HubSpot Culture Code : Creating A Lovable Company(4)

(4)バリューをさらに高める人こそ人材

 

はっきりとしたミッションとビジョンがあり、透明性を高くもった組織運営がされており、達成すべき結果にコミットするとしても、そこで働く人材が質量ともに存在しなければ、結果が実現されることはありません。

では、ハブスポットの人材にはどのような特徴があるのでしょうか。

その問いに対する答えは、第5のカルチャー・コードにあります。

すなわち、「最もよい処遇とは、驚くほどの人材とともに働くこと」というもので、今回ご紹介している資料はこのカルチャー・コードの説明に最も多くを割いていることからも、その重要性は理解できます。

 

さて、ハブスポットは、人材について、次の5つの特長をバリューとして掲げています(HCC-6980)。

 

謙虚‐己を知り、敬意をもって人に接する

こういう態度は、一見、自分に自信がないだけではないかと思われるかもしれません。しかし、己を知り、自己批判ができる人であって、傲慢ではない人こそが、ハブスポットの求める人材です。物事がうまくいけばその成果を他の人たちと分かち合い、うまくいかなければ自らその責任を負う、謙虚な人には、そういう傾向を見て取ることができるでしょう。

有能(仕事ができる)‐数字や付加価値をとにかく上げてみせる

針の目を縫うような困難な仕事であっても数字を叩きだして結果を上げてみせるし、数字の結果でないものであれば付加価値を生み出してみせる人です。予め先々の行動を見通して物事をさっと片づけたり、オーナーシップをもって(自分のこととして)仕事に当たったりします。また、次につながる経営資源を生み出したり、単に結果を出すだけでなく、そこにレバレッジを利かせて、より高いレベルで結果を出そうと工夫したりする人でもあります。

適応力がある‐適応するには自ら変化する

生来、好奇心が強く、絶えず変化し続ける人です。それは、一生学び続ける人でもあります。

目立つ‐単に注目を集めるということではない

セス・ゴーディン(注5)によると、優秀であること、人の役に立つこと、人を元気づけること、いずれかの点において、目立っていることが重要です。

透明性が高い‐知識の共有に積極的

他者に対してオープンで正直であり、自分自身についても同様である人です。もちろん、オープンといっても、個人的なことをぺらぺら喋ったり、人に告白を無理強いしたりするわけではありません。仕事を通じて得た自らの知識を、他者に気前よく教えたり共有に積極的であったりすることを意味します。

 

これらを一言でいえば、「ハートのある人が好ましい」ということになります。いささか安っぽい表現(HCC-80)ですが、そうしたところもハブスポットの特徴のひとつなのでしょう。

注目したいのは、これらのバリューが掲げられている順序です。「謙虚」が最初に来ています。筆者の偏見かもしれませんが、一般にアメリカの企業が求める人材といえば、結果は出すが自己アピールに長けており自信がスーツを着て歩いているような者、時には傲慢とも受け取られかねない言動もあるようなタイプ、というイメージではないでしょうか。そうしたステレオタイプの人材観を否定するバリューをハブスポットは掲げています。

 

こうした5つのバリューは、単にそれらをお題目として掲げているのではありません。ハブスポットは、これらのバリューをもつ人材に賭けているのです。実際、それらに基づいて、人材の採用・報奨・退職を行う(HCC-81)会社なのです。

たとえば、ハブスポットの社内表彰制度にJ.E.D.I賞(注6)があります。これは、静かに自分勝手なこともなく(文句を言わずに)、やるべきことをやって、ハブスポットを前進させた人に贈る賞(HCC-82)です。

採用についてみると、カルチャーの点で妥協する、つまり、スキルや経験を重視してカルチャーは二の次として人を採用するということは、会社の将来を担保にいれるようなものとして、間違ったやり方であると断言しています(HCC-83)。ハブスポットに限りませんが、会社は家族ではありません。会社は、ビジネスを進めるチームです。こうした認識は、ハブスポットだけでなく、ネットフリックスにも見られるもの(HCC-84)です。

したがって、ハブスポットの現状は、愚か者を採用しないように真剣に努力するのが精一杯のところ(HCC-85)かもしれません。しかし、採用した人に仕事を押し付ける(やらせる)誘惑に駆られても、そこは踏みとどまって、むしろ採用した人から教えられるものがあり、組織や人材の水準を向上させてくれるものを、絶えず求めるのがハブスポットです。カルチャーに合う人が欲しいのではなく、カルチャーをさらに高めてくれる人が欲しい、というのがこの会社の方針です(HCC-8688)。

 

報奨や処遇について言えば、ハブスポットは個人としての優秀性と市場価値に基づいて社員への投資を行っています。

個人としての優秀性というのは、文字通り、個人の能力を向上させてインディヴィデュアル・コントリビューター(個人として高度な成果を直接生み出すことで会社の業績に貢献する人)として、アッと驚くような結果を生み出す人になるということです。

ハブスポットにおけるもうひとつの進路は、インディヴィデュアル・コントリビューターに対して、特別なサポートをすることで、業績に貢献する人になる、いわばマネージャーとしての仕事で会社の業績に貢献する人です。

ちなみに、個人としての優秀性は、才能だけではだめで、強烈なコミットメントが必要と考えられます。言い換えれば、能力や実績だけで他社からヘッドハンティングしてくればいい、というものではありません。

こうした人材に対して会社ができることは限られていますが、ハブスポットでは次のような著名人(6)から直接学ぶ機会を用意しています。

 

クレイ・クリステンセン(「イノベーションのジレンマ」の著者)

エリック・リーズ(「リーン・スタートアップ」の著者)

パティ・マコード(ネットフリックスの元チーフ・ピープル・オフィサー)

デバル・パトリック(元マサチューセッツ州知事)

 

こうしたリーダーたちと個人的に言葉を交わす機会をハブトークス(HCC-96)というプログラムで設けています。

さらに、社員が学んだり仕事に取り組んだりする上で必要なものは何でも許可するという発想で、人事プログラムを運営しています。たとえば、読みたい本は読み放題(HCC-97経費申請不要でアマゾン・キンドルの個々の社員アカウントに本が出てくるもの)だったり、食事代も無料(HCC-98事前申請や許可は不要)です。ただし、真っ当な判断力を使え(Use Good JudgmentHCC-51)ということはありますが、それでちゃんと上場企業としての組織運営ができているようです。

 

こうした「驚くほどの人材」(インディヴィデュアル・コントリビューターやそれをサポートするマネージャー)に必要なのは、人事上の処遇ではなく仕事上の挑戦です。ありきたりな目標設定ではだめで、本気で取り組むに値する大きなテーマこそが重要です。では、そうしたテーマはどう考えれば設定できるのか、それが次のカルチャー・コードにつながります。

 

【注5

セス・ゴーディンはマーケティング関連の著作で有名なアメリカの著述家です。

詳しくは以下のサイトを参照してください。

http://sethgodin.com/sg/

 

【注6

Just Effing Does It”という標語の頭文字より。

 

【注7

それぞれの人物については、その著作やTEDなどを通じてご存知の方も多いと思います。詳しくは、ウィキペディアなどをご覧ください。

 

 

文章作成:QMS代表 井田修(2016 117日更新)