評価とか、まったく関与されないんですか。

 

Cさん もちろん、応募書類の管理とか、雇用契約の詳細を詰めるとか、毎月の給与支払い事務とか、年末調整とか、そういった実務的なことは担当スタッフとお願いしている社労士さんで処理してもらっています。人事に関する意思決定といいますか、経営レベルの人事には関わっていませんし、実務レベルは担当者と社外専門家に任せているという意味で、私はタッチしていないということです。

 

― CFOといっても個々の企業の事情によって、実に多様ですね。とはいっても、やはり資金関係の仕事というのは、皆さん共通していらっしゃると思います。

そこでお伺いしたいのですが、たとえば、VCや金融機関との折衝ごとは、顧客や社外専門家などとの折衝と違った難しさがあるように思われますが、いかがでしょうか。

 

Eさん VCと一口においいても、実に様々なものがあります。投資の規模も違いますし、それに応じて投資をする段階も違います。まずは、VCの特徴を理解してからですね。これまでの投資実績を見れば、だいたいのことはわかりますが。

 

Dさん 弊社は、VC3社入れています。ただ、投資していただいた時期は異なります。

最初のVCは、5年ほど前になりますが、創業者が多店舗展開をスタートした時期に、フランチャイズの仕組みに詳しい方がいらっしゃるところにお願いしました。投資額は大きくはありませんでしたが、経営のノウハウを得たいというほうが目的だったかもしれません。一時期、そのVCから非常勤の取締役を出していただいたこともあります。
 直近にお願いしたVCは、セントラルキッチンなどに投資する資金を調達する際に入っていただきました。このVCさんは、外食には投資されたことはなくて、これまでは海外進出とかM&Aなどに特徴をお持ちのところでした。

 

Bさん 弊社は、ただいま検討中です。既にいくつかのVCさんとミーティングをもちましたが、資本を増強することは皆さん理解していただくのですが、事業の方向性については、協議を進めている段階です。

 

― 金融機関との関係はいかがですか。

 

Aさん 金融機関こそ、多種多様です。

メガバンク、地銀、信金信組など、それぞれ規模も役割も違います。同じ金額を借り入れるにしても、個々の金融機関、さらに言えば、個々の支店にとっての意味が違いますから、相手の状況についても考えることが必要です。ベンチャーの場合、自社のことだけで精一杯で、なかなかそこまで目が行きとどかないかもしれません。

 

Cさん 忘れてならないのは、公的な金融機関です。政策金融公庫や東京都の中小企業制度融資などは、民間金融機関から融資を受ける前に利用すべきでしょう。融資のメニューも豊富ですから、起業や創業の際に利用して終わりでなく、事業を成長させるタイミングに応じて相談されるといいと思います。うちも何度か融資してもらっています。

 

― 起業する際にどの金融機関と付き合うほうがいいとか、特にありますか。

 

Bさん 弊社もそうだったのですが、最初は、起業する方とか会社の代表者などが、個人的に口座をもっているところに相談されるのがいいと思います。まったく関係のない金融機関と取引しようとしても、話は進みにくいでしょう。

 

― 仄聞するに、事業計画も提出先によって内容が違うとか?

 

Bさん 内容が違うというのは、ちょっと言い過ぎだと思います。資金を調達するといっても、出資を募るのと借入をお願いするのとでは、事業を説明する際に話の重点の置き方が違うのが当然です。

 

Eさん Bさんが言われた通り、出資と借入ではお願いする先が事業計画を見て判断するポイントが異なります。

VCなど出資を検討される際には、事業の成長性を重視します。事業計画でもその点を強調することになりますし、次に収益性を説明します。この点は他の皆さんも基本的には同じでしょう。

 

Aさん 借入となると、金融機関は返済能力を重視します。事業がどんなに成長して、将来儲かりますと言われても、約定通り、毎月、きちんと返済してくれないと困ります。

 

Dさん 極端なことを言えば、返済がきちんとされている限り、金融機関との関係は良好ですし、資金需要があるとなれば追加で融資をお願いすることもできます。それが遅れたり返済不能ということになれば、良好な関係というわけにはいきません。これは、大企業でもどこでも同じでしょう。

 

Eさん 一般論ですが、事業の成長を、スピード感をもって実現するつもりであれば、それを後押しできるだけの組織力とか資金力がしっかりしたところでないと難しいですね。

ベンチャーが取引する顧客にもよりますが、顧客層が幅広くなればなるほど、取引する金融機関も規模が必要です。インターネット専業銀行でも十分、対応できますが、大手の法人を主たる顧客にしていくのであれば、結局はメガバンクということになります。

 

― 助成金・補助金の活用は?

 

Cさん 創業から数年くらいでしょうか、ベンチャーを対象にしたものや小規模事業者を対象にしたものは、いくつも応募しました。それで資金繰りをつけていたわけではないのですが、結果として、自分たちの事業やサービスの特徴を第三者に理解しやすいように説明するテクニックは身についた気がします。うちは技術系のため、経営者が技術に素人の人に説明するのが苦手でしたが、いいトレーニングになったようです。

 

Aさん 今の会社だけでなく、以前いた会社でも特に申請したことはないですね。よく知らないということもありますが、資金はそれなりに調達していますから、利用したことはありません。

 

Bさん Aさんのところは資金面がしっかりされているからでしょう。うちあたりは大変です。リストラしたくても金がないという状況でしたから。

ただ、幸いなことに、まとまった金額の助成金が交付されるタイミングで、リストラに迫られることになりましたから、少しは助かりました。もし、2年前に助成金の申請が通っていなかったらと思うと、会社の存続自体がダメだったかもしれません。

 

(3)へ続く 

 

文章作成・編集:QMS+行政書士井田道子事務所(201718日更新)