(6)カルチャーを生きたものとし続けるには
前回までハブスポットのカルチャー・コードをご紹介してきましたが、そのなかで特に印象に残ったことを最後にコメントとして記します。
100枚を優に超えるスライドの中で最も記憶に残ったのは、「カルチャーは石に刻まれて置かれているものではない」(HCC-87)という標語です。
どういう会社や組織にも、意図してかどうかに関係なく、カルチャー(その組織にいる人たちがある程度共通してもっている行動様式や価値観の体系など)はあります。ただ、それを明文化して、こういうカルチャーでありたいと表明するだけでは、望むカルチャーが生み出されるわけではありません。
クレドなどを全社員に配布する会社もよくありますが、そうしたからといってカルチャーが醸成されるわけではありません。その組織のもつコミュニケーションの特徴によっては、下手をすれば、形式主義的なカルチャーに陥ってしまうおそれもあります。
カルチャーが日々の仕事の中で活かされていることが重要なのは、言うまでもありません。単なる標語では機能しません。
ハブスポットもそうした自覚や危惧があるからこそ、このスライドの中にこの1枚を入れたのでしょう。もちろん、このスライドを公開するというのも、カルチャーが現実に生きているものとなっているかどうか、絶えず見直すのに有効な手段のひとつでしょう。
ハブスポットらしいと感心せざるを得なかったのは、カルチャーに合う人が欲しいのではなく、カルチャーをさらに高めてくれる人が欲しいということ(HCC-86・88)です。
そのためには、既にあるカルチャーに合う人ばかりを採用して、共通したタイプの人材ばかりで構成される組織を目指してはだめです。明確なカルチャーがある組織というのは、筆者が知る限り、圧倒的に多くは(言語化できるかどうかはともかくとして)明らかに共通したタイプの人材が多くを占めるように思われます。ちょっとした振る舞いや言葉遣い、ときには外見からも、かなりの共通性を感じ取ることができるケースもあるくらいです。
しかし、ハブスポットはむしろ、その人の経歴(背景)や信念が多種多様であること(ダイバーシティ)が求められる(HCC-108)と考えて採用しているようです。これは、やはりアメリカの会社らしいと思われる点でもありますが、それ以上にグローバルにイノベーションを起こしていこうとするならば、ダイバーシティは組織が満たすべき必須の条件になっていると捉えるべき状況に来ているのでしょう。
ダイバーシティが女性や高齢者の活用とか外国人雇用など人事管理の一部として語られている日本企業の現状とは、かなりの差がついてしまっていると考えざるを得ません。
最後にひとつテクニカルなことに言及します。
それは、会社固有の略語(たとえば、SCRAPとかJ.E.D.I賞など)がよく現れますが、こうした言葉は、いわば仲間内(ハブスポット社内)で通用する言葉です。それはそれで、独自のカルチャーを作り出す要素の一部にはなります。その一方、紹介したスライドなどの資料をいくら公開しているとはいえ、社外では通用しない言葉であるということも事実です。
このあたりが、さらにオープンなカルチャーを目指すのであれば、見直していくべき点かもしれません。
文章作成:QMS代表 井田修(2016年11月15日更新)